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46話 共同貯水槽

 共同貯水槽へ着くと、すでに調査班が測定に入っていた。


 槽の外周では、二人の職員が支持部の高さを取り直している。


 少し離れた場所では、貯水槽の担当者が過去の点検記録を広げていた。



「沈下、進んでいます」



 調査班の職員が測定具から顔を上げた。



「前回の点検値より下がっています。床の亀裂も、記録よりわずかに広がっています」



 レオンは支持部を見る。


 石の継ぎ目のずれ。


 根元から床へ伸びる細い亀裂。


 先ほど見たときと、外見だけなら大きくは変わっていない。


 だが、測れば進んでいる。


 槽の中には、今も大量の水が入っていた。


 その重さを受けたまま、この支持部は沈み続けている。



「この支持部だけ、もう一度見ます」



 レオンは石へ手を当てた。


 《断脈視》を使う。


 赤黒い線が、支持部の根元から床へ伸びている。


 そこまでは先ほどと同じだった。


 だが、今度は調べる場所が決まっている。


 線の先を追う。


 支持部の上。


 槽の荷重を受けている部分から、細い線が隣の支持部へ向かって枝分かれしていた。


 沈んでいる一か所だけでは終わらず、その周囲へ広がろうとしている。


 荷重の受け方まで変わっているのかもしれない。



「支持部の直上と、その両隣。三点で高さを取れますか」



 調査班の職員が位置を確認する。



「槽底の下面ですね」

「はい。今の高さの差を見たいです」



 《断脈視》で見える線だけでは、何が起きているかまでは決められない。


 調査班が測定へ回る。


 ミナは支持部側の記録を持ったまま、三点の位置を書き込んでいった。


 少しして、数字が揃う。



「中央、前回より下がっています」



 職員が記録板を見せた。



「沈んでいる支持部の直上が、一番大きく下がっています。片側もわずかに落ちています。反対側は、ほとんど変わっていません」



 ミナが支持部側の測定値と並べる。



「下だけじゃないんですね」

「はい」



 レオンは三点の位置を見る。


 支持部の沈下。


 床の亀裂。


 槽底下面の変位。


 三つが同じ側へ偏っている。



「支持部一つの問題としては見ない方がいいです」



 調査班の職員も記録を追った。



「このまま通常水位で使い続ける案件じゃありませんね」



 レオンはうなずいた。



     ◇



「水を全部抜くなら、負担は一番減ります」



 貯水槽の担当者が水位の目盛りを見た。



「ですが、この槽を止めると受け持ち区画の給水量が大きく落ちます。ほかから回せるのは一部だけです」

「全部は抜きません」



 レオンは答えた。



「給水を維持できる範囲で、水位を下げたいです」



 担当者がレオンを見る。



「どこまでですか」

「そこは、こちらでは決められません」



 レオンは水位の目盛りへ視線を向けた。



「この区画へ水を残せる下限を決めてください。その位置まで落として、支持部への荷重を減らします」



 担当者はすぐに手元の記録を確認した。


 現在の送水量。


 受け持ち区画。


 別系統から回せる量。


 一つずつ数字を追う。



「この位置までなら」



 指が、今より二つ下の目盛りで止まった。



「給水量は落ちます。ただ、別系統から一部を回せば、供給は維持できます」

「では、そこまでお願いします」



 担当者が職員へ指示を出した。


 流入を絞る。


 別系統へ連絡を回す。


 送水量を確認しながら、槽の水位を下げる。


 調査班はその間も測定を続けた。


 支持部。


 床の亀裂。


 槽底下面の三点。


 水位が一段下がる。


 ミナがその位置を記録する。


 さらに水位が落ちる。


 大きな水面が、目盛りを越えてゆっくり下がっていった。


 担当者のもとへ伝令が戻る。



「別系統からの振り替え、入りました。送水は維持できています」



 担当者がうなずく。



「ここで止めます」



 流入が調整される。


 水面の動きが少しずつ落ち着いた。


 レオンはもう一度、支持部へ手を当てる。


 赤黒い線は残っている。


 原因はまだ分からない。


 直し方も決まっていない。


 だが、隣へ伸びていた細い線は、先ほどよりわずかに薄くなっていた。


 荷重を減らしたことで、少なくとも広がる勢いは弱まっている。



「この水位を維持したまま、調査を続けてください」



 レオンが言う。



「通常水位へ戻すのは?」

「原因と影響範囲が分かるまで待ってください」



 貯水槽の担当者がうなずいた。



「分かりました。給水側はこちらで調整します」



 調査班の職員も記録板を閉じる。



「支持部の周囲をもう少し広く取ります。槽底下面も範囲を増やします」

「お願いします」



 修理はまだ始まっていない。


 だが、通常どおり使いながら調査を待つ状態ではなくなった。


 負荷を落とし、給水を残し、その条件で危険の範囲を調べる。


 少なくとも、沈下が進むまま通常運用を続ける状態からは外せた。



     ◇



 槽の外へ出ると、通りの水場にはまだ人が並んでいた。


 いつもより水の勢いは弱い。


 それでも、桶には水が落ちている。


 貯水槽の担当者が、各水場へ供給量が落ちることを知らせる職員を回していた。



「止めずに済みましたね」



 ミナが言った。



「今は、です」



 レオンは答えた。


 完全に水を抜けば、支持部への負担はもっと減らせる。


 だが、その代わりに、この区画の給水を大きく落とすことになる。


 今はそこまでしなくても、負荷を減らせる。


 水を残しながら、詳しく調べる時間を作った。


 次に必要なのは、沈下している範囲と、その原因を確かめることだった。


 そのとき、通りの向こうから復興局の伝令が走ってきた。



「レオンさん! 擁壁の調査班からです!」



 伝令は息を整える間もなく、記録板を差し出した。



「道路側の沈みが、見えていた範囲より広いそうです。荷車の通行をこのまま続けるか、現場で判断を求めています」



 レオンは記録を受け取った。



「行きましょう」



 レオンはミナを見る。


 五件のうち、二件。


 一件目は、後へ回せる現場ではなかった。


 そしてもう一件も、すぐに判断が必要になっていた。


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