40話 三本の灯り
少し先の魔力灯が、明るさを落とし、戻した。
高架水路の補修を終え、現場を離れようとしていたレオンは足を止めた。
「今の、見ました?」
「見ました」
ミナも通りの先を見ている。
水路の下では、オスカーの職人たちが測定具と仮受け材を片づけ始めていた。
だが、オスカーも帰ろうとはしなかった。
明滅した魔力灯を見上げている。
「一つじゃないな」
「はい」
最初に消えた一本。
少し先で明滅した一本。
レオンが通りを見渡していると、さらに先の交差路に立つ灯りが一瞬だけ暗くなった。
「三本目です」
ほかの魔力灯は点いたままだった。
通り全体が暗くなったわけではない。
異常が出ているのは三本だけだった。
レオンは一番近い魔力灯へ歩いた。
石造りの柱。
上部に取り付けられた灯具。
外から見える範囲に割れや欠けはない。
柱の根元にも、傾きや衝突の跡はなかった。
「オスカーさん。この辺りの魔力灯は、どこが見ていますか」
「街路灯係です」
オスカーは振り返り、片づけをしていた職人の一人を呼んだ。
「街路灯係へ連絡してくれ。この通りで三本、明滅している。補修履歴も持ってきてもらえ」
職人が走っていく。
レオンは残る二本も順に確認した。
三本とも、外から見える範囲に断脈はない。
内部を詳しく見る前に、先に確かめることがあった。
◇
街路灯係の職員が、補修記録を抱えてやってきた。
オスカーは三本の位置を示す。
「この三本です。最近、同じ報告は?」
「あります」
職員は記録をめくり、二か所を指した。
「ここと、こっちは同じ症状で一度交換しています」
「交換って、灯具だけですか?」
「いえ。柱の上の灯具一式です。内部もまとめて替えています」
レオンは二本の魔力灯を見た。
見た目だけでは分からなかったが、二本はすでに交換されている。
「交換後は?」
「試験点灯では正常でした。その後もしばらく報告はありません」
「中継側は?」
「確認済みです。その時点では異常はありませんでした」
点検に入ったときには明滅も再現していなかったという。
灯具を替えれば正常に戻り、中継側にも異常はない。
その時点で灯具の不調と判断したこと自体はおかしくない。
だが、今は違う。
二本は交換後に再発している。
「三本目は?」
「交換していません。前の点検でも異常なしです」
新しい灯具が二本。
交換していない灯具が一本。
それが今、同じ時間帯に似た異常を出している。
「三本に共通するものは?」
レオンが聞く。
職員は補修記録の後ろに挟まれていた系統図を開いた。
通りに並ぶ魔力灯から、線が一つの場所へ集まっている。
「ここです。この区画の街路灯は、いったん中継装置で受けてから各通りへ分けています。この三本は同じ系統です」
「位置は?」
「三本とも、その系統の末端側です」
オスカーが系統図を見る。
「中継はどこだ」
「一本裏の通りです」
「なら、先にそっちを見る」
灯具を一つずつ開くより早い。
レオンもうなずいた。
◇
街路灯用の中継装置は、一本裏の通りにあった。
建物の壁際に据えられた、背丈ほどの石造りの設備だった。
正面の扉を街路灯係の職員が開く。
内部には魔石と、いくつもの術式部品が収められている。
低い駆動音が途切れず響いていた。
「止まってはいません」
職員が測定具を当てる。
位置を変え、もう一度確認する。
「出力、規定内です」
オスカーも測定具を受け取った。
一度測る。
別の測定位置でも確かめる。
「同じだな」
中継装置は動いている。
街路灯側へ送っている魔力も、今は規定の範囲に入っている。
それでも、さっき三本の灯りが明滅した。
「調整部も見ます」
オスカーが内部を指した。
「入力が多少動いても、街路灯へ出す側をここで合わせます」
職員が小さな覆いを外した。
その奥で、いくつかの術式部品が組み合わされている。
見た目に焼けや欠けはない。
異音もない。
オスカーが作動を確かめる。
「動きもおかしくない」
正常だった。
少なくとも、今測れている数字では。
レオンは装置の外枠へ手を当てた。
《断脈視》の見え方が変わる。
石の外装の向こう。
術式部品が集まり、出力を整える部分。
その正常に動いている調整部へ、赤黒い線が走っていた。
一本ではない。
細い線が何本も同じ場所へ集まり、調整部を囲むように伸びている。
表からは壊れていない。
今も動いている。
測れば、出力も規定内にある。
それでも、《断脈視》にははっきり見えた。
ここが壊れる。
「オスカーさん。この調整部に断脈があります」
オスカーの表情が変わった。
すぐに職員へ向き直る。
「この装置が止まったら、どこまで落ちる」
「この系統へ出している街路灯は全部です」
三本だけではない。
今、明滅しているのは末端側の三本だけだ。
だが、中継装置そのものが壊れれば、その先へ魔力を分けられなくなる。
通りの灯り一つの故障では済まない。
周囲では、日が落ちても店を閉める人や荷車を引く人が行き交っている。
この辺りの灯りがまとめて落ちれば、日が落ちたあとの店も、人の流れも変わる。
今は三本が明滅しているだけだった。
だが、壊れる場所はそこではなかった。
「停止させますか?」
街路灯係の職員が聞いた。
レオンはすぐには答えなかった。
今の中継装置は、測定上は動いている。
何が調整部へ負担を掛けているのかも分からない。
ここで装置だけ交換しても、二本の灯具と同じことになる可能性がある。
「止められる準備はしてください。ただ、止める前に一度、明滅した瞬間の動きを取りたいです」
「出力が規定を外れるか、明滅が続くようなら、その時点で止める」
オスカーが言った。
「お願いします」
「なら、明滅した瞬間を取るぞ」
中継装置が正常に動いているときだけ見ても、分からない。
レオンはもう一度、調整部を見る。
赤黒い線は消えていない。
正常に動いている中継装置が、なぜ壊れかけているのか。
次に調べるのは、その上流だった。




