『親友エイプリルの回想と証言』 / 序章より抜粋
エイプリル・グローハウンド。
待ち合わせ場所に現れた老人は、筆者としては思いの他に普通の人物のように見えた。
あの虐殺者アゴーニアを匿っていたにしては──いや、だからこそなのだろうか。風になびく白い長髪と、優しげに揺れる黒の瞳。老齢のせいか動きは鈍かったものの、その端々からは偉大なる冒険家の一端を垣間見ることができた。
実際、このインタビューを行っている筆者もまた……彼の記した冒険録の読者の一人だ。だからこそ、こうして訊かずにはいられなかった。
『……あぁ、分かっているよ。そう遠慮しなくていい、僕は何でも答えよう』
流れていた風評の通り、彼は穏やかな人物だった。
それこそ、あの大犯罪者を匿っていたとは思えないほどに。
実のところ、このインタビューに至るまでに行った膨大な資料調査や、この数日で交わしたやり取りはいくつもある。
ただ、その解説は後文に回すとして──この序章では、ひとつだけ。彼とのやり取りの中で、最も印象に残っているものを抜粋しようと思う。
『あぁ。そう、だね。君の疑問も尤もなものだ』
筆者は聞いたのだ。
どうして──どうして。あの虐殺者アゴーニアと共にいたというのに、寝首を掻くチャンスなどいくらでもあっただろうに。これは後年の調査によって分かったことだが……秘境冒険家エイプリルが設けた最初の妻と娘もまた、あの政策により拷問の末に殺されているというのに。
どうしてアゴーニアを殺さなかったのか、筆者がそう尋ねたのなら。目を細めて微笑んだ後、白髪の老人はこう答えてくれた。
『友達だったから。』
このようにして、当初では虐殺者アゴーニアの素顔に迫っていこうと思う。
先に断っておくが、筆者ランツィルネもまた半森人の一人だ。そんな私が行っていると来れば、この取材には多数の困難が付き纏った。この場を借りて、海洋冒険家イレーネ氏と探索者ジャック、──────には格別の感謝を──
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──帝国歴三八〇六年発行 、『アゴーニア・ペルディツィオの冒険: 親友エイプリルの回想と証言』より。
────フィーシード第三森人共和国 イルフィリア州立図書館蔵。
【注:この蔵書は国家により管理されているものです。破壊・改変を試みた場合には、フィーシード刑法により規定通りの罰金刑が──




