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画像生成AIの男爵令嬢は、存在しない罪を描く  作者: ゲント・カイ


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第6章 声を持つ偽物

エレノアは気づき始めている。


その事実は、ミレーユを焦らせた。


時間を掛ければ危険だ。


ならば、反論する余地を奪うほど決定的な証拠を作ればいい。


そこでミレーユは、最後の機能に手を伸ばした。


音声。


人の声を模倣させるには、その人物が話している記録が必要だった。


幸い、エレノアは王太子の婚約者だ。


学院の演説、王家主催の慈善会、領地政策についての公開討論。


声を記録した映写石はいくつも存在した。


ミレーユは学院資料室から借り出し、何度も聞いた。


落ち着いた声。


言葉の間。


語尾。


感情が強くなったときの微かな息遣いまで覚える。


そして命じた。


――エレノア・グランフェルトの声。


最初は似ていなかった。


何度も修正する。


低すぎる。


もう少し柔らかく。


語尾を伸ばさない。


笑わない。


繰り返すうち、目を閉じれば本人と区別できないほどになった。


ミレーユは三分間の映像を作った。


薄暗い部屋。


エレノアと帝国書記官が向かい合う。


『北部の防衛線については、こちらで確認しました』


映像のエレノアが話す。


『国王陛下が退けば、殿下は自由になります』


『そのためには、多少の混乱も必要でしょう』


ミレーユ自身、再生しながら背筋が寒くなった。


本物にしか見えない。


本人が見ても、自分ではないと証明できないのではないか。


今回は匿名では送らなかった。


王宮へ直接持ち込むには危険がある。


そこで、以前使った裏商人へ金を渡した。


「北門近くの礼拝堂へ置いてください」


「中身は?」


「知らない方がよろしいです」


男は肩をすくめた。


「貴族様の遊びには関わりたくねえな」


翌朝、映写石は礼拝堂の司祭によって発見された。


そこから王都は一変した。


王国筆頭の公爵家の令嬢。


王太子の婚約者。


その人物が敵国と通じ、国王の退位まで口にしている。


もはや学院内の嫌がらせではない。


反逆事件だった。


グランフェルト公爵家の王都屋敷には騎士が入り、書庫が調べられた。


エレノアは自宅謹慎を命じられた。


公爵本人も王宮へ呼ばれた。


アドリアンは数日間、学院へ姿を見せなかった。


そして一週間後。


ミレーユのもとへ王家の使者が来た。


「殿下がお呼びです」


王城の庭園で、アドリアンは一人立っていた。


秋が近い。


薔薇の花はすでに盛りを過ぎていた。


「映像を見た」


アドリアンは言った。


「……そうですか」


「声も、顔も、すべてエレノアだった」


ミレーユは黙る。


「僕は、何年も彼女を知っている」


アドリアンの手が強く握られている。


「幼い頃からだ。勉強も、剣術も、外交儀礼も一緒に学んだ。王になるなら、隣にいるのは彼女だと思っていた」


苦しげな声だった。


ミレーユは胸の内に小さな棘を感じた。


それでも近づいた。


「殿下」


「それなのに、映像を見た瞬間……僕には否定できなかった」


アドリアンが顔を覆う。


「信じたい相手より、目の前の映像を信じた」


ミレーユは手を伸ばしかけ、やめた。


「それは……殿下がお悪いのではありません」


「そうだろうか」


「誰だって同じです」


それは、ミレーユ自身が最もよく知っている。


人は目で見たものを信じる。


「真実を受け入れることも、王族の責務ではないでしょうか」


アドリアンは長く黙った。


やがて静かに言う。


「婚約を解消する」


ミレーユの心臓が大きく脈打った。


「まだ正式には決まっていない。だが、国家反逆の疑いを持つ家から王妃を迎えることはできない」


ついに。


長く遠かったものが、目の前まで来た。


ミレーユは俯き、喜びを隠す。


「……お辛い決断だと思います」


「ああ」


「私は、殿下をお支えいたします」


アドリアンの視線がこちらへ向いた。


それだけで、ミレーユは未来を確信した。


エレノアが消えれば、自分が隣へ行ける。


王妃になる。


あの夜、画像の中でしか存在しなかった自分が、本物になる。


だが同じ頃。


グランフェルト公爵邸では、エレノアが大量の画像と映像を机の上へ並べていた。


「お嬢様」


老侍女が不安そうに声を掛ける。


「もうお休みになった方が」


「これだけ確認したら寝るわ」


エレノアは映像を止めた。


画面には、自分が帝国書記官へ封書を渡す瞬間が映っている。


「……やっぱり」


「何か?」


「この日の私は、このドレスを着ていた」


「はい」


「この映像でも同じ」


「では」


「でも、作った本人は、このドレスについて知らないことがある」


エレノアの指が、映像の袖へ触れた。


表情が変わる。


「もし次に、これより決定的な映像を作ろうとするなら」


彼女は小さく息を吐いた。


「今度こそ、捕まえられるかもしれない」


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