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画像生成AIの男爵令嬢は、存在しない罪を描く  作者: ゲント・カイ


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第5章 動く嘘

最初の動画は酷い出来だった。


エレノアが歩いている途中で、ドレスの袖が突然長くなった。


三歩進むうちに髪飾りが消え、指輪が右手から左手へ移る。


口は動くが声と合わない。


背景を横切る侍女の顔は途中で別人になった。


「……使えない」


ミレーユは机へ額を押しつけた。


だが、諦めなかった。


静止画も最初は同じだった。


生成し、失敗を探し、言葉を変える。


それを繰り返す。


「髪飾りは変化しない」


「衣装を固定」


「指輪は右手薬指」


「歩行中に顔を変えない」


「背景人物を増やさない」


数十回。


百回。


魔力が尽きれば眠り、翌日また続ける。


一か月後。


ミレーユは三十秒ほどの動画を安定して生成できるようになっていた。


王国では、《映写石》と呼ばれる魔道具が存在する。


写景板の動画版だ。


王宮会議や外交交渉など、重要な場面の記録にしか使われないほど高価だった。


だが一度記録された映像は、決定的な証拠として扱われる。


静止画とは違い、映像を映写石へ偽装転写するには、ミレーユの恩寵だけでは足りなかった。


そこで彼女は、違法な魔道具を扱う王都の裏商人へ金を払い、映像転写器を手に入れた。


男爵家の一年分に近い小遣いを使った。


それでも惜しくなかった。


最初に作ったのは、エレノアが外国使節へ封筒を渡す映像だった。


場所は、実際に外国使節団が滞在していた王都の迎賓館。


日時も、エレノアが公爵家の用事で近くを訪れていた時間を選んだ。


男の顔は、王国に実在する帝国書記官を参考にした。


音声はつけなかった。


映像だけで十分だった。


映写石は、匿名の荷物として宰相府へ送った。


三日後、学院へ王宮騎士がやって来た。


エレノアは授業中に呼び出された。


その背中を、誰も声を掛けずに見送った。


午後には、学院全体が事件を知っていた。


「帝国の役人へ何か渡していたらしい」


「映像があるって」


「やっぱり今までの画像も本物だったのね」


ミレーユは黙って聞いた。


胸の奥が熱くなる。


勝てる。


もうエレノアは逃げられない。


その日の夕方、エレノアが学院へ戻ってきた。


誰も近寄ろうとしない。


友人だった令嬢たちですら、遠巻きに見ている。


ミレーユは回廊の向こうから、その姿を見つめた。


エレノアは以前と変わらず背筋を伸ばして歩いていた。


だが、目元には疲労が浮かんでいる。


その視線がミレーユを捉えた。


二人の距離は十歩ほど。


先に歩み寄ってきたのは、エレノアだった。


「映像を見たわ」


「そうですか」


「見事だった」


予想外の言葉に、ミレーユは眉を動かした。


「何をおっしゃっているのですか」


「私自身ですら、一瞬、自分が忘れている出来事なのではないかと思ったほどよ」


エレノアの声は低かった。


「けれど、私はあの男と会ったことがない」


「では、映像が間違っているのですね」


「ええ」


迷いなく答える。


「あなたは、本当に強い方ですね」


皮肉を込める。


しかしエレノアは怒らなかった。


「強くなどないわ」


わずかに視線を落とす。


「毎晩、自分の記憶を疑っている。私が何か忘れているのではないか。知らないうちに何かしたのではないか。映像の中の自分を見続けていると、そう思えてくるの」


ミレーユの指先が冷たくなった。


初めて、相手が受けている苦痛を具体的に想像してしまった。


「でも」


エレノアは顔を上げた。


「だからこそ、調べるのをやめない」


視線が鋭くなる。


「現実と映像が違うのなら、どちらかに理由があるはずだから」


「頑張ってくださいませ」


「ええ。そうする」


すれ違う。


数歩進んだところで、エレノアが立ち止まった。


「一つだけ」


振り返らずに言う。


「最近の画像には、以前あった奇妙な間違いがほとんどなくなったわ」


ミレーユの呼吸が止まりかけた。


「最初の葡萄酒の画像。窓に映った校舎の尖塔が左右逆だった」


背中を向けたまま、エレノアは続けた。


「その次の画像では、私の銀狼の紋章が二頭だった。本当は三頭。侍女と一緒の画像では、私の指輪が左手についていた」


「何を……」


「でも最近はない」


ようやくエレノアが振り返った。


「まるで、誰かが失敗から学んでいるみたいに」


それだけ言うと、今度こそ去っていった。


ミレーユは、その場からしばらく動けなかった。


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