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第21話 キューちゃん、世間に見つかる


 公式ダンジョンに行ってから何日か経って……。


 野良ダンジョンから帰ってきたばかりなのに、ちゃぶ台の上には焼き菓子。


 布の上には、さっき拾ってきたアミュレットと、魔力の抜けかけた小さな結晶。


 そしてルミナは、クッションを抱えたまま、完全に人の家でくつろいでいた。


 おかしいだろ、この空気!


「今日の野良、意外とおいしかったねー♡」


「拾えたね! このアミュレットとか、ちょっと売れそう!」


「活動資金ゲットだねー☆」


「キュー」


 活動資金は大事だ。


 それは大事なんだが、なぜダンジョン帰りが女子会みたいになっているんだ。


 俺がソファに腰を下ろすと、ルミナがすぐに身を乗り出した。


「はいはーい! それじゃ動画の反応確認いこっかー☆」


 もう完全にメンバーって感じだ。


 事務所(クラン)に入ってないソロのトップ級配信者だったのに……。


「見る!」


 こよみがタブレットを抱えて、床にぺたんと座る。


「キューちゃん、こっちこっち!」 


「キュー」


 俺は素直に身を乗り出した。


 見る。それは見る。


 反応は普通に気になる!


 こよみが画面を操作すると、切り抜き一覧がずらっと並んだ。


『トップ配信者たちキューちゃんを奪い合う』

『謎のキグルミキューちゃん、また無言で空気を変える』

『共鳴水晶回廊、事故寸前だった説』

『白い怪異、お手柄! 管理機構に依頼された探索者が浅層の魔物討伐』


「キュ!?」


 最後の何だよ!


「白い怪異……!」


 こよみが真剣にうなずく。


「ちょっと分かるかも!」


「キュー!?」


 分からないでほしい!


 俺が頭を抱えると、こよみが次の切り抜きを開いた。


『ルミナが初めて『見守る側』になった回』


「えー! 初めては言いすぎでしょー!」


「でも、見てる人にはそう見えたんだよ!」


 こよみは、違う動画を見て声を上げた。


「あっ、や〜ねるさんも触れてる!」


 こよみが画面を切り替えた。


 有名Vdleのや〜ねる。俺でも知ってる。


 や〜ねるはダンジョン配信とは関係ないが、俺たちの切り抜きを見たらしい。


『このキグルミ、意味わかんないけど空気いいんだよね』


『ただ強いだけじゃなくて、なんか見ちゃう』


『一緒にいる子たち含めてバランスがいい』


『朝番に出しても大丈夫って感じ』


「……朝に出しても平気?」


 こよみが目をぱちぱちさせる。


「それ、すごくない?」


「すごいねー⭐︎」


 ルミナがうなずく。


「ダンジョン配信って、怖いとか危ないとかで避けられることも多いからねー。探索者が朝でもいけるって、かなり外向き評価だよ」


「外向き評価……!」


 こよみが俺を見る。


「キューちゃん、朝でもいけるって⭐︎」


「キュー?」


 朝でもいけるとは何だ。


 俺はステーキか何かなのか。


 いや……ステーキは朝からいけないか……。


「朝キューちゃん!」


 なんか言い出した。


「朝に一匹、白もふを!」


「キュキュー!?」


「健康食品みたいじゃんー!」


 やめてほしい。


 俺は栄養補助食品ではない。


「でも、『一緒にいる子たち含めてバランスがいい』って言ってる。これ、こよみちゃんも褒められてるじゃーん♡」


「わ、わたしも!?」


「そーそー。こよみちゃんがいるから、キューちゃんが怖くなりすぎないんだよね」


「わたし、怖さ軽減パーツ……?」


「キュー!」


 こよみは俺を見て、少し嬉しそうに笑った。


「分かった!」


 こよみが急に手を打った。


「キューちゃんって、『見れば見るほどじわじわ効くタイプの異常』なんだよ!」


 そんなNo.173の異常みたいな……。


「あっ、ごめん! 今のはちょっと切り抜き見出しっぽかった!」


「『じわじわ効くタイプの異常』、めっちゃタイトル向きだよー⭐︎」


 やめてほしい!


 せっかくまともなやつだと見られてきたのに!


「でもさー、や〜ねる、言い方うまー。これかなり好意的だよ。しかも一般寄りの人にも伝わるまとめ方してるし」


「一般寄り……」


 こよみがその言葉を繰り返す。


「それって、『配信見てる人の中だけ』じゃなくなってきてるってこと?」


「そういうことー☆」


 ルミナが笑う。


「ここから先は、ダンジョン配信界隈以外にどう見えるかもかなり大事になってくるよ」


 流石トップクラス配信者だ。


 その辺の戦略もしっかり考えてる。


 デッドラインはとにかくダンジョン配信界隈を意識したものだった。


 だから一般にはあまり広まっていない。


 しかし……。


 少しだけ背筋が伸びた。


 こうして言葉にされると、ぐっと現実になる。


 こよみはさらにコメント一覧を流していく。


『でかいのに圧が嫌な方向に行かないの不思議』

『こよみちゃんの解釈込みで見てて楽しい』

『ルミナがあそこまで素直に認めるの珍しい』

『嫌そうなのに最後はちゃんとやるの好き』


 確かに短文ではないコメントも増えてきた。


 茶化すコメントはほとんどない。


 そんなことを考えていると、こよみが通知欄を開いて、驚きの表情を浮かべた。


 指がぴたりと止まる。


「……え?」


 その声で、俺も画面を見る。


 メール通知。件名の最初に並んでいた単語に、今度は本気で固まった。

 

『朝の情報番組。出演相談』


 朝の情報番組からの出演相談。


 それは、俺たちが完全に『世間』へ見つかり始めた合図だった。


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