第17話 廃止の申し立て
申し立ての写しが届きましたのは、三日後でございます。
――西街道灰の駅について、継立所としての廃止を申し立てる。理由、一。保有馬二頭のうち一頭は借り受けであり資産でない。二。駅の設備が老朽し、冬季の停車に耐えない。三。石橋駅にて代行した二か月のあいだ、遅延も苦情も生じなかった。石橋駅 駅逓頭 ユーゴー・メルシエ
三つ目が、いちばんこたえました。
そのとおりでございます。灰の駅が継がなくても、便は通っておりました。通っていたのですから、要らないと言われれば、返す言葉がございません。
「駅長。飯だ」
ギュンターが土間に椀を置きました。
「ありがとう存じます」
「食え」
「はい」
「食ってから考えろ」
わたくしは食べて、それから帳面を全部出しました。
三年ぶんの帳面。お祖母様の板。自分で線を引いた三か月ぶんの紙。
三つ目の理由——遅延も苦情も生じなかった——を崩すには、生じたことを示すしかございません。けれど、生じておりません。ラウルは毎週きちんと走っておりました。
二つ目——設備の老朽——は、直せば済むことでございます。直す金がございませんが、それは今日の話ではございません。
一つ目——借り受けの馬——は、規定に書いていないところでございます。
わたくしは羽根を取り、三つを紙に書き出しました。書き出してから、四つ目の欄を作りました。「こちらから言えること」でございます。
欄を作りますと、埋めたくなります。
埋まりましたのは、一つだけでございました。
――三か月のあいだ、十七番の郵袋は四斤重くなった。
それだけでございます。これは苦情ではございません。遅延でもございません。ただの重さでございます。
わたくしは自分で線を引いた紙を、はじめから見直しました。十四行。日付、便、袋の番、札の重さ、秤の重さ。
見ておりまして、一つ気づきました。
札の重さと秤の重さが合っている日と、合っていない日がございます。合っていない日は、この二か月で三日。三日とも、灰の駅が継いでいない日でございます。石橋から持ち帰った村宛の分を、わたくしが駅で受け取って、秤に載せた日でございました。
その三日の差は、三斤でも四斤でもございません。
二斤、二斤、二斤でございました。
「ギュンター。二斤は、何の重さでございましょう」
「知らん」
「封蝋一本は、どれくらいでございますか」
ギュンターは引き出しから棒を一本出して、秤に載せました。
「四分の一斤だ」
「では、蝋ではございませんね」
わたくしは棚の前に立ちました。
束が四つ。差出人のない一通。木箱。書面の写し。文が二通。帳面に挟んだ書状。
――そして、石橋から持ち帰って、村へお渡しする前の文が、いま七通ございます。
わたくしはその七通を秤に載せました。合わせて、半斤ほどでございます。
「七通で半斤でございますから、二斤ですと、二十八通ほどでございましょうか」
「多いな」
「多うございます」
村は十九軒でございます。二十八通の文が、一度に村へ来ることはございません。
では、その二十八通ぶんは、どこへ行っているのでございましょう。
二斤という重さを、わたくしはもう一度確かめました。
紙の重さは、厚みと大きさで変わります。村の方がお使いになるのは粗い紙で、局紙より重うございます。七通で半斤ということは、一通あたり一斤の十四分の一ほど。二斤でしたら、二十八通。
ただ、これは村の紙で計算した数でございます。局紙でしたら、もっと多くなります。三十通か、それ以上でございましょう。
わたくしは計算を紙に書き、その下に「概算。紙質により増減」と書き添えました。書き添えておきませんと、あとで自分がこの数を確かなものだと思い込みます。三年のあいだに、何度かそれをいたしました。
その晩、ティナが参りました。
「駅長さん。婆さまがね、また息子から返事が来ないって」
「前の返事は、いつでございましたか」
「二か月前。それから婆さま、二回書いたよ。あたしが書いた」
「二回とも、駅からお出しになりましたか」
「一回目は駅。二回目は、駅長さんが石橋に行ってた日だったから、村の人が石橋に持っていった」
わたくしは羽根を置きました。
「ティナ。村の方で、石橋へ直接お出しになった手紙が、他にもございますか」
「あるよ。冬のあいだ、駅が継いでなかったから、みんな石橋に持ってった」
「何通ほどでございましょう」
「数えてない。でも、けっこう」
「返事は、来ておりますか」
ティナは口を開けて、それから閉じました。
「……来てない、かも」
数え方を、先に決めました。
村を回って「返事が来ましたか」と伺いますと、来たかどうかは分かりますが、いつ出したかが曖昧になります。曖昧な数は、申し立てに使えません。
ですから、三つだけ伺うことにいたしました。一つ、冬のあいだに手紙をお出しになりましたか。二つ、何通でございますか。三つ、どちらへお持ちになりましたか。灰の駅か、石橋か。
返事の有無は、四つ目に伺います。四つ目を先に伺いますと、来ていない方が答えにくくなります。
紙を四つの欄に分け、十九軒ぶんの行を引きました。行を引いておきますと、伺い忘れた家が空欄で残ります。空欄で残れば、あとで戻れます。
わたくしは翌朝、村を回りました。
十九軒のうち、冬のあいだに手紙を出された家が十一軒。石橋へ直接持っていかれた分が、合わせて三十四通でございます。
返事が来た家は、二軒でございました。
灰の駅から出した分は、この二か月で二十二通。返事が来た家は、十六軒中十一軒でございます。
わたくしは村の井戸端で、紙にその数を書きつけました。書きながら、手が震えておりました。寒さではございません。
これは苦情でございます。
三十四通のうち三十二通が、どこかで止まっております。止まっているのは、灰の駅が継いでいなかった二か月のあいだの分でございます。
わたくしは駅へ戻り、羽根を取りました。
申し立てには、書き方がございます。三年のあいだ、屋敷へ上がってくる願い書を毎日読んでおりましたので、通る書き方と通らない書き方が分かります。
通らないのは、困っていることを書いたものでございます。困っている者は世に多うございますので、読む側は順番をつけるしかございません。通るのは、確かめられることだけを書いたものでございます。
わたくしは三つ書きました。
一つ、冬季の二か月間に村より発せられた書状は三十四通。二つ、うち返信の到達は二通。三つ、同期間に灰の駅より発せられた書状は二十二通、返信の到達は十一通。
困っているとは書きませんでした。
――王都駅逓局監査 ベアトリス・ダルク様。灰の駅より、苦情の申し立てを一件、提出いたします。
次話「ティナの字」では、三十四通の行方を調べに、ダルク様が石橋へ入られます。
石橋の帳場から出てきたのは、ティナの字で書かれた手紙の束でございました。




