事件の終わり
「それで、その男はどうなったんですか?」
小鈴は、目の前に座る鈴鹿に尋ねた。畳敷きの部屋の中、座卓を囲み鈴鹿の土産話を聞いていたのである。
事件は終わり、鈴鹿は自分の屋敷へと戻ってきていた。
「うん? 桜命館に電話して、男を回収してもらって。それで、終わり。その後は、どうなったか分かんない」
そう言うと、鈴鹿はお茶請けのお菓子を手に取る。『夜のお菓子』というキャッチフレーズで知られたものだ。悪路王との戦いの後、もう一日、桜命館に泊まったその帰りに、ミュンヒたちがお土産として持たせてくれたものであった。
袋を開け、香ばしく焼かれた細長いパイをかじり、緑茶を一口すする。
「ああ~。やっぱり、これにはお茶が合うね。いくらでも、食べられちゃうよ」
鈴鹿の前には、すでに空となった袋が4つほどまとめられていた。
「まあ、でも。どうかな……。あの様子じゃあ、話を聞くっていうのも無理だろうし。悪いのは妖刀だったってことで、決着つけるかもね」
「そうなんですか?」
「たぶんね。あの姿になったのは妖刀の呪いのせいだって、私が妖警に言っちゃったから」
「悪路王のことは、話さず?」
「うん。そっちの方が、都合が好いと思ったから。あの刀、事件の証拠として保管されると思うからさ。妖力を吸収するなんて世間に知れたら、絶対に使おうとするやつが現れるでしょ。でも、そんな強い呪いだったら、誰も近づこうと思わないかなって。次の被害者を出さないための保険みたいなものだよ」
「確かに。強くなっても、意味ないですものね」
「そうそう。それに、悪路王のことまで話すと面倒じゃない。何で悪路王が降りてきたのか、とか。本当は、私が悪路王と戦うために仕組んだんじゃないのか、とか」
「ええ? そんなこと言う人、いますか?」
「これが、いるんだって。小鈴は、そんなことないの?」
「私は、今の所、そんな人に当たったことはないですね」
そう言って、小鈴も二袋目の『夜のお菓子』に手を付ける。鈴鹿も、次の袋を開けていた。
「それよりも、桜命館のちびっ子二人だよ。かわいかった~。小鈴の小さい頃を、思い出すよね」
「どれだけ前のことですか」
事件を解決し、桜命館にもう一泊した際、鈴鹿はリンカとミカの二人と一日中遊んでいたのである。帰り際などは、今度は何時遊びに来てくれるのかと、足にしがみついて離れないほどであった。
「今月、また向こうの方に行くじゃない。その時は、一緒に寄ろうよ。もうホント、堪らないから」
その時、廊下を走る音が聞こえてくる。トトトッと、軽い音を響かせて二人のいる部屋の前まで来ると、それは止まり、声を掛けてきた。
「鈴鹿様。お手紙が届いています」
「ん。入って~」
「はい。失礼します」
一人の小鬼が、障子を開けて入ってくる。その手には、一通の白い封筒があった。
「誰から?」
「はい。玉藻前様からです」
「ほら、噂をすればって奴だよ」
そう言って、鈴鹿は受け取った封筒を開ける。その手紙は、今度の秋分の日に行われる集会の招待状だった。
それは、『御前会』という名の、御前と呼ばれる者たちが集う会である。年回りで当番が回っていくのだが、今年は玉藻前が当番なのであった。
そして、玉藻前の屋敷は、鈴鹿の屋敷から見て桜命館よりも東に位置している。そのついでに、リンカとミカに会いに行こうと、鈴鹿は考えていたのだった。
「いやあ、楽しみだね。そういえば、着物。まだ、何着ていくか決めてないっけ」
「土壇場になっては、嫌ですからね。今の内に、決めてしまいましょう」
「そうだね」
御前会への参加は、和装が決まりとなっていた。一時は、洋装での参加も許されていたが、皆の屋敷が畳敷きで、座ると見栄えが今一つになるということで、和装を正式な物としたのである。
鈴鹿と小鈴は、桐の箪笥を開け、次々に着物を出していく。
あれでもない、これでもないと、瞬く間に部屋は着物に占拠され、足の踏み場もなくなっていくのだった。
さて、鈴鹿と悪路王の話は、これにて仕舞い。
御前会にて、何かが起こるのか。それとも、何も起こらず、平穏無事な会で終えるのか。
それはまた、別の話――。




