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銀河鉄道管理局・第七遅延区の少女たち――遅れてきた未来と、記録にない少女――  作者: 明石竜


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9/22

第九章 追跡信号

 ハルカの執務室は、朝の光の中でも変わらず整然としていた。

 すずなは定刻通りに扉をノックした。入れ、という声が返ってきた。中へ入ると、ハルカは机の前に座っていた。書類ではなく、端末の画面を見ていた。すずなが入ると、画面を閉じた。

「座りなさい」

 すずなは座った。キップは肩の上にいた。今日はミオを休憩室に置いてきた。ハルカとの面談に、ミオを連れていくわけにはいかない。

「昨夜、資料室の旧記録書庫に入りましたね」

「はい」

「見習い駅員の権限では入れない区画です」

「キップの補助車掌権限で入りました」

 ハルカはキップを見た。キップはすずなの肩の上で、ハルカを見返した。目をそらさなかった。

「補助車掌権限の目的外使用は、規則違反です」

「承知しています。処分があれば、受けます」

 キップは、普段とは違う丁寧な口調で言った。

 いつもの「吾輩」は出てこなかった。耳も、ほんの少しだけ伏せられている。

 ハルカの前ではキップも補助車掌なのだと、すずなは妙に納得した。ハルカはキップから、すずなへ視線を移した。 

「何を調べましたか」 

「分岐存在に関する記録と、時間修正の記録です」

「なぜ」

「六号室の乗客について、確認したいことがあったからです」

 ハルカの目が、少しだけ変わった。表情は動かなかったが、目の奥で何かが動いた気がした。 

「ネム。六号室の乗客ですね」

「はい。確認作業中の案件です」

「十和田ネム。寝台車両で継続観察中と報告書にありました」

ハルカは机の上の書類を見た。

「六号室の乗客については、報告書に記録があります」

 ハルカはそこで一度、端末の閉じた画面に視線を落とした。

「問題は、報告書にないほうです」

 すずなは、息を止めた。

「七番線貨物車両。調査継続中、とだけ記録されていますね」

「……はい」

「その調査対象は、今どこにいますか」

 すずなはすぐには答えられなかった。

 場所を言えば、ミオを差し出すことになる。けれど、ここで嘘をつくこともできなかった。

「休憩室です」

「名前は」 

「……灯野ミオです」

 すずなは膝の上の手を、そっと握った。

「あなたが確認作業を継続している案件として、記録が残っています」

「はい」

「未登録乗客。分岐存在の疑いあり」

「確認中です」

 ハルカは少しの間、何も言わなかった。

「資料室で何を見つけましたか」

 すずなは消滅確認リストのこと、分岐存在の処理方針のこと、ネムが管理局の処置によって休眠状態を維持されていること。事実を順番に、正確に話した。感情を入れなかった。

 ハルカは黙って聞いていた。途中で何も聞かなかった。すずなが話し終えると、しばらく沈黙があった。

「よく調べましたね」

「必要な情報でした」

「必要と判断したのは、あなたです」

「はい」

「管理局が必要と判断したわけではありません」

「はい」

 ハルカは窓の外を見た。第七遅延区のホームが見える窓だ。朝の光が差している。

「星見、先日、命令を出しました。未登録乗客を発見した場合、即時報告するように」

「はい」

「その命令の意味は、理解していますか」

「理解しています」

「ならば」

「命令の発令日以降に発見した案件については、報告義務があります」

そう言って、ハルカを見た。

「発令日より前に発見した案件は、対象外です。第十八条第四項」

 ハルカはすずなを見た。長い間、見ていた。

「それを、私の前で言いますか」

「事実として言っています」

「確信犯ですね」

「規則の範囲内です」

「範囲内と範囲外の境界を、あなたが引いている。以前も言いました」

「はい」

「また言います。それは、規則を守っているとは言いません」

「承知しています」

 また沈黙があった。ハルカは机の上で手を組んだ。

「資料室への無断侵入について、報告書を提出してください。業務外行動として、正式な記録に残します」

「はい。昨夜のうちに下書きを作りました」

「提出は今日中に」

「はい」

「それとは別に、一つ、情報を提供します」

 すずなは少し驚いた。そんな言葉が、ハルカの口から出るとは思っていなかった。

「管理局上層部からの通達について。内容は知っているようですね。未確定分岐存在を確認次第、回収せよ」

「はい」

「通達の発令元は、局長代理の烏丸セイです」

 すずなはその名前を、記録に留めた。

「烏丸セイ。管理局の上層部に、そういう方がいるんですか」

「あなたが知る必要のある情報ではありませんでした。ただ」


ハルカは少し間を置いた。

「通達の発令元を知っておくことは、あなたの判断に必要かもしれないと思いました」

「なぜ教えてくれるんですか」

 ハルカはすずなを見た。事務的な目だった。

「私は規則を守る側にいます。それは変わりません。ただ、情報を持っている人間と、持っていない人間では、できることが違います。私が情報を提供することは、規則違反ではありません」

「では、なぜ」

「あなたが優しいからです。優しい人間は、情報がないと適切な判断ができない」

「優しいとは思っていません」

「私はそう見ています」

ハルカは書類を取り上げた。

「下がっていいです。報告書は今日中に」

「はい」

すずなは立ち上がった。

「一つだけ、聞かせて下さい。以前、引きずられたことがある、とおっしゃいました。個別の事情を優先したことがある、と」

「言いましたね」

「その経験が、今日の判断に関係していますか」

 ハルカは手を止めた。

 長い沈黙があった。執務室の外で、列車が通る音がした。

「下がりなさい」

「はい」

 すずなは扉へ向かった。ノブに手をかけたとき、ハルカが呼んだ。

「星見」

「はい」

「今夜は、七番線周辺に近づかないように」

 すずなは振り返らなかった。

「なぜですか」

「巡回の変更があります。別の担当者が七番線を確認します」

「今夜だけですか」

「今夜の話をしています」

 すずなは頷いた。

「わかりました」

 扉を閉めた。

 廊下に出て、すずなはすぐにキップに小声で伝えた。

「今夜、七番線に別の担当者が来ます」

「聞いていた」

「ミオとネムを、七番線から動かす必要があります」

「どこへ」

「別の路線です。廃止された路線があると、以前に言っていましたね」

 キップは少し間を置いた。

「廃止路線に入ることは、規則違反だ」

「どの条文ですか」

「第二十一条第一項。廃止路線への無断立ち入りを禁ずる」

「無断立ち入りを、です。許可があれば」

「許可を出せる権限を持つ者が、状況を知った上で許可を出すとは考えにくい」

「出すかどうかは、聞いてみなければわかりません」

「誰に聞くつもりだ」

「ハルカ主任です」

 キップはしばらくすずなを見た。

「さっき、七番線に近づくなと言われたばかりだ」

「廃止路線の使用について聞くことは、七番線に近づくことではありません」

「屁理屈だ」

「規則の解釈です」

 キップは鼻を鳴らした。

「……急げ。今夜までに動かなければならない」

 すずなは執務室へ引き返した。もう一度ノックした。

 入れ、という声が返ってきた。扉を開けると、ハルカはすずなを見て、少しだけ目を細めた。

「何ですか」

「廃止路線の使用について、確認があります」

「廃止路線」

「第七遅延区管轄内の廃止路線です。現在、使用停止中ですが、緊急時の避難経路として機能する場合があると、研修資料にありました」

「それは正しい記述です。ただし、緊急時の判断は主任権限です」

「緊急時かどうか、主任が判断するということですか」

「そうです」

「現在の状況は、緊急時に該当しますか?」

 ハルカはすずなを長い間、見ていた。

「管轄内で、処理対象の分岐存在が複数確認されている状況は、通常の運営に支障をきたす可能性があります。緊急時の定義は、第二十五条第二項です」

「第二十五条第二項。管轄内の乗客の安全に重大な影響が生じる可能性がある場合」

「分岐存在が適切な処置なく回収された場合、その存在に対して重大な影響が生じます。管轄内の乗客に準じる存在として扱うかどうかは、主任の判断です」

 ハルカは机の上の書類に視線を移した。それからまた、すずなを見た。

「星見。あなたは、分岐存在を乗客として扱え、と言っているんですか」

「主任が判断することです。わたしは確認をしているだけです」

「確認」

「はい」

 また沈黙があった。

 ハルカは端末を開いた。何かを打ち込んだ。しばらくして、端末を閉じた。

「廃止路線の一時使用を、緊急避難経路として承認します。対象は、今夜から明日の朝まで。それ以降は、通常の手順に従ってください」

「ありがとうございます」

「記録に残ります。あなたの名前で申請されたことになります」

「わかっています」

「記録が残ることの意味を、わかっていますか」

「管理局に、わたしの行動として記録されます。あとで問題になる可能性があります」

「それでもいいんですか」

「隠蔽より、記録として残すほうが、あとで使えます」

 ハルカは少しだけ、表情を動かした。

「下がりなさい」

 すずなは頭を下げて、執務室を出た。


 廊下で、キップが言った。

「許可が出た」

「はい」

「ハルカ主任は、何を考えているんだろうな」

「わかりません。でも、悪くない人だと思います」

「キップも、そう思う」

 すずなは歩き始めた。今夜のことを考えた。ミオをどう動かすか、ネムをどう動かすか、廃止路線へどう入るか。段取りを頭の中で整理した。

「ミオに話します」

「ネムは動けるか」

「昨日より状態は安定しています。短い移動なら、できると思います」

「廃止路線は、吾輩がかつて車掌をしていた路線と重なる」

「知っています」

「案内は、任せろ」

 すずなはキップを見た。小さな体で、車掌帽をかぶって、尊大な顔をしている。

「ありがとうございます、キップ」

「礼は不要だ。職務だ」

「職務ではないと思いますが」

「吾輩が職務と言ったら、職務だ」

 すずなは少し笑いそうになった。

 

 夜になる前に、すずなは段取りを終えた。

 廃止路線への入口は、七番線の端にある古い扉だった。管理局の管轄内だが、普段は誰も使わない。今夜の巡回変更で、七番線には別の担当者が来る。その前に動く必要があった。

 ミオに説明した。

「廃止路線に移動します。今夜、七番線に巡回が来ます」

「わかった」

ミオは迷わず言った。

「ネムは?」

「一緒に連れていきます」

「ネム、動けるかな」

「聞いてみます」

 三人で寝台車両へ向かった。六号室のネムは、昨日より少し起きやすそうだった。ミオが声をかけると、目を開けた。

「ミオお姉ちゃん」

「おはよう、ネム。少し移動できる?」

「……どこへ?」

「別の場所。歩けそう?」

 ネムはベッドの上でゆっくりと体を起こした。ミオが背中を支えた。足を床に下ろして、立ち上がろうとした。ふらついたが、倒れなかった。

「歩ける」

「無理しなくていいよ」

「歩ける。一人で歩く」

 ネムは自分で歩いた。ゆっくりで、少しふらついたが。すずなは隣で見守った。倒れそうになったら支えようと思っていたが、ネムは倒れなかった。

 廊下を通り、七番線のホームへ出た。ホームの端、古い扉の前でキップが待っていた。

「急げ。巡回変更の担当者が来るまで、あと少しだ」

「開けられますか」

「吾輩の権限で開く」

 キップが端末に触れた。古い扉が、錆びた音を立てて開いた。

 向こうは暗かった。

 廃止路線は、照明が落ちていた。遠くに銀河の光が届いていて、辛うじて足元が見える程度の明るさだった。空気が、現役の路線とは違う。長い時間、誰も使っていない場所の、静かな匂いがした。

「ここは」

ミオが尋ねた。

「廃止路線だ。かつて、吾輩が車掌をしていた路線だ」

「キップが」

「昔のことだ。今は使われていない」

 すずなたちは廃止路線へ入った。すずなが最後に通り、古い扉を閉めた。

 暗い路線の中を、キップの案内で歩いた。足元は古いレールで、踏み外さないように気をつけて歩いた。ネムはミオの手を握っていた。ミオは握り返していた。


 しばらく歩くと、古い待合室があった。廃止される前の駅の跡らしく、ベンチが残っていた。照明は落ちているが、天井に窓があって、銀河の光が差し込んでいた。

「ここで、今夜は待ちます」

すずなは言った。

「朝まで?」

ミオが尋ねた。

「ハルカ主任から、明日の朝まで廃止路線の使用を承認してもらっています。朝以降のことは、また考えます」

「また考えるって、あとでいつも考えてるね」

「状況が変わってから考えたほうが、正確に判断できます」

「すずならしい」


 ネムがベンチに座って、銀河の光を見上げた。

「きれい」

「ここからも、銀河が見えるんですね」

すずなは言った。

「うん。流星野も、こんな感じで見えてた。橋の上から」

 流星野。川のそばの、消えた町の名前。ネムが覚えている、銀河の見える橋。

「ネム、その橋の上で、何をしていましたか」

 すずなは尋ねた。

「お父さんと、見てた。夏の夜に、お父さんと橋の上で銀河を見てた。寒くなったら帰ろうって言って、でも帰れなくて、ずっと見てた」

「寒くなっても帰れなかったんですか」

「うん。帰りたくなかったから」

ネムは笑った。小さな笑いだった。

「ずっとここにいたかった」

 ミオがネムを見ていた。

「お父さんのこと、好きだった?」

「好き」

ネムはすぐに答えた。

「お父さんはおもしろかった。変な歌を知ってて、よく歌ってた」

「変な歌?」

「空の魚の歌。空を泳ぐ魚の歌で、意味がわかんなかったけど、好きだった」

 ミオが少し笑った。すずなも、聞いていた。

 ネムの記憶は、鮮明だった。消えた未来の記憶なのに、橋の感触も、夜の寒さも、父親の歌も、はっきりと覚えている。それだけの記憶があるということは、ネムが確かにそこにいたということだ。

「キップ、この路線で、昔どんな乗客に会いましたか」

 すずなが尋ねると、キップは古いレールの上を歩きながら、少し考えた。

「この路線は、特に長く乗り遅れた人たちが来る路線だった。何年も、何十年も、乗り遅れたままの人たち」

「そういう人たちは、どうなりますか」

「それぞれだ。諦める人もいる。前へ進む人もいる。ずっとここにいる人もいた」

「ずっとここにいる人は」

「吾輩が、降ろした。規則通りに。降ろすべき人を、時間が来たら降ろした」

 すずなは何も言わなかった。

「一人だけ、降ろすべきでなかったと今でも思う人がいる。謝りたい人がいると言っていた人だ。時間をくれと言っていた。でも、吾輩は降ろした」

「その人の未来がどうなったか、知っていますか」

「知らない。降ろしたあと、この路線は廃止になった。吾輩は別の区画へ移された。それだけだ」

 待合室に沈黙が落ちた。

 ネムが、キップを見た。

「車掌さん、悲しそう」

「悲しくはない。後悔しているだけだ」

「後悔って、悲しいことじゃないの?」

「……同じかもしれない」

「そっか」

ネムはベンチの上で膝を抱えた。

「ワタシも後悔してることがある」

「何を、ですか?」

すずなは尋ねた。

「お父さんに、もっと変な歌を聞いておけばよかった。全部覚えたかった。でも、全部は覚えられなかった」

「覚えている歌はありますか」

「一番好きだったやつは、覚えてる」

「聞かせてもらえますか」

 ネムは少し考えた。それから、小さな声で歌い始めた。

 旋律は単純で、子守唄のような歌だった。言葉は少し変で、意味がわからない部分もあったが、それがかえって心地よかった。空を泳ぐ魚の歌は、銀河の見える古い待合室に、静かに広がった。

 ミオが目を閉じて聞いていた。キップがしっぽを止めた。すずなはノートを取り出しかけて、やめた。

 今夜は記録しない。ただ聞く。

 ネムが歌い終えた。

「上手だね」

ミオが言った。

「お父さんの方が上手だった。でも、聞いてくれてありがとう」

「お礼を言うのは、わたしたちの方だよ」

「ううん。覚えてたのを、聞いてもらえたから」


 すずなは懐中時計を取り出した。針を見た。どこへ向かうかわからない動き方をしていたが、今夜は少しだけ違った。まだ正確ではないが、ある方向に向かおうとしている感じがした。

「ミオ」

「なに」

「管理局は、あなたを不要な分岐と呼びます。消滅済みの記録の上にいる存在だと、そう言います」

「うん」

「でも、あなたには、スープの味の記憶があります。銀河の景色の記憶があります。こうして話している言葉があります」

「ある」

「記録が消えても、記憶は残っている。ネムの父親の歌が、ネムの中に残っているように」

「そうだね」

「だから、あなたを不要と呼ぶことに、わたしは納得していません。記録に書いてあっても、納得しません」

 ミオはすずなを、しばらく見ていた。

「すずな」

「はい」

「わたし、あのね」

ミオは少し笑った。困ったような、照れたような、でも力のある笑い方だった。

「すずなのこと、好きだよ」

 すずなは答えられなかった。

 好き、という言葉の意味を考えた。どういう意味で言っているか、聞いたほうがいいかもしれないと思った。でも、聞かなかった。今聞くことではない気がした。

「……わたしも、ミオのことを、ここにいてほしいと思っています」

「それ、好きってこと?」

「整理中です」

 ミオが笑った。声を出して笑った。

「また整理中だ」

「少し前より、整理が進んでいます」

「どれくらい進んだの?」

「だいぶ進みました」

「じゃあ、いつ終わるの」

「もう少しかかります」

 ネムが二人を見ていた。何かを考えているような顔をしていた。

「お姉ちゃんたち、仲良いね」

「そうですか」

すずなは微笑んだ。

「うん。見てると、なんか安心する」

「なんでですか」

「わかんない。でも、安心する」


「新人、今夜は休め。明日の朝、また動く必要がある」

「はい」

「ネムも、眠れそうか」

「眠れる。でも、今夜は眠くない」

「なぜだ」

「ここにいる人たちと、もう少し話したい」

 キップはしばらくネムを見た。それから、ベンチの端に座った。尊大な顔のまま、でも少しだけ柔らかい顔で。

「では、吾輩が昔この路線で会った乗客の話をしよう。おもしろい話ではないが」

「聞きたい」

ネムは興味深そうにしていた。

「吾輩の話を聞きたいとは、物好きだな」

「車掌さん、声がいい」

「……そうか」

 キップは少しの間黙っていた。それから、話し始めた。

 古い廃止路線の待合室に、銀河の光が差し込んでいた。キップの話し声が、穏やかに広がった。ネムは膝の上で手を重ね、じっと耳を傾けていた。ミオは窓際で黙っていた。すずなもまた、ノートを開かずに、その声を聞いていた。

 懐中時計の針が、ゆっくりと動いていた。

 どこへ向かうか、まだわからなかった。でも、確かに動いていた。


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