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銀河鉄道管理局・第七遅延区の少女たち――遅れてきた未来と、記録にない少女――  作者: 明石竜


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第四章 言えなかった手紙

 白紙駅から戻った翌朝になっても、すずなの胸には小さな引っかかりが残っていた。

ハルカに言われた「記録には残ります」という言葉。

それから、白紙駅へミオを連れていった帰りに起きた、もう一つの出来事。

管理局の改札を通る直前、すずなの懐中時計が不自然に跳ねた。近くを歩いていた駅員が、ふと足を止めたのだ。

「今、時刻がずれませんでしたか」

 駅員は、すずなではなく、すずなの背後を見ていた。

 そこに何がいるのかを探すような目だった。

すずなは答えるのが一瞬遅れた。 

ミオはすずなの背後で、息を止めたように黙っていた。

「新人の時計は、まだ調整が甘いのだ」

キップが肩の上から言った。

「研修中の見習いにはよくある。記録するほどの異常ではない」

駅員は少しだけ首をかしげたが、それ以上は追及しなかった。


その場を離れてから、すずなはようやく息を吐いた。

ミオを連れて歩くことは、思っていたより危うい。

見つかるかもしれない、ではない。

もう、見つかりかけたのだ。


 その日の朝、すずなは五番線の端で、ひとりの遅延乗客を見つけた。

 若い女性だった。年齢は二十歳前後。薄い水色の封筒を、両手で握っている。

 足元は、わずかにホームから浮いていた。

「言えなかった言葉行き、ですね」

 すずなはノートを開いた。

「声をかけるのか」

 キップが肩の上で言った。

「状況確認だけです」

 女性は、すずなたちが近づいても逃げなかった。ただ、封筒だけを強く握った。

「その手紙は、届けたいものですか」

 すずなが尋ねると、女性は首を横に振った。

「届けたかったものです」

「今から確認することはできます。必要なら、貨物の提示を――」

「見せないでください」

 女性の声が、静かにすずなの言葉を止めた。

「見たら、思い出してしまいます。思い出したら、戻りたくなる。戻れないのに」

 すずなは言葉を失った。

 白紙駅では、見せることが必要だった。

 けれど、目の前の人にとっては、見せないことが必要なのかもしれなかった。

「では、どうしたいですか」

「ここにいたいです。もう少しだけ」

「列車には乗らないのですか」

「乗ったら、終わってしまう気がするから」

 すずなは、それ以上踏み込めなかった。

 ノートに、事実だけを書いた。

 五番線、遅延乗客一名。言えなかった言葉行き。貨物提示、本人拒否。対応継続。

 記録することしかできない場面がある。

 そのことを、すずなは朝の冷えたホームで知った。



 郵便車両というものが、銀河鉄道には存在する。

 すずなは研修資料でその名前を見たことがあったが、実際に入るのは今日が初めてだった。管理局の資料によると、郵便車両は遅延区内の各列車に一両ずつ連結されていて、乗客が言えなかった言葉、届かなかった気持ち、書きかけたまま送れなかった手紙などを収集して運ぶ役割を持っている。

 その説明を読みながら、すずなは朝の五番線で見た女性の封筒を思い出していた。


 今日の業務指示書には、こう書いてあった。

 ──七番線連結の郵便車両において、長期滞留の未処理貨物あり。状況確認および乗客対応を行うこと。

 乗客の名前は、波戸カナメ。十二歳。

「十二歳、子どもじゃん」

ミオが指示書を横から読んで言った。

「あなたも十五か十六でしょう」 

「わたしはちゃんと数えられないから例外」

 すずなは指示書をポケットにしまった。

今日もミオを連れていく。

 白紙駅の一件以来、ミオを連れ歩く危うさは分かっていた。けれど、休憩室に一人で残しておくことにも、すずなは抵抗を感じるようになっていた。

 理由を整理しようとすると時間がかかるので、今は保留にしている。

 キップはすずなの肩の上で指示書の内容を反芻していた。

「郵便車両の担当業務は、通常は記録と目録照合だ。乗客への対応は最小限。言えなかった言葉を現実へ届けることは、規則で明示的に禁じられている」

「禁じられている」

すずなは繰り返した。

「第十二条第一項。遅延区内に収容された未送達の言葉および感情は、外部へ転送することを禁ずる。これは、時間の乱れを防ぐためだ」

「……はい」

「わかっているか、新人」

「わかっています」

 キップはしばらくすずなを見ていた。

「白紙駅の件は、規則の外だったが、誰にも知られなかった。今回は郵便車両だ。内部に監視記録が残る」

「それも、わかっています」

「わかった上で、どうするつもりだ」

「まず状況を確認します。判断はそのあとです」

 キップは何も言わなかった。

 

 郵便車両の扉を開けた瞬間、封筒が落ちてきた。

 一枚ではなかった。扉の隙間から押し出されるように、五枚、十枚、二十枚と、次々に落ちてきた。すずなは思わず後退して、ミオがすずなの腕をつかんだ。扉が完全に開くと、車両の中から封筒の雪崩が起きた。

「なに、これ」

ミオが呟く。

 車両の中は、封筒で埋まっていた。

 天井まで積み上げられた封筒の山が、左右の棚を完全に覆い、通路の床にも膝の高さまで積もっている。封筒は大きさも色もばらばらで、白いもの、茶色いもの、青いもの、折り畳んだメモ用紙のようなもの。どれにも宛先が書いていない。どれにも差出人の名前がない。ただ、どれにも、薄く光る文字で「ごめん」という言葉だけが浮かんでいた。

「全部、同じ言葉か」

キップが尋ねた。

 すずなは一枚拾い上げて、光る文字を確認した。

「……ごめん、と書いてあります」

「全部か」

「全部、みたいです」

 車両の奥を見た。封筒の山の向こうに、人影があった。小さな人影だった。封筒をかき分けて近づくと、少年がいた。十二歳という年齢の通りの小柄な子で、膝を抱えて封筒の山の中に半分埋まるようにして座っていた。目が赤い。泣いていたのか、泣きたいのに泣けないのか、すずなには判断できなかった。

「波戸カナメさんですか」

 少年は顔を上げた。すずなを見て、次にミオを見て、キップを見た。キップと目が合ったとき、少しだけ目を丸くした。

「……動物がいる」

「時刻獣だ。補助車掌の職にある」

「喋った」

「当然だ」

 カナメは少しだけ緊張がほぐれた顔をした。すずなはそれを見て、キップの存在が今日は役に立つかもしれないと思った。

「管理局から来ました。状況を確認させてください。ここには、どれくらいいますか」

「わかんない。ずっといる気がする」

「この封筒は、全部カナメさんのものですか?」

 カナメは封筒の山を見た。

「たぶん。書いたのはぼくじゃないけど、ぼくが言おうとした言葉だと思う」

「書いたのはぼくじゃない、というのは?」

「ここへ来たら、最初から積んであった。触ったら、ぼくの気持ちがした。声とか、言おうとしてた言葉とか、全部ぼくの記憶から出てきたやつ。でも、ぼくが書いたわけじゃない」

 すずなはノートに書いた。銀河鉄道の郵便車両では、乗客の未送達の言葉が自動的に封筒として生成される。研修で習った内容と一致していた。

「誰に宛てた言葉ですか」

 カナメは答えなかった。少し俯いた。

「お父さんに、ですか」

 指示書に書いてあった内容を思い出しながらすずなは言った。カナメは小さく頷いた。

「ケンカをして、謝れなかったんですね」

「ケンカっていうか」

カナメは封筒を一枚手に取った。

「ぼくが怒鳴っちゃって。お父さんは何も言わなくて。その次の日に、お父さんが急に遠くへ行くことになって。謝れないまま、時間が経って」

「遠くというのは」

「仕事で。海外に。しばらく帰ってこない」

カナメは封筒を握った。

「謝ろうと思ったけど、電話したら怒られそうで。手紙を書いたけど、送れなくて。そうしてたら、ここに来てた」

 すずなはノートを持ったまま、しばらく立っていた。

 言えなかった言葉を現実へ届けることは、規則で禁じられている。それはわかっている。カナメの手紙を父親へ送ることはできない。たとえここに何千枚の封筒があっても、一枚も外へ出すことはできない。

 それが規則だ。

 正しい規則だと、すずなは思う。時間の乱れを防ぐためのものだから。

 でも。

「ミオ」

すずなは小声で呼んだ。

「なに」

「さっきから黙っていますが、何か考えていますか」

 ミオはカナメを見ていた。少年と同じように膝のあたりで手を組んで、真剣な顔をしていた。

「カナメくんに似てる気がして」

「何がですか」

「言えなかった言葉が、残ってる感じ。ぼくは言おうとしてたのに言えなかった、ってわかってる感じ。わたしは何を言えなかったのかもわかんないけど」

 カナメがミオを見ていた。

「お姉さんも、言えなかった言葉があるの?」

「お姉さん?」

ミオが少し目を丸くした。

「違う?」

「……まあ、いいか。あるかもしれない。よくわかんないけど」

「ここへ来ると、言えなかったことが封筒になるって、変な感じがする」

カナメは封筒の山を見た。

「ぼく、こんなにたくさん言いたかったんだって。全部ごめんしか書いてないけど」

「全部ごめんって、すごいね。ちゃんと謝りたかったんだよ」

 ミオが言った。

「でも、言えなかった」

「言えなかったのと、言いたくなかったのは、違うじゃん」

 カナメが、ミオを見た。

 すずなも、ミオを見た。ミオは特別なことを言おうとしているわけではなさそうだった。ただ、思ったことを言っている顔だ。

「言えなかったってことは、言いたかったってことだよ。それはここにある封筒全部が証明してる。全部ごめんって書いてある。カナメくんが謝りたかったのは、本当のことじゃん」

「でも、届かない」

「届かなかったら、なかったことになるの?」

 カナメは黙った。

「届かなくても、カナメくんがごめんって思ってたのは、本当のことじゃん。それはなくならない」

 カナメの目が、また赤くなった。今度は、泣きたいのに泣けないのではなかった。少しずつ、涙が出てきた。声を出さないまま、泣いていた。

 すずなはノートに何かを書こうとして、止めた。

 今は書かなくていい。

 キップが、すずなの肩の上で小さく言った。

「新人、第十二条第一項を覚えているか」

「言えなかった言葉を外部へ転送することを禁ずる、です」

「そうだ。外部への転送が禁じられている」

「はい」

「では、遅延区内での保管は」

 すずなは少し考えた。

「……禁止されていません」

「そうだな」

「遅延区内での記録として残すことは」

「禁止されていない」

「遅延区の記録に、カナメさんの言葉を保存することは」

「規則の範囲内だ」

 キップはそれだけ言った。どこか遠くを見る顔をしていた。すずなは気づいていた。キップは規則を教えているのではない。抜け道を示している。

「カナメさん」

すずなはカナメに向き直った。

「一つ、確認させてください」

 カナメが涙をぬぐって顔を上げた。

「お父さんへの言葉を、外へ届けることはできません。それは規則で決まっていて、変えられません」

「……うん」

「ただ、あなたがここで言いたかったことを、遅延区の記録として保存することは、規則の範囲内でできます。現実へは届かない。でも、なくなりません。あなたが謝りたかったという事実が、記録として残ります」

 カナメはしばらく黙っていた。

「それって、意味があるの?」

「わたしには、断言できません。現実のお父さんには届かない。あなたの気持ちを解決するわけでもありません。ただ、ここにあるごめんという言葉が、消えずに残る、それだけです」

「消えずに、残る」

「はい」

 カナメは封筒の山を見た。それから、すずなを見た。

「やってほしい」

「わかりました」

 すずなはノートを開いた。今日の日付と、波戸カナメという名前を書いた。それから、一段下げて書いた。

 ──父に届けたかった言葉。ごめん。遅延区記録第七遅延区保管。消滅処理対象外とする。

 書いてから、少し迷って、もう一行足した。

 ──言えなかったことは、言いたかったことでもある。記録者所見として付記する。

 ノートを閉じた。

「これで、残ります」

 カナメは頷いた。まだ泣いていたが、さっきとは少し顔が違った。

 ミオが封筒の一枚を拾い上げた。

「カナメくん、これ持っておく?」

「え」

「一枚だけ。ここから持ち出せるかどうかわかんないけど、持ってていい?」

「それは……規則では外部への転送が禁止されてる。遅延区の中で持ってるのは?」

「乗客が自分の貨物を携帯することは、禁止されていない」

 すずなはキップを見た。キップはそっぽを向いていた。

「……禁止されていません」

すずなは伝えた。

「じゃあ、カナメくん」

ミオが封筒をカナメに渡した。

「これ、持っておいて。どこへ届けることもできないけど、あなたが謝りたかったっていう証拠だから」

 カナメは封筒を受け取った。両手で、大切に持った。

「……ありがとう、お姉さん」

「お姉さんはやめて」

「じゃあ、なんて呼べばいい?」

「ミオ」

「ミオさん?」

「さんもいらない」

 カナメが、初めて笑った。小さな笑いだったが、確かに笑った。

 

 郵便車両を出たとき、廊下に夜の光が差していた。第七遅延区の夜は長い。すずなは扉を閉め、記録をノートに追加した。

「新人」

「はい」

「今日したことの、どこまでが規則の範囲内だったと思う」

「カナメさんの言葉を記録したことと、乗客が自分の貨物を携帯することは、規則の範囲内です」

「記録者所見の付記は」

「……グレーです」

「記録には残る」

「残ります」

「後悔するか」

「しません」

 キップは少し間を置いた。

「吾輩はな、新人。昔、一度だけ規則通りにしたことがある」

 すずなは歩みを止めた。キップがこういう話をするのは初めてだった。

「ある乗客を、規則通りに降ろした。その乗客は、誰かに謝りたいと言っていたが、手順を踏めば時間がかかると言った。時間をくれと言った。吾輩は、規則通りに降ろした」

「それで」

「その人の未来がどうなったかは、知らない。知らないままだ。ただ、降ろしたあとに、吾輩の時刻計が一度だけ止まった。それだけわかっている」

 すずなは何も言わなかった。

「規則は守るものだ。だが、救うための抜け道もまた、吾輩には見えている。見えていて、使わないことを選ぶのと、見えていて使うことを選ぶのは、どちらも選択だ。正しいのはどちらかは、今でもわからない」

「キップには、答えがないんですか」

「ない。だから、新人が選んだことを止めなかった。吾輩には答えがない。止める根拠も、完全にはない」

 廊下を、遠くから風が通った。銀河鉄道の夜の風は、少しだけ星の匂いがする。

「キップ、その人に、謝りたかったですか?」

「誰に」

「降ろした乗客に」


 キップは長い間、黙っていた。

「……たぶん、そうだ。だから、お前のしたことを止めなかった」

 すずなは頷いた。それ以上は聞かなかった。

 ミオが、すずなの隣で小声で言った。

「キップって、意外と複雑なんだね」

「うるさい」

「かわいいけど」

「それも黙れ」

 三人は廊下を歩いた。夜の第七遅延区は静かで、遠くの線路を列車が通る音だけが聞こえる。

 すずなは懐中時計を取り出した。針は今日も、正確な時刻を示さない。ミオが近くにいる限り、この時計は管理局の定刻を刻まない。

 それを、今日もおかしいとは思わなかった。

 

 夜、報告書を書き終えてから、すずなはミオの様子を見に休憩室へ行った。

 ミオは床に座って、壁にもたれていた。手の中に何かを持っている。見ると、郵便車両でカナメが受け取った封筒と同じ形のものだった。

「どうしたんですか、それ」

「わかんない。気がついたら手の中にあった」

ミオは封筒を見た。

「郵便車両から出るとき、一枚だけ落ちてきた。拾ったら、そのままになった」

「カナメさんの封筒ですか」

「違うと思う。触った感じが違う」

ミオは封筒を傾けた。

「光る文字が書いてあるんだけど、読めない」

 すずなは受け取って見た。確かに光る文字があったが、すずなにも読めなかった。言葉の形をしていない。何かの記憶の断片のような、輪郭だけの文字だった。

「誰かの言えなかった言葉かもしれません」

「誰の?」

「わかりません。郵便車両には、特定の乗客以外の貨物が紛れ込むことがあると、研修で習いました」

「じゃあ、誰かが言えなかった言葉が、わたしの手元にあるの」

「そうなるかもしれません」

 ミオは封筒を見た。読めない文字を、しばらく見ていた。

「なんか、懐かしい感じがする」

「懐かしい」

「うん。知らないはずなのに、どこかで見た感じがする」

 すずなは何も言わなかった。ミオの過去は、消えた未来の中にある。そこにあった言葉が、何かの経路で迷い込んできた可能性が、ないとは言えない。

「持っていてください」

「いいの?」

「誰のものかわからない以上、返却先が決まりません。確認が取れるまで、預かっておいてください」

 ミオは封筒をそっと胸のあたりに寄せた。

「すずなって、いつもそうやって理由をつけるんだね」

「何がですか」

「わたしに何かしてくれるとき、必ず規則か理由かをつける。規則の範囲内とか、確認が必要とか」

「……それは」

「悪い意味じゃない。そうしないと動けない人なんだろうなって思う。感情だけじゃ、動けない」

 すずなは少し考えた。

「そうかもしれません」

「なんで?」

「感情で動いて、間違えたことが、昔あったので」

「どんな間違い?」

「誰かを助けようとして、余計に傷つけたことがあります。それから、感情で動く前に、一度止まるようにしました」

 ミオは黙って聞いていた。

「だから、理由を探します。規則でも、状況確認でも、何でもいい。感情だけで動かないための、支えのようなものです」

「じゃあ、わたしのことも、理由があるから助けてるの?」

「最初は、時計が止まったからです」

「今は?」

 すずなは少し間を置いた。

「今は、整理中です」

「正直だね」

「嘘をつくと、あとで辻褄が合わなくなるので」

 ミオが笑った。声を出して笑った。疲れた顔をしているのに、笑うと少しだけ違う顔になる。

「すずな、おもしろいね」

「そうですか」

「うん。なんか、一緒にいると飽きない」

 すずなは答えなかった。答えの代わりに、懐中時計を見た。針はまだ正確ではないが、今日は昨日より少しだけ安定している気がした。気のせいかもしれない。でも、そう見えた。

「ミオ」

「なに」

「今日、カナメさんに言ったことを」

「何を?」

「言えなかったことは、言いたかったことでもある、というのを」

「うん」

「自分についても、そう思いますか」

 ミオは封筒を見た。読めない文字が光っている封筒を、手の中で少し傾けた。


「……思いたい。思えるかどうかは、まだわかんないけど」

「そうですか」

「すずなはどう思う」

「わたしには、ミオが言いたかったことがあったと思います。なぜかは、うまく説明できませんが」

「感情?」

「整理中です」

 ミオはまた笑った。今日一番、力のある笑い方だった。

 夜の第七遅延区に、静かな時間が流れた。遠くで列車が通る音がして、また静かになった。

 ミオの輪郭が、今夜は昨日よりも少しだけはっきりしている気がした。気のせいではないと、すずなは思った。理由は整理中だった。


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