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新入社員の私、実は課長の妻です 〜会社では冷たい上司、家では私に甘える旦那様〜  作者: ちょこまろ


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6/7

第6話 秘密がバレそうです

「彼氏いるの?」


瀬川からの一言で、いよいよ危なくなってきた二人の秘密。


結婚しているとは言えない。

でも、「いません」と嘘をつくのも嫌。


そして誠司も、小春を守ろうとするあまり、少しだけ“夫”が会社に出すぎているようです。


守ることと、信じること。


小春は自分の力で、この状況に向き合うことを決めます。


第6話「秘密がバレそうです」。


二人の夫婦としての成長にもご注目ください。

 瀬川さんの「彼氏いるの?」発言以降、私は妙に意識されるようになった。


 瀬川さん本人は気まずそうにしている。

 真帆さんは何となく察している。

 黒沢課長はいつも通りに見せている。


 ただし、いつも通りに見せているだけで、全然いつも通りではない。


「高瀬さん、この資料は三浦さんに確認してもらってください」


「はい」


「瀬川、午後の外出は部長と同行してください」


「はい」


「高瀬さん、分からない点は私ではなく三浦さんへ」


「はい」


 徹底している。

 瀬川さんと私を自然に離そうとしている。


 いや、不自然です。

 課長、不自然です。

 業務上の采配としてギリギリ自然だけど、妻には分かります。

 夫の防衛本能がすごい。


 真帆さんが小声で言った。


「最近、黒沢課長、高瀬さんにかなり気を遣ってるね」


「そ、そうですか?」


「瀬川くんのことがあったからかな。課長って、意外と部下を守るタイプだよね」


「はい。そうだと思います」


 守ってくれています。

 部下としても。

 妻としても。


 でも説明できない。

 説明したら終わる。


 その日の午後、私は社長室へ資料を届けることになった。


「失礼します」


「どうぞ」


 社長は私を見るなり、にこにこした。


「小春、大変そうだね」


「社長」


「はい、高瀬さん」


「楽しんでいませんか」


「少し」


「叔父さん」


「おっと、会社では社長だった」


 この人、本当に自由すぎる。


 私は資料を置きながら、ため息をついた。


「瀬川さんの件、どうしたらいいでしょう」


「彼は悪い子ではないよ。黒沢くんも悪くない。ただ、少し夫が出すぎている」


「だいぶ出ています」


「うん。だいぶ出ている」


 社長は笑ったあと、少し真面目な顔になった。


「小春は、どうしたい?」


「秘密はまだ守りたいです。でも、瀬川さんに曖昧な態度も取りたくありません」


 私の答えに、社長は静かに頷いた。


「それでいい。なら、こう言えばいい。大切な人がいます、と」


「大切な人」


「嘘ではない。相手を傷つけすぎず、線も引ける」


 私は頷いた。


「そうします」


「それと、黒沢くんには私から言っておく」


「何をですか」


「守るだけではなく、信じなさい、と」


 その言葉に、私は少しだけ黙った。


 守るだけではなく、信じる。


 誠司さんは私を大切にしてくれている。

 でも時々、大切にしすぎて、私が自分で立つ前に手を出そうとする。


 それは愛情だ。

 でも、私はちゃんと立ちたい。


「お願いします」


 社長は優しく笑った。


「任せなさい。叔父としても、社長としてもね」


「ありがとうございます」


 社長室を出ると、廊下の先に黒沢課長が立っていた。


「高瀬さん」


「はい」


「社長との話は終わりましたか」


「はい」


 会社の廊下。

 二人きりに近いけれど、完全に二人きりではない。


 黒沢課長は一瞬、何か言いたそうにした。

 でも言わなかった。


 その代わり、静かに言った。


「午後の会議で、先日の資料改善案について報告してもらいます」


「えっ」


「更新日チェックリストの件です。三浦さんから、部内で共有した方がいいと提案がありました」


「私が、ですか?」


「はい。作ったのは高瀬さんですから」


 驚いた。


 あの失敗から作ったチェックリスト。

 それを、部内で共有する。


「できますか」


 黒沢課長の目は、課長の目だった。

 夫の甘さはない。

 でも、信じてくれている目だった。


 私は背筋を伸ばした。


「はい。やります」


「お願いします」


 午後の会議。


 私は緊張で手が冷たくなっていた。

 部内の人たちの前で話すのは初めてだ。


「では、高瀬さん。お願いします」


「はい」


 私は立ち上がった。


「先日、私が資料作成で更新前のデータを使用してしまうミスをしました。その再発防止として、元データの更新日、確認者、反映箇所を記録するチェックリストを作成しました」


 声が少し震えた。

 でも、続けた。


「新人の私が作ったものなので、まだ改善点は多いと思います。ただ、確認したつもりにならないために、目で見て残す形が必要だと思いました」


 真帆さんが頷いてくれている。


 瀬川さんも真剣に聞いている。


 黒沢課長は、まっすぐ私を見ていた。


 その視線が、怖くなかった。


「以上です」


 話し終えると、部長が頷いた。


「分かりやすいね。新人目線だからこそ気づけることもある。試しに部内で使ってみよう」


「ありがとうございます」


 胸がじんわり熱くなった。


 失敗が、少しだけ仕事に変わった。

 私にも、できることがあった。


 会議後、真帆さんが笑顔で言った。


「高瀬さん、よかったよ」


「ありがとうございます」


「黒沢課長も嬉しそうだったね」


「えっ」


 私は慌てて課長席を見る。


 黒沢課長は普通の顔で資料を整理していた。


「嬉しそうでしたか?」


「うん。ほんのちょっとだけ」


 真帆さんは笑った。


 まずい。

 ほんのちょっとが分かる人がいる。

 夫、もっと課長の顔を強化してください。


 夕方、瀬川さんが私の席に来た。


 少し気まずそうだった。


「高瀬さん、この前はごめん。変なこと聞いて」


「いえ」


「困らせたよね」


「少しだけ」


 私は正直に言った。


 瀬川さんは苦笑した。


「だよね。ごめん」


 私は深呼吸をした。


「あの、瀬川さん」


「うん」


「私には、大切な人がいます」


 言った瞬間、胸が少し震えた。


 夫がいる、とは言えない。

 でも、嘘ではない。


「だから、仕事ではこれまで通り、先輩として教えていただけたら嬉しいです」


 瀬川さんは少し驚いた顔をしたあと、すぐに笑った。


「そっか。分かった。ごめんね」


「いえ。ありがとうございます」


「仕事では、普通によろしく」


「はい」


 よかった。

 ちゃんと言えた。


 その時、黒沢課長がこちらを見ていた。


 でも、今度は割って入ってこなかった。


 ただ、静かに見守っていた。


 守るだけではなく、信じる。


 それをしてくれたのだと分かった。


 退勤後、私は会社の外で誠司さんを待たずに帰った。

 今日は自分でちゃんと帰りたい気分だった。


 家に着いて、夕食の準備をしていると、誠司さんが帰ってきた。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 いつも通りの挨拶。


 でも、今日は少しだけ違った。


 誠司さんは鞄を置くと、私の前に立った。


「小春」


「はい」


「今日、よくやった」


 その声は、夫の声だった。


「課長としてですか?」


「課長としても」


「夫としては?」


「誇らしかった」


 胸がきゅっとなった。


「私、ちゃんと言えました」


「ああ。聞こえていた」


「瀬川さんに、大切な人がいるって」


「ああ」


「嘘じゃないです」


「分かっている」


 誠司さんは私を抱きしめた。


「信じるのが遅くなって、すまない」


「遅くないです」


「守りたいと思いすぎた」


「知っています」


「でも、小春は自分で立てる」


 私は誠司さんの胸に額を寄せた。


「まだ、ふらふらですけど」


「それでも立っている」


「じゃあ、倒れそうな時だけ支えてください」


「ああ」


「普段は見守ってください」


「努力する」


「また努力」


「……見守る」


「よろしい」


 誠司さんが笑った。


 その顔を見て、私も笑った。


 秘密はまだ続く。

 課長の妻であること。

 社長の姪であること。


 でも、今日少しだけ、私はその秘密に守られるだけではなく、自分の足で立てた気がした。


 そして翌日。


 部長が部内で言った。


「高瀬さんのチェックリスト、来週の社内共有会でも紹介してもらおうか」


 私は固まった。


 社内共有会。

 つまり、他部署の人もいる場。


 黒沢課長がこちらを見た。


 いやいやいや。

 話が大きくなっている。


 私、まだ新入社員です。

 心の準備が新入社員サイズです。


 でも、逃げるわけにはいかない。


 私は小さく息を吸って、頷いた。


「はい。頑張ります」


 その時、黒沢課長の目がほんの少しだけ優しくなった。


 大丈夫。

 見守ってくれている。


 そう思えた。

第6話をお読みいただき、ありがとうございます。


瀬川に対して、小春が自分の言葉で伝えたのは、


「私には、大切な人がいます」


という答えでした。


夫がいるとは、まだ言えない。


それでも嘘をつかず、自分でしっかり線を引くことができました。


そして誠司も、今度は途中で割って入りません。


ただ静かに見守る。


「守るだけではなく、信じる」


夫婦として、二人の距離がまた少し変わった回でした。


さらに、小春が失敗をきっかけに作ったチェックリストも評価され、ついには社内共有会で発表することに。


「課長の妻」でも、

「社長の姪」でもなく、


新入社員・高瀬小春として、自分の仕事で認められ始めています。


次はいよいよ最終話。


「会社では秘密、家では最愛の妻」


小春が自分の力でどこまで成長できるのか。


そして会社では完璧な課長と、家では小春に甘える旦那様の秘密夫婦がどんな結末を迎えるのか。


最後まで見届けていただけましたら嬉しいです。

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