211話 潰された目、隻眼へと
氷華による攻撃に魔王メアリーの注意が向いた時、マリーと召子は既に駆け出していた。
挟み込むように駆けた二人は、同時に自身の剣を振り下ろす。
氷華の攻撃を完全に弾き、振り抜いた直後の隙を狙って二人が攻め込んだ。
しかし、魔王メアリーは小刀を使うことなく、体術による迎撃を器用に披露する。
マリーの大上段からの振り下ろしには、小刀特有の後隙の少なさを利用して受け流し、反対の左手で腹部目掛けて正確に掌打を命中させる。
吹き飛ばされたマリーは腹を押さえて軽く血反吐を吐いたが、すぐにアビィのリジェネライト・ヒールで回復し、膝をついた状態から立ち上がる。
召子は連続攻撃を完全に見切られ、五度のやり取りを経て懐深くに潜り込まれると、回し蹴りを胸元へ叩きつけられた。
辛うじて聖剣の柄部分で受けてダメージを負うことはなかったが、地面を削りながら後退させられた。
聖剣を握っていた両手が痺れ、ガタガタと手元が揺れる。
――あの小さな身体でなんて重い一撃……!
魔王メアリーは召子目掛けて距離を詰めようとしたが、すかさずセレスティアが渾身の魔術で追撃を中断させる。
「ダブルキャスト・マジック――ハイリッヒ・グリッター!」
一直線に魔王メアリーへ向かって放たれた必殺の光線が直進する。
しかし、対象に届くことはなく、遥か手前で床を焼き焦がし一本の線が描かれた。
「なっ……!」
光属性と聖属性を組み合わせた複合魔術が地面へ強引に叩き落とされた事実に、セレスティアは冷や汗をかきながら半歩だけ下がる。
――光の一撃を強引に捻じ曲げられた……! まるでレルゲンの念動魔術のように!
唇を噛んだセレスティアの顔を見て、魔王メアリーは怪しく笑ったが、すぐにセレスティアを無視して召子とレルゲンがいる方向に向き直り、遠距離魔術をいくつも放った。
「グラビティ・ホール」
遠距離攻撃は全てレルゲンの矢避けの念動魔術で曲げられるだろうと、反対側にいたマリーは思った。
レルゲンへゆっくりと、しかし着実に距離を詰めてくる漆黒の球体は、床を削りながら突き進んでくる。
削り取った瓦礫を吸い込むように引き寄せ、形ある物を全て粉々にしながら、不気味に迫ってくる。
もちろんレルゲンも遠距離からの攻撃の軌道を曲げようと構える。しかし、接触まで残りわずかとなったところで異変に気づいた。
矢避けの念動魔術が張っている薄い膜のイメージが、黒い球体に全て絡め取られている。
そんな形容し難い、冷たい感覚がレルゲンを襲った。
即座にレルゲンは召子に〈飛翔〉のスキルで飛び上がるように声を荒げ、空中へ退避した。
「どうしたんですか? いつものように軌道を曲げれば躱さなくても……」
とりあえず指示に従って空中に退避した召子は疑問を口にしたが、レルゲンは魔王が放った魔術をじっくりと観察していた。
威力が落ちることなく壁面に到達した黒い球体は、なお止まることなく穴を開けて空中を彷徨い、魔王メアリーが指をパチンと鳴らすと虚無へと消える。
「よく躱した。そうでなければ、今頃君たちはアレに吸い込まれて一生出てこられなくなっていただろうね」
「どういう意味だ」
空中に退避したレルゲンと召子が降り立ち、削り取った床の跡を見ながら魔王メアリーに問いかける。
「君はいい眼を持っているね。薄々感じ取ったから上空へ飛んだんだろう? だからその眼を封じさせてもらうとするよ」
「何を言って……っ!!」
突如としてレルゲンが思い切り顔を逸らす。
片手で目元を押さえながら苦痛に抗うように声が漏れ、目元から小さな火炎が溢れ落ちる。
「ぐっ……!」
それを見た魔王メアリーは意外そうな表情になりながらも、レルゲンに向けて言葉をかけた。
「やはりいい眼をしている。両目を潰したつもりだったが、瞬間的に察知して片目だけを犠牲にして回避したか。だけどもう用済みだ。君は勇者を連れてきたまでは良かったけど、目障りだよ」
右手をレルゲンに掲げ、何らかの圧をかけて押し潰そうとする。
地面に押しつけられたレルゲンは意識を失い、抵抗する間もなく潰され、床に大きな亀裂が入る。
「レルゲン!」
マリーはレルゲンの下へ全速力で向かっていく。
「隷属の加護!」
押し潰している力を従えるイメージで、神剣をレルゲンの上空で振り抜くと、押し潰していく力が消えた。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




