210話 魔王との開戦
魔王メアリーが持っているのは、赤い脇差ほどの大きさの剣だった。それを勢いよく抜剣して召子に向かっていく。
全員が陣形を整えて魔王の攻撃に備えたが、陣形が完成する前に魔王の攻撃が召子に向かって放たれた。
大きな跳躍から小刀に意識を集中すると、人間には到底扱えないほどの大きさに変化する。
落下する重力も相まって、とてつもない一撃へと昇華した。
――回避は不可能。
聖剣を横に構えて受け止める体勢に入る。
――ドスンッ!
剣と剣の衝突音とは思えない程の轟音が響く。
刃こぼれすることなく火花を散らし、召子は中腰になりながらも聖剣で受け止める。
「いいね。今のを一人で受け止めるのは正直予想外だ。でも、これならどうかな?」
魔王メアリーが紫色の魔法陣を剣に展開すると、召子の足元が沈み込むように床が一気に削れていく。
「くっ……! 重、すぎる!!」
「このまま潰して終わりだよ。楽しみはあっという間に過ぎてしまうのが辛いところだけれどね」
押しつぶされそうに片膝を突く召子に向け、駆け寄りながら右手を伸ばす影が一人。
「上がれ!」
意思の込められた声が呼応するように召子の聖剣を押し上げていく。
両の足で立てるまでに上体を起こし、気合の込められた声を上げながら巨大な剣を押し返していく。
「やぁぁぁぁぁああ!!!」
華奢な召子の身体のどこに、今の一撃を跳ね返せるほどの力があるのか疑問に思ったが、魔王メアリーはすぐに答えへと辿り着いた。
「やっぱり君か、運び屋――いや、レルゲン・シュトーゲン」
「そんな簡単に勇者を討てると思わないことだ」
飛び退いた魔王メアリーはいつの間にか巨大な剣から小刀に戻し、次の攻撃の機会を伺う。
その間にレルゲンたちはようやく陣形を整え、万全の迎撃態勢を取る。
「盛大な挨拶をもらったんだ。こちらも返さなきゃ失礼だよな? ウルカ」
「いけぇー! レル君!」
「「第二段階、全魔力解放!」」
声を揃えた二人の気合と共に、全身から青い魔力が噴き上がる。部屋の窓ガラスはレルゲンの放つ魔力に耐えかね、外へ勢いよく吹き飛んでいく。
黒龍の剣に魔力が集約されていき、碧い刀身が伸びていく。魔王メアリーはレルゲンの攻撃準備を、ただ静かに見守っている。
全力の攻撃を放ってみろと言わんばかりの態度に、レルゲンは口角を上げて応える。
「行くぞ、魔王」
「いつでもどうぞ?」
大きく振りかぶられて放たれた碧い光線は真っ直ぐに魔王メアリーへ床や天井を飲み込みながら突き進んでいく。
再び小刀を横に構えて巨大化させ、レルゲンの渾身の一撃を受け止める。
巨大な剣の腹で受け止め、碧い光線が行き場を求めて上下左右に散る。
室内を破壊しながらも進み、最後には魔王城の外まで突き進んだ。
しかし魔王の前に現れた赤く巨大な剣は未だ健在。レルゲンの渾身の光線攻撃は不発に終わった。
「今のが全力ならいくらやっても無駄だよ」
――ギィィィィイインンン!!
――ギィィィィイインンン!!
聞きなれない音が室内で規則的に響く。
確かめるように魔王メアリーは巨大化させた小刀を元の小さな大きさに戻して、音の正体を目にする。
それは、剣同士が鋭く擦り合わされることで生じた音だった。
「何をしている?」
炎剣と白銀の剣を念動魔術で空中に固定し、お互いに引っ張るように擦り合わせることでできる炎剣の爆炎を白銀の剣が吸収していく。
「そこで大人しく見ていろ」
炎剣が放つ爆発的な熱を取り込み、白銀の剣に蓄えられるエネルギーを一瞬のうちに最大まで引き上げる。
白く、そして力強く発光する白銀の剣に炎剣を一体化させて、一振りごとに消費したエネルギーを即座にリチャージ可能な構造を完成させる。
――先程の攻撃は私が巨大化させた剣で防御すると、あらかじめ予想した上での攻撃だったわけか。
魔王メアリーがレルゲンの思い通りに展開が進んだと感じ取り、すぐに行動を開始して陽動を図ろうとしたが、足元がすでに何らかの手段で凍結し、身動きが封じられている。
レルゲンが浮かせている剣の一つに、凍刃龍からできた剣があると魔王メアリーは瞬時に理解する。一度の陽動で二つの策を実行しているレルゲンの戦闘練度の高さに、素直に称賛を送った。
「やるね。最初はこっちがペースを握っていたはずなのに、いつの間にかそっちが主導権を握っている」
凍らされた足元を小刀で叩き割り、小刀が急速に冷やされる。
魔王メアリーは氷を割って一瞬目を逸らすと、レルゲンは即座に距離を詰め切り、炎剣と白銀の剣が一体になった剣を上段から繰り出した。
――ガキィインン!!
大きな衝撃音が再び部屋中に響き渡り、今度は小刀が急速に熱せられた。
何度も連続で放たれた攻撃は、念動魔術のアシストも相まって魔王メアリーに反撃の隙を与えなかった。
――速さはヴァネッサと互角だと聞いていたけど、明らかに彼の方が速い。いや、この戦いの最中に速くなっているのか。
爆炎をまき散らしながら何度も打ち付けられたことで、小刀を引っ張られるように白く変色していく。魔王メアリーはこのままでは武器が保たないと判断し、下段から突き上げるようにレルゲンの二刀を弾き上げて距離を取った。
しかし今度はレルゲンが氷華に持ち替え、遠距離からの一撃を放つ。これを利用しようと考えた魔王メアリーは、あえて避けずに小刀で払いのけた。
極低温の攻撃を弾いたことで、小刀は煙を上げながら鮮やかな赤色に戻った。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




