205話 マリーの新たな光
マリーとセレスティアもまた、自身のコピーと戦っていた。
始めはレルゲンたちと同様に、大きな鏡の前にいると錯覚した。だが、セレスティアが鏡に映った自分たちから魔力を感じるのはおかしいと気づく。
「それにしても、武器の性能まで同じなんて!
どうやったらこの剣とセレス姉様の杖が再現できるのよ!」
マリーはしばらく悪態をついていたが、セレスティアがたしなめるように、自分たちと異なる点を指摘する。
「姿や使える魔術、武器は同じように見えますが、魔力総量は見たところ私たちより若干ですが低いです。これは気のせいかもしれませんが、攻撃に移る際に、コピーの方は感情が乗っていないようにも感じます。マリー、絶対切断の加護の発動条件は、斬る対象を強くイメージする必要がありましたね?」
「ええ、だから発動して斬る時は自然と周囲に気取られやすくなるわ。でも、あのコピーが持っている剣にはそれが感じられない」
セレスティアが頷き、神剣が敵に回ると一番厄介な、絶対切断の加護の発動条件をコピーは満たせないと確信する。
それならば絶対切断の加護を軸に戦うべきと判断し、セレスティアはマリーに高速バフをかけた。
精密動作や速度、身体強化など基本的な補助魔術をかけると、コピー側もまた同様の魔術をかけていく。
だが、ここからが違った。
セレスティアの瞳に力が宿っていき、そして唱える。
「ダブルキャスト・マジック――エア・スピード」
二人の周りに周辺の大気を巻き込むように風を纏う。身体の表面付近を鋭い風が吹き抜け、マリーが意識を手に集中させると、強い風が音を立てて唸る。
初めて見るセレスティアの補助魔術にマリーはコピーの方を見るが、セレスティアのコピーは同じ魔術を発動しない――否、できなかった。
それを見てセレスティアはまた一つの確信を得る。
「マリー。相手の私たちはやはり新しく手に入れた魔術を再現できません。なので、新しい攻撃の術を会得すれば真似されることはありません」
「じゃあこれはセレス姉様が今、新しく覚えた魔術ってこと?」
薄く笑って肯定すると、「なるほどね」とマリーが冷や汗をかいて納得する。
ここは言わば、格好の成長機会。
逆を言えば、これから強くなれなければ相打ち覚悟の消耗戦が始まる。
セレスティアの新しい補助魔術で戦いを有利に進められるのは間違いないだろう。
しかし、マリーはそれだけで満足しなかった。
――今、私に足りないものは何? 私の強みはどこにある?
普段から無意識に働かせている戦闘の思考。しかし今回は強く意識して思考を走らせる。
視線が自然と下がりながらも、虚空を見つめながら遠い目をする。少しずつではあるが、頭が冷やされつつ集中力が上がる実感があった。
――剣術、魔術、戦いの心持ち、そして複数の加護。みんなの中で、私にしかない長所は……!
一つの答えに辿り着いたが、それが本当に可能なのかと疑問に思う。
そもそも、その力は生まれつき備わっているものが大半で、悪魔は知らなかったが、武器や装飾品で増やすこともできる
しかしそれを『意識的に増やす』ことが本当に出来るか?
物心つく頃には、自分は世界に愛されている稀有な存在の一人だと知っていた。
持っていることを知ってから、実際に発動するまでに数年かかり、今でこそ理解して使いこなしているが、それまでは全くと言っていいほど扱いきれていなかった。
今新しいものを授かったとして、この戦いを有利に進められるだけの理解ができるのだろうか?
――不可能だ。
新しい力を授かってから使いこなすまで、最も短かったのは、神剣に最後の宝石が嵌ってからだった。
それが、実際に心の真髄を理解し、実行できたジャックとの戦い。
――最短でも数十日かかっている。
新しい光を掴みかけたと思ったが、夜空に輝く一等星が徐々に光を失っていく。
――これからやろうとしているのは本当に難しい。可能な理ではないのかもしれない。でも私は、ここで諦めたくない!
マリーの瞳から力が抜けていく。
ここで止まりたくない――その強い意思が、再び心の灯に火をつけていく。
魔力ではない。
似て非なる青いオーラが身体から滲み出るように、少しずつ溢れてくる。
「マリー、その光は……」
セレスティアが言葉を漏らすが、今のマリーには既に届いていない。
マリーだけに聞こえる声が頭の中に響いた。
『あなたに祝福を』
マリーの身体から溢れていた青いオーラが収まり、目に宿っていた力強い何かが薄れていく。
マリーは虚空を見上げ、一言だけ感謝の意を返した。
「――ありがとう」
新しい加護を授かり、確かめるように手を閉じて、開く。頭の中に浮かんだ新たな力は、すぐには理解できなかった。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




