204話 負ける気がしない
召子はプロパティを開き、改めて自身の〈スキル〉を確認する。
何かしらのトリガーを満たした後に取得できる、戦闘を有利に進められる〈スキル〉なのは間違いない。
召子のレベルは現在282。
もうじき三度目のレベルアップボーナスが訪れると頭の隅で考えたが、朱雀の時のようには恐らくはならない微妙なレベル。
また、スキルは〈対魔王城〉がコピー側の召子には適用されないことを除けば、汎用性の高いスキルを多く持っている召子とは遜色の無いコピーだ。
いつ来るか分からないスキルの追加取得ではなく、召子が注目したのは聖剣に関する〈スキル〉。
〈魔力眼〉で聖剣を確認すると、一度見た時と同じく魔力の流れが自分の持っている聖剣とは似て非なる流れとなっている。
――コピーは聖剣関連の〈スキル〉は発動しない……はず。なら、私は決定的な違いを押し付けていけばいい……!
召子は自身の能力変化よりも、聖剣としての性能を押し付けようと、自身のコピーへ向けて走り出す。
レルゲンはもしも自分が相手の立場なら、間違いなく聖剣を持たない仲間を庇いながら戦略を組み立てるはずだと考える。
その考えに倣うように、レルゲンのコピーが動き始める。前もって準備が出来ていたため、コピーが動いた先に余裕をもって浮遊剣を突き刺し、注意をこちら側に向けさせる。
今のごく短いやり取りの中で、自分の思考までもある程度はトレースされていると知ると、レルゲンは少し口角を上げる。
――思考がトレースされているのはむしろついていたな。突拍子もない動きをされる方がやりづらい。
援護を阻まれたなら、次に自分ならどうするかを考える。
――俺なら遠距離からの牽制を入れる。
コピーが動く前よりも早くレルゲンが相手との間に割って入り、召子のコピーに対して背を向ける。
すると、召子のコピーは一見隙だらけにも見えるレルゲンに身体の向きを変えようと、一歩足を踏み出した。しかし、駆け出していた召子がレルゲンの背中を護るように入り、聖剣を構える。
コピーの二人に挟まれるように、一直線に四人が並ぶ。
「背中は任せて下さい!」
「頼んだ」
本来はコピーとの立ち位置が逆になる方がベスト。だが、あえて不利とも取れる移動は、レルゲンの念動魔術で召子を援護するにはむしろ都合が良かった。
「私の聖剣で押していきます。レルゲンさんはコピーの遠距離攻撃がこっちに流れないように援護をお願いします!」
「ああ、任せてくれ」
レルゲンは普段から戦いの時は先手を取り、戦闘の主導権を握ることを心がけていたが、今回は違う。
これは言わば迎撃戦。
下手な遠距離攻撃を仕掛ければ、たちまち軌道を曲げられてしまう。
悪い予感がお互いのぎこちなさを生んでいた。
レルゲンが自身のコピーを倒す方法は大きく分けて二つ。
一つはコピーですら曲げられない強固な念動魔術を発動し、遠距離から相手の動きを封じる方法。もう一つは、近接戦で相手よりも速く致命傷を与えること。
近接戦を仕掛ければ、今戦いを始めた召子に浮遊剣でちょっかいをかけることは簡単に予想がつく。
やはり遠距離からの攻撃で、純粋に念動魔術の精度を更に上げた一撃が必要な局面。
それでも念動魔術の精度を上げるには、莫大な時間か、相応の修羅場が必要になる。
レルゲンとそのコピーは、互いに相手を探りながら睨み合っていた。
コピーが再び動く条件は、オリジナルのレルゲンが近接を仕掛けた時と、仲間に危険が及んだ時。その二つに絞られている。
だからこそ、レルゲンは後ろで聖剣の性能をフルに活かしながら戦いを進めている召子に、意識の多くを割いていた。
「やぁあああ!!」
短い気合いと共にコピーを押していく召子。
同じ聖剣の姿をしていても、精霊が与えた物と人工的に作り上げられた物――格の違いは明白だった。
同種の〈スキル〉を持ち、レベルも同じ。
それでも武器の真贋だけでここまでの差がつく。召子の見立てが正解だと証明されたところで、レルゲンのコピーが第一段階の全魔力解放を始める。
召子が目を丸くして一瞬、身体をこわばらせるが、すかさずレルゲンもウルカの力を借りて赤い魔力を放出。
「俺のコピーは絶対にそっちに行かせないようにする! だから召子は気にせず押してくれ!」
召子は聖剣を叩きつけながらレルゲンのコピーからは意識を切り、再び自分の敵へ集中する。
――全魔力解放をして何をするつもりだ……?
コピーは氷華にいつの間にか持ち替え、大上段に構えて氷華に魔力を乗せていく。
一方オリジナルのレルゲンは相手が未知の攻撃を始めた瞬間に警戒心を最大まで上げ、同じ氷華ではなく炎剣にブルーフレイムを念動魔術で固定して構える。
「喰らえ」
コピーが短く吠えたと同時に、氷華を振り下ろす。全魔力を乗せた氷華の遠距離攻撃は、無数の氷の板を周囲に出現させ、冷気を撒き散らした。
「これは……」
無数の鏡があるような空間に閉じ込められ、そこは一種の迷路のような構造となっている。
――一刻も早く仲間を助けに行くつもりか。
反属性で待ち構えていたレルゲンは素早く考えを転換させ、囲まれた氷の迷路を溶かすために白銀の剣にブルーフレイムを吸収させる。
白い輝きになった白銀の剣を氷の鏡に差し込むと、水蒸気が立ち上りながら綺麗に溶かしていく。
しかしレルゲンは自身のコピーを完全に見失った――いや、正確にはどれがコピーなのか視覚だけでは判別できなくなったレルゲンは、魔力感知へと切り替えて敵の位置を探る。
駆け足で召子の下へと走り寄っていくコピーに白銀の剣の切先を向け、そこへ自分の魔力を混ぜ込むことで、念動魔術を発動しやすくする。
撃ち込まれた熱弾は、先ほど溶かした時よりも速く、そして高い温度を維持しつつ氷の板を何枚も溶かして破壊していく。
何発も撃ち込み熱源の再チャージが必要になるほど光が失われたが、今度はブルーフレイムを掌に出現させては念動魔術で白銀の剣に吸収させ、それを撃ち込む。
レルゲンの魔力――否、ウルカの魔力が続く限り、無限に撃ち込めるよう工夫を凝らし、連写速度が上がる。
完全に氷を溶かし切り、レルゲンのコピーに向けて熱弾が命中し足が止まる。
接触した部位は溶けるように抉れ、傷口から煙が立ち上る。
やがて収まったと同時に、コピーが言い放つ。
「その攻撃はいくらやっても無駄だ」
「どうかな。お前は俺だ――身体の構造が違うのは認めるが、それが真実を口にするとは限らない」
「好きにしろ。お前は自分自身をよくわかっているつもりでいるが、それは本当の心からくるものではない」
「どういう意味だ?」
「どうせ気づくから教えてやるが、心の奥ではパーティメンバーを足手まといに思っているだろう。初めて深域へ調査に行った時、お前は、いや俺は安心した。それが答えだ」
「確かにあの時はお前の言うとおりだ。だが、違った。俺一人で頑張らなくてもいい。今は肩を並べて一緒に戦ってくれる仲間がいる。気づかせてくれたのは仲間や、帰りを待ってくれる人たちだ。思考までコピー出来ても、肝心のところでお前は決定的に欠けている」
「何にだ」
「俺はコピーであるお前に負ける気がしない」
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




