203話 殻を破るための自立
新しく手に入れた玩具を眺める子供のような声色で話を続ける。
「その魔物は今の君達自身――どう倒すかはあえて教えない。それを思考して実行する過程こそ、僕の……いや、魔王様が見たい景色だからね」
「他の仲間は俺たちと同じような部屋に飛ばしたのか?」
「同じ研究者の彼女はここに残り、姉妹の二人――だったかな? 君の言う通り別室で戦っている。ここに戻って来たければ、そこにいる自分自身を倒す他ないよ」
姿や武器がどういった原理で再現されているのかは理解できなかったが、レルゲンは召子とそのコピーとの違いに気づいた。
もう一人の召子が持っている聖剣は、間違いなくオリジナルの劣化版。魔力の動きが鈍く、流石に再現はできても完璧な複製はできていない。そして、複製されたもう一人の召子は、魔力を少なからず纏っている。
――これは間違いなく模倣する時の影響だな。勇者の持つ〈スキル〉もコピーされているのか?
「召子、奴らのポテンシャルを見たい。飛んでみてくれるか?」
「わかりました」
召子が少しずつ高度を〈飛翔〉で上げていくと、もう一人の召子も合わせて宙に浮き、上を取らせまいと追従する。
――〈スキル〉の模倣もできるなら、俺の武器や魔術は全て使えると思っていいか。
まず仕掛けたのは召子のコピー。
すかさずレルゲンが召子に迫る攻撃をカバーしようとするが、レルゲンのコピーも合わせるように動き始める。
結局本体とコピー同士がぶつかり合う形となり、最初の一合目は拮抗する。
レルゲンに至っては姿形以外にも魔力まで酷似している。思考までもトレースされていそうな表情を見て、顔をしかめる。
レルゲンが考えを巡らせていると、コピー側が機械的に一言だけ呟く。
「第一段階、全魔力解放」
赤い魔力がコピーから噴き上がり、普段自分が多用している術まで完璧に再現している。
すぐに鍔迫り合いの状態から、魔力を解放したコピーがレルゲンを一歩ずつ押し込んでいく。
「くっ……!」
こちらも対抗するために全魔力解放をしようとしたが、ギリギリのところで踏みとどまる。
一旦距離を取り直すと、胸のポケットに入っているウルカが顔を覗かせた。
「レル君、私の力は相手には真似できない。私の魔力を戦いの軸に使っていいからね」
「助かる」
普段からウルカと繋がっているパスに意識を集中する。細い糸でのやり取りではなく、強く太くイメージすると、大量の魔力がウルカから流れ込んでくる。
純精霊はコピーできなかったようだが、早々に手札を一枚切ってきたコピーたちに対し、レルゲンは後手に回った。
「……次はこちらから行かせてもらう」
黒龍の剣にウルカから供給された魔力を込め、遠距離から召子のコピー目掛けて赤い光線を放つ。
聖剣で打ち合っていた召子は〈飛翔〉スキルで距離を取ったが、レルゲンのコピーも黒龍の剣に魔力を込めて、赤い光線を放ち相殺する。
小さい爆発と共に煙が立ち上ったが、レルゲンのコピーは表情を変えない。
――やりづらいな。
複数人での戦いなら、やはり頭数を先に減らすのが定石。それを理解しているかのような反応の速さと、コピー同士で連携が取れることは脅威と言っていい。
レルゲンの横に降りて来た召子が声をかける。
「どうしますか?」
「召子のスキルが増えれば優位に立てると思うが、いつ手に入るかが予測できないからな。ここは少し時間がかかるが俺のコピーから先に倒そうと思うが、どう思う?」
「向こうはウルカちゃんのコピーはいないようですし、それでいいと思います。私は私の偽物がレルゲンさんに余計なちょっかいを掛けないように足止めに集中しますね」
レルゲンは相手のコピー二人が横に揃うのを見てから、首を横に振る。
「いや、足止めだけで満足しない方がいいかもしれない――何か引っかかる。倒せるならお互い早めに倒してしまった方がいい」
召子はレルゲンの考えを察して頷き、 聖剣を構え直したと同時に、レルゲンに心のどこかで頼っていたことに気づく。
――もっとちゃんとしなきゃ……! 私がさっきの私よりも強くならないと、レルゲンさんの負担が増えるだけ!!
一度大きく深呼吸してから、誓うように宣言する。
「こっちは任せて下さい。私一人で倒すので、レルゲンさんはそちらのコピーに集中して下さい」
「よし。そろそろ向こうも痺れを切らす。そっちは任せた」
「はい!」
フェンやアビィ、そしてレルゲンというパーティの精神的支柱に頼らない戦いが、召子の心を再び突き動かす――
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「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




