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第4話 中途半端に優秀な奴は、総じて性格がクソ

少年の献身、そして勇気。

それを無に帰すアロンの「解雇」。

……第1章、完結です。




「パーティーメンバーが優秀だと、リーダーの俺の輝きが霞むんだよね……解雇」



「え??」



 脳が言語を処理しきれない速度で弾かれたような声だった。


 時間が止まったように思えた。

 病室の音がすべて遠のいた。目の前の空気が、硝子のように崩れていき、ヘリックの目が理解と混乱の狭間でぐるぐると泳ぎ始める。


 その横で、リンカが立ち上がる。無言で私物をまとめ、椅子の背にかけていたローブを肩に羽織る。



「よし、アロン。支度できたぞ」


「うむ、俺もだ」



 慣れた動きで荷物を背負い、二人はさっさと病室のドアへ向かう。



「あ……え……ちょ、ちょっと待ってください!アロンさん!?なんで!?本当に!?今のって冗談ですよね!?僕、頑張ったし……ちゃんと……!」


「ま、そういうことだ」



 アロンが背中を向けたまま言った。

 その声は、なぜか一切の感情の起伏がなく────だからこそ、刺さった。


 パタンと扉が閉まる音が、病室にやけに響いた。


 


 しばらく呆然と立ち尽くしていたヘリックは、ゆっくりと座り込んだ。



「……はは……冗談……ですよね? うん、たぶん……きっと……」



 でも、心のどこかで分かっていた。


 アロンが“冗談”や“嘘”を1番嫌うことを────



────

───

──



 何分、何十分、どれほどの時間が経ったのかも分からなかった。

 自分の中で、世界が一度止まったように感じたのは間違いない。

 けれど、止まったままでいるには────あまりに………



「やっぱり、納得いかない…解雇ってどういうことだよ……」



 かすれた声が喉の奥に残ったまま、ヘリックは体を動かした。

 息も上がっていたし、足もまだしびれていたけれど、それでも────行くしかなかった。


 


 そして、彼はギルドにたどり着いた。


 


 木製の扉をくぐった先、ギルドの中は相変わらずの喧騒に満ちていた。

 酒と革と鉄の匂いが混ざり、熱気だけで頭がのぼせそうになる。

 けれど、その中で────彼らは、すぐに見つけられた。


 アロンとリンカは、広場中央のテーブルに並んだ依頼情報を見つめながら、冒険者たちをざっと見渡していた。



「んー、あの辺りの赤毛の奴とか良さそうだな。ポテンシャル、低めで性格も大人しそうだ」

 アロンが顎に手を当てて分析するように呟く。


「あっちはどうだ?あのガタイの良い奴…腕力特化型っぽいから、多分バカだぞ」


「うーん……いや、筋肉が主張しすぎてる。むさ苦しいオーラがある奴はちょっと……」


「じゃあ、あそこの奴……どうだ?端っこで座ってるあいつ」



 リンカが小さく指を動かす。



「……悪くない。雰囲気も地味でパッとしない所が良い。だが……魔力が、ちょっと多いな」


「却下か」


「却下だな」



 何の悪気もなさそうなその会話が、ヘリックにはやけに冷たく響いた。

 無数の声の中でも、彼らの声だけが、耳に突き刺さった。


 

「アロンさんッ!!リンカさんッ!!」



 その名前を叫んだとき、自分でも声が裏返っていたのが分かった。

 ギルドの何人かがちらりとこちらを見たが、誰も気に留めなかった。


 その中で────2人だけが、声の方にゆっくりと顔を向けた。


 視線が交錯した。

 だが、表情は何も変わらなかった。



「ん?ヘリック君か」



 アロンはいつもの調子で、ゆるく笑いながら言った。



「どうした?いきなり大声出して」


「……ちょっと、話が……したくて……」



 精一杯の声だった。思いは喉元まで来ていた。

 “なぜ解雇されたのか”───それだけを、聞きたくて来たのだから。


 でも、アロンの返事はあまりにも軽かった。



「なるほど…だが今は忙しいんだ、ほら。俺とリンカは“新たな仲間”を探してるところでな」


「……!」



 そのときのヘリックの胸の奥で、何かが静かに軋んだ音がした。


 

 ────でも、きっとそれでも彼は、まだ“信じたかった”。

 だが、信じるには、あまりにも彼らは“変わらなさすぎた”。



「……どうして仲間探してるんですか……僕がいるじゃないですか……!」



 必死に言葉を繋げるその表情は、戸惑いと哀願が入り混じっていた。



「……君は解雇した筈だが?」



 しかし、アロンは首を傾げる程度の反応。



「どうしてですか!? 僕、何か悪いことしました!? 何かしたなら謝りますから!! お願いします、仲間にしてください……!」



 言葉が懇願に変わる。

 その目には確かに“願い”が宿っていた。



 だが────



「しつこいな……」



 アロンは、ゆっくりと笑う。



「君、何?ちょっと優しくしたからって、いつまでも仲間面しないでくれるか?」



 その言葉に空気が張り詰めた。


 ヘリックの全身から、ふっと力が抜ける。


 だが、すぐに怒りがそれを塗り替えた。



「……何だよ……」



 ヘリックが震える声で言う。



「何なんだよ、その態度は……!!」



 怒鳴り声がギルドの一角に響き渡る。




「助けたの、どこの誰だよ!!あの状況から助けたの誰だよ!!僕だろ!!命懸けで、2人のこと……助けたのになんだよ、その言い方は!!」




 その叫びに、周囲の冒険者が振り返る。だが、誰も口を挟もうとはしなかった。


 アロンは、表情を崩さなかった。






「頼んでないが?」





「……は?」



「俺は君に“助けて”って言ったか?言ってないよな……それにそもそもだ、あの状況を招いたのは、お前の不注意が原因だったよな」



 ヘリックの顔が青ざめていく。



「言ったろ、最初に。“リンカの護衛”が君の役目だって。言ってなかったか?それ以外に何か頼んだ覚えないんだが?」



 言葉は、平坦だった。

 だが、その一つひとつがナイフのように突き刺さった。


 ヘリックの拳が、震える。

 言い返したい。でも言葉が見つからない。


 ギルドの空気が静かになっていた。


 正確には、喧噪はそのままなのに、自分たちの周囲だけが隔離されたような────そんな奇妙な静けさが、そこにあった。





『頼んでないけど。助けてくれなんて、一度も』





 アロンのその言葉が、ヘリックの内側にあった何かを確実に壊した。


 歯を噛み、拳を握り――抑えきれなかった。



「てめぇ……!」



 叫ぶより先に、体が動いた。


 ヘリックはアロンの肩を両手で掴み、そのまま力任せに揺さぶった。



「何なんだよ、お前……っ!!」



 怒鳴りながらも、目には涙が滲んでいた。


 ────それでも、アロンの表情は変わらなかった。


 まるで“ヘリックという存在”が、もう視界にはないかのような無関心。


 それを見た瞬間、何かがぶつりと切れた。



「……もういい」



 振りほどくように手を離し、一歩、距離を取る。

 そして、声を震わせながら叫んだ。




「もう、いい!! お前みたいなクソ野郎が……“良い人かも”なんて思った俺が……バカだった!!!」




 喉が潰れそうになるほどの声だった。




「モンスターにでも襲われて、勝手に死ねっ!!」




 そのままヘリックは背を向け、ギルドを飛び出した。

 後ろ姿は怒りと涙に揺れていたが────誰も追わなかった。


 しばらくして、アロンが口を開く。



「見ろ、リンカ……中途半端に優秀な奴は、総じて性格がクソだ」


「そうだな。お前が言うと説得力が違う」


「おい」



 アロンが眉をひくつかせて振り向くが、リンカはさらりと無視していた。



「まぁいい……骨折り損のくたびれもうけとはこのことだ。優秀な仲間など要らないと言うのに、つい、期待してしまった……」



 ギルドの喧騒がまた、少しずつ戻ってくる。



「……すまんな、リンカ。こんなに目立っては、また2人での冒険になりそうだ」


「はあ……」


 リンカはため息をひとつだけ吐き、心の中でぽつりと呟いた。






「(コイツを解雇したい)」




解雇された少年。そして、平然と歩き出す二人。


読んでくれている方、モチベーションに繋がってます、本当に嬉しさと感謝でいっぱいです!

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