閑話① 危険な境界線 ~リンカ視点~
「……もっと、上だ。足首だけじゃ……痛みが引かない」
ダンジョンでの気絶、そして解雇。
そんな騒がしい一日の終わりに訪れる、静かな宿屋の一室。
相棒リンカと、無自覚なアロン…
二人の間に流れる、少しだけ「危険」で、ひどく「甘い」温度。
……本編の毒消しに、どうぞ。
エンバリの宿屋。窓の外からは、夜の喧騒が遠い波音のように響いてくる。
部屋を照らしているのは、サイドテーブルに置かれた小さな魔導ランプの灯りだけだ。その淡い光が、ベッドに横たわる私の視界を、ひどく狭く、そして濃密に縁取っていた。
「……っ、あ……」
シーツを指先で強く握りしめ、わざとらしい吐息を漏らす。
ダンジョンの落下で捻った足首は、今も脈打つような熱を帯びていた。けれど、私の心臓が刻む鼓動は、それ以上に激しく熱を煽っている。
「動くなと言っただろう。お前は俺がいなければ、自分の体の管理すらできないのか」
低く、けれど心地よい呆れを含んだ声。
ベッドの脇に座ったアロンが、迷いのない手つきで私の足首を掴んだ。
「……うるさい。痛いのは、お前が無茶な落ち方をしたせいだろ」
強がりを言いながら、私は彼の手を受け入れる。
アロンの掌が、私の素肌を包み込んだ。
魔法ではない。ただの、無骨なマッサージ。
けれど、触れられた場所から痺れるような熱が全身に駆け巡り、脳の芯を焦がしていく。
「帰ってきてから痛いなど…そういうのは早く言え」
アロンは真剣な眼差しで、私の足を見つめている。
彼の指先が、痛みの芯を捉えるように、ゆっくりと圧をかけていく。
「(しかし…)」
この男の、余裕を。
その「聖域」のような無自覚を、一瞬でもいいから掻き乱してやりたい。
私は少しだけ身を乗り出し、彼の腕を掴んで自分の方へと強く引き寄せた。
「なんだ? まだ痛むのか」
引きずり込まれるようにベッドに手をつき、鼻先が触れそうな距離まで顔を寄せてきても、アロンは眉一つ動かさない。驚きも、動揺もない。ただ凪いだ瞳。
私はその無機質な視線を捉えたまま、火照った脚を彼の腰に絡ませるようにして、囁いた。
「……もっと、上だ。足首だけじゃ……痛みが引かない」
アロンの手が、ふくらはぎを通り、膝を越えていく。
「ここか?」
「……もっと、上。……そこ、もっと強く……」
私の誘導に従い、アロンの手は太ももへ、そしてそのさらに奥……内ももの先…肌と下着の境界線すら危うい場所へと滑り込んでいく。
指先が柔らかな肌を沈め、秘められた熱に触れるたび、私の体は甘い悲鳴を上げそうになる。
が……
「ふむ……確かに、ここも少し張っているな。筋肉が強張っている。……よし、徹底的にほぐしてやろう」
アロンは至近距離で私を見つめたまま、微塵の邪念も感じさせない、あまりに「誠実」な手つきで指を動かし続けた。
動揺しているのは、私の方だった。
彼を陥れるはずの指先が、かえって私の理性を焼き切っていく。
「……っ、お前……本当に……んっ!…」
私は耐えきれず、彼の首筋に腕を回して、その肩に顔を埋めた。
アロンの体温が、私の狡猾な企みさえも飲み込んでいく。
「なんだ。痛みが引いて、ようやく眠気が来たか?」
相変わらずの、デリカシーのない正論。
しかし私の腰を抱き寄せる腕の力強さは、世界で一番甘い毒だった。
「(……ほんとう…っ!…に!…そういう…んんっ!……ところだぞ!)」
私は暗闇に紛れて邪悪な笑みを浮かべる。
その毒を一生を独占してやるのだ。
「……お前、やっぱり顔が赤いぞ。風邪か?」
「……黙れ。早く寝るぞ」
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