第3話 覚醒
「僕、頑張りますっ!」
自称SSSランクに拾われた、何も持たない少年ヘリック。
彼が望んだのは、ただの「居場所」でした。
……少年の「奇跡」が、今、目を覚ます。
「この2人だけは……僕が、死んでも……絶対に、守るって決めたんだよぉおおおおおっ!!」
へリックがそう叫んだ瞬間────
周囲の空気が爆ぜた。
風が逆巻き、地に溜まっていた魔力が音もなく蠢き始める。
魔物が、僅かに首を傾ける。周囲の魔素が───暴走した。
ヘリックの足元に、小さな魔法陣が浮かび上がる。
脈動するように光が拡散し、彼の背から青白い光の鱗粉が噴き上がる。
「っ、あ……ああ、なんだ、これ……身体が……熱い……ッ!」
筋肉が膨張していくわけではなかった。
どこかで聞いたこともない言葉が、自然と脳内を満たしていく。詠唱でも、記憶でもない、“心そのもの”が言葉になっている。
「……力が、あふれて……っ……体が、勝手に……!」
無数の魔力の粒子が、腕に沿って収束する。
空中で折れた杖の欠片が回転し、魔素がまとわりつくことで、新たな“形”を成した。
槍のようで、杖のようで、剣のようでもあった。
その刃は未だ曖昧で、しかし確かに“願いの形”だった。
ヘリックはもう震えていなかった。
「……行くぞ」
魔物の前へと、まっすぐに踏み出した。
その瞬間…目の前の黒獣は吠えた。
音ではない。空気が撚れて崩れ落ちるような咆哮。
その巨体がゆっくりと方向を変え、ヘリックのほうを捉える。
────己を害を為さんとする敵と見做した。
ヘリックは生成した魔力の武器を片手に構えながら、一歩一歩と踏み出した。
彼の周囲では浮遊する魔素が白く、青く、時おり金色に光を変えて明滅していた。
魔物が腕を振りかざす。巨大な鉤爪が、真横から振り抜かれる。
だが────
ズバァッ!!
“空間ごと”裂けるような音がした。
「――ッ!」
次の瞬間には、ヘリックの姿が消えていた。
否、“高速移動”────魔力による瞬間加速。それを反射的にやってのけた。
肉体の悲鳴を無視して、魔力が血液のように体内を循環している。
「(動ける……!今だけ、僕の体が……!)」
回避と同時に跳躍。折れた杖の欠片で形成された“蒼槍”を振り下ろす。
先端が黒獣の肩に突き刺さった。
────ギィン!
突き刺さった、にもかかわらず、弾かれた。
皮膚すら貫けない。だが、わずかに動きは止まった。
「は、っ……く……そ……!」
ヘリックは吠えた。全身の魔力を一点に集中させる。
「逃げるわけには……いかない……!!」
踏み込む。槍を突き出す。連撃。三撃、五撃、八撃────
怒涛のような攻撃が重なって、魔物の外殻に一筋の亀裂が走った。
だが────ボスは、そこで大きく腕を後ろに引いた。
咆哮。振り下ろされた右爪。
ドガァァアァァ!!
「ぐはッ――!!」
真っ正面から食らった。
槍が吹き飛び、肩が砕け、空中で回転しながら地面に叩きつけられる。
折れた骨。裂けた皮膚。吐き出される血。
もう、立てない。
それでも、彼の手が……地面を、掴む。
「立て……立て……!僕が……やらないと……!!」
そのとき。
地面に散らばった魔力の粒子が、彼の傷口に吸い込まれた。
魔法陣が二重に展開される。
構成は不明。詠唱もない。だが、“発動”した。
次の瞬間、空気が弾けた。
ヘリックの身体から、一条の光が天井に向けて伸びた。
「あああああああああああああああッ!!」
視界が白く塗りつぶされる。
そして────
────閃光。
地面を揺るがす爆発音と、風圧のような熱波が奔る。
何が起こったのか。誰も分からない。だが、確かに。
気づけば、黒獣はその巨体の半身を失っていた。
そして、その場で崩れ落ちるように倒れ、動かなくなった。
……すべてが、静かになった。
ヘリックはその場に膝をついた。
魔力は尽き、息は切れ、意識もろうとしながら────それでも、笑っていた。
「……倒した……倒せた……はは……」
と、そのとき。
────ゴウン、ゴウン、と不規則な音が洞窟内に響き始める。
魔物の死によって“自動起動”したと思しき魔法装置。
背後の壁がゆっくりと開き、その奥に淡い緑色の光を放つ転送陣が現れる。
「……戻れる……街に……」
最後の力を振り絞って、ヘリックは倒れていたアロンとリンカを背負い、転送陣の中央へと歩いた。
その背を支えていたのは、もはや筋力でも魔力でもない。
たったひとつ、彼が人生でようやく手にした────“守りたいと思えるもの”だった。
---
天井が、やけに白かった。
目が覚めたアロンは、まず自分の枕の硬さに疑問を持ち、その後、胸に刺さるような薬品の匂いに気づいた。
「……ここは……病院、か?」
壁は無機質で窓も狭い。見慣れぬ天井と清潔すぎる空気。どうやらダンジョンではない。
「……起きたか」
その横ですでに目を覚ましていたリンカが、ベッドに腰掛けたまま呟いた。
「落下の直前に無理な動きしたせいで背中を打ったそうだ……気を失って当然だ」
「……そういうお前も、庇ったのに何故ベッドなんだ」
「私はお前みたいに頑丈じゃないんだ…いくら衝撃を緩和してくれたとしても、擦り傷一つでもあれば気絶するさ」
二人は短く呼吸を整えるように黙り合い───そこに、ノックもなくバタンと扉が開いた。
「アロンさんッ! リンカさんッ!!」
どこか情けなくも懐かしい声だった。
廊下から転がるように駆け込んできたのは、涙目のヘリックだった。
「め…目覚めたって聞いて……っ、よ、良かった、本当に……!」
彼は顔をくしゃくしゃにして駆け寄り、ベッドの脇に立つと、深く頭を下げた。
「なぜ俺たちが……病院に?……あのあと、何があった?」
アロンの問いに、ヘリックは少し言葉に詰まりながらも、丁寧に語り始めた。
階層ボスとの戦闘。二人が意識を失ったこと。自分一人で立ち向かったこと。
そして、魔力に導かれ、結果的にボスを撃破し、転送陣を起動させて────
「そ、それで……お二人を背負って、街まで戻って……本当に無事で良かった」
語り終えたヘリックは顔を上げた。
だが、アロンの反応は────
眉間に皺を寄せて、非常に不機嫌そうな顔をしていた。
「……なるほどな。倒したんだな。お前が、一人で」
「は、はい!……一応、その、たぶん……!」
「ふーん……」
アロンは、視線を外した。
その様子を見ていたリンカが、アロンにだけ聞こえるようにぽつりと呟いた。
「お前……拗ねてるのか」
「拗ねていない」
即答だった。
「……ふぅん」
部屋の隅には、誰も知らない温度の空気が流れ始めていた────ような気もしたが、ヘリックは気づいていない。
ヘリックは無垢な笑顔を浮かべたまま、ベッド脇に立っていた。
「僕……強くなりました!!」
言葉には震えも迷いもなかった。胸を張りすぎてやや反り返っているのがむしろ痛々しいほどだった。
「これで僕は、晴れてお二人の“本当の仲間”になれたんです!! これからも、よろしくお願いします!!」
アロンはその言葉を聞いても、顔色ひとつ変えなかった。
その目はどこか遠くを見ていた。
心ここにあらず────というより、どこか“不本意”そうな雰囲気すら纏っている。
「……ヘリック」
「はいっ!」
アロンがようやく口を開いた。
「ボズを1人で倒すなんて……お前、すごく強いな」
「えっ、あ……そ、そんなに褒めないでくださいよ、もう……!いや、でも、うれしいです……っ」
照れながら肩をすくめるヘリック。
だが、次の言葉が、彼の世界を真っ二つに裂いた。
「パーティーメンバーが優秀だと、リーダーの俺の輝きが霞むんだよね」
「……え?」
「解雇」
「え??」
物語の歯車が、最悪な音を立てて回り始めます。
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