第20話 “破壊肯定派”と“破壊絶対反対派”
あなたがダンジョンで行き詰った時、そんな時は慌てず騒がず、
壁や天井を破壊してやりましょう!
「まぁ調べてないんだが」
「(何言ってんだこの男)どうして?」
アロンの純粋な疑問が、会議室に静かに落ちる。
オルテは視線を逸らしながら、苦しそうに言った。
「おいなんだその目は……言っとくが、何も調べてない訳じゃない。一応、壁を叩いたりして確認はした」
その言葉の後、再び沈黙が落ちる。
アロンとリンカとミカの視線が、同時にオルテへ向いた。
「………………で?」
「で?……とは?」
「…………終わりか?」
「終わりだが?」
リンカの問いに、オルテは顔色ひとつ変えずに答えた。
その瞬間──
三人の脳内に、同じ言葉が浮かんだ。
(……こいつ、本当にギルド長か?)
会議室の空気が、別の意味で重くなる。
アロンが額を押さえながら、ゆっくりと口を開いた。
「……お前、昨日から思ってたが……“無明の層”よりお前の頭の方がよっぽど無明じゃないか?」
「誰の頭が無明だ!!!」
オルテが机を叩いて立ち上がる。
「これじゃあ無明の層じゃなくて、無能の長だな」
「ブッ飛ばすぞ?」
リンカの言葉に、オルテは即座に噛みついた。
その反応速度は、もはやギルド長ではなくただの喧嘩腰の男だ。
会議室の空気が、妙な方向へざらつく。
「冗談はさておき……純粋な疑問をひとついいか?その壁は…………なんだ……硬かったのか?あれだ………未発見の金属でできていたとか?」
「神殿じゃないんだぞ? ダンジョンの壁なんてほぼ岩とか土だ」
オルテは呆れたように言い放つ。
その声には“常識だろ”という圧が乗っていた。
「岩とか土というと…………あれか?あの………なんというか……普通の…我々が知る……あの?」
「そうだが?…………なんだ?ダンジョンに潜った事ないのか?ダンジョンに行った事ある奴なら当然わかる筈だが」
オルテは完全に“何言ってんだこいつ”の顔でリンカを見る。
リンカはしばし沈黙し──
観念したように、静かに息を吐いた。
「わかった……ではもう単刀直入に訊かせてもらう。
“何故”“壁を”“破壊”“しない”」
「「……………は?」」
オルテとミカが同時に素っ頓狂な声を上げた。
空気が一瞬止まる。
会議室の時計の音だけが、やけに大きく響いた。
「壁を…………破壊………?…………君は何を言っているんだね?」
「リンカさんってやっぱり過激な人?」
2人から“ヤバい奴”を見る目を向けられるリンカ。
リンカは眉をひそめ、逆に不機嫌そうに返す。
「おい……なんだその目は」
「リンカさん……あの…………壁破壊したら、ダンジョン崩壊すると思うんですけど」
ミカが手を上げながら恐る恐る言う。
その声は震えていたが、言っていることは至極真っ当だ。
当然の反応である。
「崩壊しない程度に壊せば良いだけじゃないか?」
「はぁ…………」
リンカの言葉に、オルテは頭を押さえて深いため息をついた。
その仕草には“理解不能”と“絶望”が混ざっている。
「あのなぁ……そんな一歩間違えたら生き埋めになる方法なんてとる奴なんていねーよ。仮にいたとしても自殺志願者か異常者だ」
「…………ほーう」
リンカはゆっくりと細い目でアロンを見る。
その一連の動きを見た瞬間──
オルテの脳内に、嫌な映像が高速で生成された。
アロンが壁を殴り、
壁が砕け、
天井が落ち、
リンカを背負いながら笑って走り抜ける──
そんな地獄のような光景が。
「おい…………まさかだと思うがな…………壁を……壊したことあるのか?」
「壁なんか日常茶飯事でコイツが壊してるぞ?この前は天井突き破ったな」
「よし! この作戦は中止だ!!!」
リンカの言葉が耳に入った瞬間、
オルテは全力で宣言した。
「思想が危ない奴らだとは思ってたが、まさかここまでとは……ダンジョンの許可も取り消しだ取り消し!!」
「ちょっと待て、それはおかしい」
「おかしいのはお前の頭だよ!何考えてたらダンジョンを壊す事を思いつくんだよ!!」
ミカの声は震えていたが、必死さが伝わる。
アロンは彼女の方へ視線を向け──
ほんの少しだけ、肩の力を抜いた。
「しかし破壊しなければ、問題は解決しないだろ?」
「その破壊で大惨事が引き起こるんだが?」
アロンとオルテの言い合いは、もはや議論ではなく、
“破壊肯定派”と“破壊絶対反対派”の宗教戦争のようだった。
ミカはその間で右往左往し、リンカは腕を組んだまま無表情。
会議室の空気は、妙な熱気と疲労で満ちていた。
────そして、話し合いという名の説得は、ようやく終わった。
オルテは完全にキレていた。
机を叩く音が会議室に響き、資料がわずかに跳ねる。
アロンとリンカは、そんなギルド長の怒号にも微塵も動じない。
「壁や天井を破壊した所で、ダンジョン全体が崩壊するわけないだろう?お前はギルド長のくせに何もダンジョンに関して分かっていないんだな」
「なに……?」
オルテの眉がぴくりと動く。
アロンは淡々と、しかし妙に丁寧な口調で続けた。
「例えば家の大黒柱等を破壊すれば、確かに崩壊するだろうな……だが、それは魔力の流れやダンジョンの構造を見れば、破壊していい場所か悪い場所かくらいわかるだろ?」
アロンは模型の7階層を指で軽く叩きながら言う。
その仕草は、まるで“当然の知識”を語る学者のようだった。
「分かんねーよ、分かりたくねーよ、破壊していい場所なんて。ってか、そもそもダンジョンは公共のモノだ。それを壊すんじゃねーよ」
「それはそれだ」
「どれがそれだ」
アロンとオルテの口論は、もはや議論ではなくただの喧嘩だった。
ミカは両手を胸の前でぱたぱたさせながら、慌てて二人の間に割って入る。
「ストップ! その辺で終わりにしませんか!?アロンさんも今回はその破壊行為はできるだけしないって事で、ね?」
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