第19話 無明の層、探索前会議
今回から探索編が始まります。
翌日の朝9時。
ギルド前には、三つの影が並んでいた。
アロン。
リンカ。
そして────ミカ。
朝の冷たい空気の中、三人は無言のままギルドの扉を押し開けた。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
受付嬢は三人の姿を見るなり、昨日と同じように深く頭を下げ、奥へと案内する。
だが、通されたのは昨日とは違う部屋だった。
広い。
机の上には大量の資料。
そして中央には──模型のような立体物が置かれている。
会議室だ。
「来たな……よーし、よく来た!」
オルテが勢いよく立ち上がる。
昨日よりも顔色は良いが、目の奥にはまだ疲労が残っていた。
「……一応聞くが、ダンジョンに行ってないよな」
「当然だ。許可が無効になってしまうからな」
「よーし! よし! なら良い!!」
オルテは胸を撫で下ろし────
次の瞬間、ミカを見て固まった。
「……なんだその女は?」
「彼女か? 彼女はミカ。昨日仲間になったんだ」
「は?…………はぁぁぁぁぁ!? お前ッ…何勝手に死人を増やすような事を!!!」
「死人って、なぜ死ぬ前提で話すんだ。俺達は死なん」
「そう言って死んでった奴がたくさんいるって言ってんだろーが!!! 君! 悪い事は言わない! コイツのパーティー抜けろ!!」
オルテは机を叩き、ミカに向かって叫んだ。
その声には、昨日のような取り乱しではなく────
“本気の心配”が滲んでいた。
「いや、私は抜けません」
ミカは一歩も引かない。
その瞳は、昨日よりも強く、揺らぎがなかった。
「私の事を心配してくれるのはありがたいのですが……私には行かなきゃいけない理由があるんです」
オルテはしばらくミカを見つめ────
やがて、深く息を吐いた。
「…………そうか、なら俺はもう何も言わん……はぁ……」
その声は、諦めではなく、覚悟を受け入れた者の声だった。
そして────オルテは机の前に立ち、三人を見渡す。
その表情は、昨日とは違う。
ギルド長としての顔だった。
空気が、静かに張り詰める。
そして───
「……では、改めて──」
オルテは模型に手を置き、低く告げた。
「無明の層について話そう」
その言葉は、会議室の空気を一瞬で変えた。
「その前にテーブルの上に置いてあるその模型はなんだ?」
「ん? これか……だいたい察しがつくだろう?」
「無明の層か」
リンカが淡々と呟く。
机の中央に置かれた模型は、灰色の石を積み上げたような八段の塔だった。
階層ごとに微妙に形が違い、ところどころに小さな穴や通路が彫られている。
まるで“本物のダンジョン”をそのまま縮小したような精巧さだった。
「これを見ればだいたい分かる通り、無明の層は全8階層で構成されている。我々調査チームが各階層毎に出現する魔物をまとめたのがこちらだ」
オルテは資料の束をアロンたちへ渡す。
紙には、魔物の出現場所・時間帯・天候条件まで細かく記されていた。
────以下、資料の内容を一部抜粋
オクトスパイダー
(通常の蜘蛛と異なり、脚が8本ではなく8対=16本で構成される魔物)
出現階層:2階層
出現場所:2階層を降りた直後の道を左に進んだ広場
出現時間:朝から夕方にかけて
追加事項:雨天時のみ出現
こういう情報を集めて売っているのがダンジョンマップだ。
ギルド横売店にて絶賛販売中!!
「普通のダンジョンと大差ないように見えるが……不審な階層とかないのか?」
「そんなものがあるなら、とっくに対処している……無いから手詰まり状態なんだよ」
アロンの質問に、オルテは呆れたように肩を落とす。
「行方不明者の痕跡とは無いのか? 血とか肉とか冒険者の所持品とか落ちているだろう?」
「全く無しだ……魔力の痕跡も確認したが、既にダンジョンの魔力と一体化して解析不可能な状況だ」
「全く手がかりなしか」
「意味のない調査だな、私達呼ぶ意味なかったんじゃないか?」
リンカの言葉に、オルテはムッと眉を吊り上げた。
「一応、怪しい場所は検討がついてある」
そう言いながら、ダンジョン模型の“七階層”を指差す。
すると───
模型の上部にホログラム映像が出現し、
その部分だけがズームアップされて映し出された。
立体的に投影された場所は、ただの壁だった。
凹凸もなく、ひび割れもなく、特徴のない灰色の壁。
「この壁がどうした?」
「この映像からは判断できんだろうが……この壁だけ、魔力の流れがおかしくなるタイミングがあるのだ」
「ほーう」
そう言って、そのホログラムに分かりやすく魔力の流れを模した矢印が現れる。
「並の経験と観察力を持つ冒険者じゃあ、まず見つける事もできない僅かな違和感だ」
「なるほど……トップはあれだが、中々優秀なのだな……お前の部下は」
「見つけたのは俺だ!!!」
リンカの淡々とした言葉に、オルテは机を叩く。
「で……どうなんだ?」
「うん?」
「いや……怪しいのなら何かしらアクションをしたんだろう? 何があったんだ?」
リンカの当然すぎる質問。
「…………」
しかし────オルテは、なぜか黙った。
「おい……何故そこで黙る」
「…………」
「まさか……お前」
リンカの目が細くなる。
アロンがフォローを入れるように口を開いた。
「おいおい副リーダー?君が目の前にしている男はこの街……セイドウのギルド長だぞ? “おさ”だぞ? 要らぬ心配だ」
アロンのフォローを受けても、オルテはなお沈黙を続ける。
「え?……まさかですよね?」
ミカも不安げに口を開いた。
「…………え? まさかだよな?まさか“怪しいとこ見つけておいて、何もしませんでした”な訳ないだろう?ちゃんと詳しく調べてる筈だ」
「まぁ調べてないんだがな」
「(何言ってんだこの男)………どうして?」
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