第16話 現実を生きる冒険者
リンカの暴走も終わり、物語はシリアスに向かう…
果たしてアロンとリンカに声をかけてきた真相とは?
メインディッシュの皿が下げられ、テーブルには香り高い紅茶と、まだ運ばれていないスイーツの気配だけが残っていた。
アロンとリンカは背もたれに軽く体を預け、食後の余韻に浸っていた。
そんな中、アロンがふと視線を向ける。
「……で、君の名前は?」
女は少し驚いたように目を丸くし、すぐに背筋を正す。
「は、はい……私の名前はミカです。よろしくお願いします」
アロンは頷きながら、隣のリンカを指で示す。
「ミカか……俺はアロン、こっちの女は副リーダーのリンカだ」
リンカは紅茶のカップを持ったまま、軽く顎を動かす。
「フフフ、よろしく」
先ほどまでの絶対零度は何処へやら…柔らかい表情でミカに挨拶するリンカ。
形式的な自己紹介が終わると、空気が少しだけ張り詰める。
アロンはカップを置き、ミカに目を向けた。
「……で、話とはなんだ?」
ミカは一瞬だけ躊躇したが、すぐに口を開く。
「はい……さっき、あなたたちが“無明の層”について話しているのを聞いて……もしかして、挑むつもりなんですか?」
「ああ……ギルドの許可ももらった所だ、それが何か?」
ミカの瞳が揺れる。
そして、次の瞬間────彼女は椅子から立ち上がり、大きく頭を下げた。
「不躾なお願いかもしれませんが……お願いします! 私をパーティーに入れてください! 一緒に“無明の層”に行かせてください!!」
声は震えていたが、意志は確かだった。
その姿に、アロンは眉を少しだけ動かす。
リンカは紅茶を口に運びながら、何も言わずにミカを見つめていた。
スイーツはまだ来ない。
だが、テーブルにはすでに“甘くない話”が並び始めていた。
「取り敢えず、頭を上げろ。話はそこからだ」
アロンの声に、ミカはびくりと肩を揺らしながら顔を上げた。
「あ…は、はい!……すみません」
リンカは紅茶のカップを置き、静かにミカを見つめる。
「……どういうことだ?」
「え?」
「“無明の層に行きたい”などと。お前も知っているだろう?」
「………」
「挑戦した者は、全員消息不明になっている。そんな場所に、なぜ自ら行こうとする?」
その問いは冷静だったが、鋭かった。
リンカの目には、疑念と警戒が混ざっていた。
普通なら、そんなダンジョンに挑むパーティーなど避けるはずだ。
だが、目の前のミカは逆に“同行させてほしい”と願い出ている。
リンカの疑問は、至って常識的なものだった。
「危険なのは分かってます……でも、私は行かなくちゃいけないんです」
ミカの声が震える。
その瞳には、迷いよりも決意が宿っていた。
「兄が……兄の安否が知りたいんです!」
アロンが目を細める。
「ほう、兄の安否。つまり、君の兄は──」
「はい。無明の層へ攻略に向かったきり、戻ってきていません」
ミカの表情が沈む。
「安否など……死んでいるに決まっているじゃないか」
その顔に、リンカは容赦なく現実を突きつけた。
「───ッ」
その言葉は、ミカの胸に鋭く突き刺さった。
息を呑み、目を見開き、言葉を失う。
リンカの表情は変わらない。
冷たいようでいて、ただ“事実”を語る者の顔だった。
「まぁ……リンカの言う通りだろうな」
アロンは腕を組み、静かに言葉を落とす。
「俺たちは現実を生きる冒険者だ。綺麗事を言うつもりはない」
「……」
「そんな淡い期待で生きていけるほど、甘い世界じゃないからな」
「分かってます…」
その言葉に、ミカはゆっくりと反応した。
声は震えていた、今にも消え入りそうな声だった。
「分かってます……兄はもう死んでるってことは……」
「……」
「兄はもう、この世にいないってことは……分かってるんです」
言葉の端が揺れる。
それでも、ミカは話すのを止めなかった。
「でも───」
声が少しだけ強くなる。
「でも!! 諦めきれない自分もいるんです!」
拳を握りしめ、俯きながらも言葉を絞り出す。
「家族なんです……例え死んでいても……骨だけでも……!」
涙が頬を伝う。
それでも、彼女の目は伏せられていなかった。
「私は、私は!!! 兄に会いたい!!!」
その瞳には、確かに“強い意志”が宿っていた。
アロンは少しだけ目を細める。
「……家族か。まぁ家族は大事だよな」
リンカも、紅茶のカップを指先で回しながらつぶやく。
「家族のためなら……仕方ないな」
ふたりは言葉を交わすことなく、ミカの思いをそれぞれに受け止めていた。
「じゃ……じゃあ!!」
ミカが勢いよく顔を上げる。
だが、アロンはその熱を制するように手を上げた。
「待て……君を雇う上で一つ……聞きたいことがある…ここが重要だ、これが重要なんだ」
声の調子が変わる。
ミカの表情が固まる。
「仮とは言え、俺たちのパーティーに入るんだ……次の質問に対して────嘘偽りなく答えなくてはならない」
「し、質問……?」
「あぁ…今までも色んな冒険者にこの質問を投げかけたんだがな……全員が噓つき野郎だったんだ」
アロンのその真剣な口調と眼差しを前に息を呑むミカ。
動揺して、アロンとリンカを交互に見つめる。
「そう案ずることはない」
リンカが紅茶を口に運びながら、淡々と告げる。
「コイツの質問は実にくだらない。……お前はおそらく、冒険者ではないのだろう?」
「は、はい……ダンジョンとかは初めてで」
「なら、何も問題ない」
リンカの言葉の意味が、ミカにはまったく理解できなかった。
だが、アロンは真顔のまま、とある質問を投げかけた────
「お前は優秀な人間か?」
「……はい?」
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