第14話 カップルのふざけ合い
本編ではクールだが、閑話では大胆な行動をするリンカ。
そんな彼女がついに本編でも片鱗を見せる……
「ダンジョンに向かうノリなんて、俺たちの勝手だろ」
「勝手だな」
「勝手じゃねーよ!!!!いいか、お前ら。明日の朝、もう一度ここに来い!! ギルド側で“無明の層”に関する情報を整理しておく!! ちゃんと伝える!! だから今は行くな!!絶対行くな!!!」
「そんなカンニング紛いのことはしたくないな。俺たちの攻略は、俺たちの力で十分だ」
「やめろおおお!!!!本当に来いよ!! 行くなよ!! もし行ったらな……許可、取り消すからな!! 本気でな!!!!」
オルテはほぼ叫びながら、ふたりがギルドの外に出るまで「来いよ!!行くなよ!!」を繰り返した。
その声は、誰が聞いても────すでに“親心”のようだった。
ふたりは振り返ることなく、夕方の街路へと歩き出す。
風が少し冷たくなっていた。
けれど、彼らの足元はいつも通り、軽かった。
────
───
──
ギルドを出た街路は、夕暮れの光に染まっていた。
柔らかく石畳を照らす色合いのなか、アロンとリンカは並んで歩いていく。
「……まったく、うるさい奴だったな」
アロンが小さく息を吐いてつぶやく。
「まぁ、いいじゃないか。許可は得たんだから」
リンカは前を見たまま、淡々と返す。
その一言で収まりそうな空気を、アロンの細い目がつっついた。
「お前もお前だ、副リーダー。俺が煽られているというのに、向こうの話に納得するなど……応援しろ応援」
「……がんばれ〜」
抑揚のない、棒読みだった。
口元に片手を添え、形式だけのエール。
「………」
アロンは瞬きもせず無表情になり、
「………」
リンカも何の迷いもなく、同じ無表情を返した。
数十秒、沈黙。
「……よし、許す」
「当たり前だ」
くだらない会話を交わしながら、アロンとリンカは街を練り歩いた。
依頼をこなす気力もなく、別のダンジョンに向かう気も起きない。
結果、今日は“オフ”となった。
「……夕飯、どうする?」
「住民に聞いてみるか。おすすめくらいはあるだろう」
数人に声をかけ、いくつかの候補が挙がった。
その中で、ふたりが選んだのは───ビストロ・ド・セイドウ・レストラン。
異国の空気を纏ったその店は、ギルドから少しだけ離れた場所にあった。
店内は柔らかな照明に包まれていた。
テーブルに腰を下ろしたふたりは、注文を済ませてから、ようやく口を開く。
「……しかし、何度も調査に向かっていたとはな」
「そうだな。調査チームを飛ばしても、何も問題は見つからなかった。だが、次の冒険者が進入すると、消息不明。……お前はこれをどう見る?」
アロンはテーブルの端を指でなぞりながら、答えた。
「考えうるのは、二つだな……一つは、単純に調査が甘かった」
「ほう。ギルドが悪いと?」
「調査するのは人間だ。見落としがあるのも仕方ない。……が、何度も調査してるのに見落としがあるとすれば───」
リンカが、ワインのグラスを傾けながら言った。
「よっぽどの自然派か、レモンかの二択ということだな」
「………」
「………」
「………」
「無能(無農薬)かスパイ(酸っぱい)かだ……いちいち説明させるな」
「お前が勝手に言い出したんだろう」
くだらない会話の中にも、確かに“異常”は潜んでいた。
調査では何も出ない。だが、犠牲者は出る。
それが、“無明の層”の本質だった。
料理が運ばれてくる。
香ばしいスープの香りが、ふたりの思考を一瞬だけ止めた。
「……で、あと一つというのはなんだ?」
リンカがスプーンを軽く回しながら問いかける。
アロンはグラスを揺らしながら、静かに言った。
「問題があるのは、“無明の層ではない”ということだ」
「ほう?」
「仮に、ギルド側の調査が正しいとしたら───消息不明になっている原因は、“冒険者”にある可能性が高い」
アロンの目が細くなる。
「つまり、“冒険者同士が殺し合ってる”ということか……それなら、調査チームが無事で帰還してる理由も説明がつくな」
リンカは静かに頷く。
「だが、この仮説でも問題になるのは“動機”だ。快楽殺人者と言えばそれまでだが、なぜよりにもよって“無明の層”でやる必要がある?」
「動機なんて、考え始めたらきりがない…人の数だけ存在する……考えるだけ、無駄なことだ」
「……まあな」
アロンは肩をすくめて続ける。
「とはいえ、この程度の仮説は、ギルド側も既に考えているはずだ。詳しい話は、明日には聞けるだろう」
リンカは皿の隅でソースの粒をなぞりながら、ちらと目線を向ける。
「なんだ? カンニングは嫌だと言ってなかったか?」
アロンは首を軽く回しながら言った。
「俺一人なら、まぁそうだ……が、お前がいるからな」
「…………?」
「俺のプライドと、お前の身の安全───どっちを天秤にかけるなら……俺は、お前を優先する」
「……良い心がけだ」
その言葉にはいつもの相変わらず感情の起伏はない。
だが───その雰囲気は、その表情は、完全に乙女のソレである。
そんな中、テーブルに赤身の肉と果実の酸味が絡むメイディッシュ────このレストランでも人気の一皿が運ばれてくる。
「おぉぉ……かなり美味そうだ」
アロンは目を輝かせ、フォークを手に取る。
「リンカ、さっそくいただくとするか」
「そうだな……フフフ、私の分を少し分けてやる」
アロンが手を止めた。
「……なんだ? 食欲ないのか」
「いや、食欲はある。むしろかなりある……ただ今は機嫌がいい。とても機嫌がいい。なんなら、食べさせてやってもいいぞ?」
「……本当にどうした?」
そのやりとりを横で聞いていた者がいれば、誰もが「カップルのふざけ合い」だと誤認するだろう。
「フフフ……ほれ、口を開けろ」
「まぁくれるというなら、いただこうか」
そんな温度の会話が交差した瞬間────
「っ、あ、あの! 少し、いいですか!」
テーブルに割り込むような声が響いた。
ふたりの手が止まる。
振り返れば、そこに立っていたのは――ひとりの若い女性だった。
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