第13話 許可
オルテの魂の叫び…その真意は、いかに。
「お前ごときに何がわかる! 俺たちの苦悩が……職員たちの苦悩が……! 俺自身も何度も向かった! 調査チームも出動させた! なのに……何も出ないんだ!!」
沈黙。
リンカは立ち上がりもしないまま、その“剣”を一瞥した。
「……何も出ない?」
アロンが首は動かさず、声だけで問い返す。
オルテは剣を握る手に力を込めたまま――言葉を吐き出すように続けた。
「そうだ…“ただの普通のダンジョン”だった……何度も調査した。魔力異常なし。歪みなし。構造も変化なし。だから、進入許可を再開した」
「………」
「だが、帰ってこない。また進入禁止。調査。許可。禁止。調査……許可。――その間、何十のパーティーを送り出した。だが……誰一人として、消息不明となったんだ!!」
手が震えている。
声が割れている。
「もう……俺たちにはどうすることもできない……!」
剣が解け、光の粒となって消えていく。
そして───オルテは、そのまま膝をついた。
声もなく、ただ拳を握り締めてうつむく姿。
威厳も役職も、その背に今は影を落としていた。
“後悔”と“無力”。
それは、言葉よりも深く響いた。
沈黙の中、膝をついたままのオルテに、アロンの声が落ちてきた。
「……どうすることもできない、か」
ゆっくりと、言葉を繋ぐ。
「だが、そんな状況に終止符を打つ方法があるとするなら……どうする?」
オルテの肩がほんのわずかに揺れた。
「……なに?」
アロンは椅子の背に身を預けたまま、まっすぐに視線を送った。
「俺たちだ。俺たちが、その謎を解明しよう」
その言葉に、オルテの瞳が見開かれる。
「聞いてなかったのか……!? お前たちみたいな連中を、何人も見てきた! 希望を掲げて挑んでいって、結果は全員……戻ってこない!」
拳を床についたまま、オルテは叫ぶように言い放つ。
「俺は、もう冒険者が死ぬのを見るのは……嫌なんだ!」
アロンはその声に動じることなく、淡々と返した。
「では、“何もしないでいる”のが正解か?」
言葉が空気を叩く。
「お前が本当に、冒険者のためを思うなら。……解決を目指すべきじゃないか?」
部屋の空気が、張り詰めていく。
リンカは声を出さない。ただ、誰よりも強く“気配”を読んでいる。
オルテの拳が少し緩む。
「……本心では、お前も、誰かに助けを乞うていたんじゃないか?」
アロンの言葉は、静かだったが――深く刺さった。
「この状況を変えてくれる奴を……待っていた。だから、“観に来た”んだろ?この状況下でも、“無明の層”へ挑もうとしている俺たちを」
オルテはゆっくりと顔を上げる。
「……お前たちなら、できると? 解決できるとでもいうのか?」
アロンは躊躇なく言い切った。
「あぁ、もちろんだ」
その確信に満ちた声が、ギルド長の目を少しだけ揺らす。
「……信用ならん」
声に哀しみと諦めが混じる。
「何度も言うが、お前たちみたいな冒険者を、俺は痛いほど見てきた……結果は全員、戻ってこない。……現実は、甘くない」
アロンはそこで、すっと笑った。
「お前の信用なんて必要ない」
視線を逸らさずに、最後の言葉を告げる。
「必要なのは、“許可”だけだ。それだけあれば、俺たちは進める」
そして――低く、だがはっきりと。
「お前はただただ成功の知らせをこのギルドでふんぞり返りながら待てばいい………例え失敗しても、ただ“生意気な冒険者が一組消えただけ”……そう思えばいい」
その言葉に、オルテは何も返さなかった。
ただ、静かに目を閉じたまま、彼らの“気配”を感じ取っていた。
オルテは黙った。
アロンの最後の言葉────“失敗したら、ただの生意気な冒険者が消えるだけ”───その響きが思考を押し流していた。
数秒、息を止めて。
そして、一息を吐いた。
「……確かにな」
静かに言う。
「お前みたいなクソ生意気な輩が死んでも、まぁ……正直、なんとも思わん。そっちの美人さんはともかくだが」
「副リーダーも、もちろん同行するぞ」
アロンが短く答え、リンカは涼しい声で続けた。
「……だ、そうだ」
リンカの言葉にオルテは肩をすくめてため息を漏らす。
「はぁ……わかった、わかった。そこまで言うなら、もう止めん……それでもし、お前らが消息不明になったら───大笑いしてやる」
言葉の調子は呆れ半分、期待ゼロ。
それでも、“許可”は下りた。
アロンは立ち上がる。
その動きに何のためらいもなかった。
「安心しろ。必ず俺たちが、謎を暴いてやろうじゃないか」
「期待はしない……が、期待しておいてやる」
リンカも椅子を押して立つ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「あぁ」
ふたりは歩き出す。
背筋を伸ばして、応接室の扉へ向かって。
その後ろ姿に、オルテの声が追いかけた。
「……は? いやいや、どこへだ?」
「何を寝ぼけたことを言ってる? 無明の層に決まってるだろ」
アロンの足取りは軽く、リンカはそれに並んで無言のまま歩く。
そんなふたりの背へ、突如、ギルド長オルテの咆哮が突き刺さる。
「いやいやいやいや……いやいやいやいや……馬鹿かテメーらは!!!!!」
ギルドの廊下に響き渡る絶叫。
リンカが視線も逸らさずつぶやく。
「……どうした、頭がイカれたか?」
「突然、自己肯定感でも高めたくなったんじゃないか? 怒鳴ることで自分の存在感を示して、心理的安定を得ようとする行動原理があると確か本で読んだことがある」
「違うわ馬鹿共!!!今、ダンジョンへ向かおうとしただろ!? お前らを止めに来たんだよ!!!」
オルテは息を切らしながらふたりの前に立ちふさがる。
顔は真っ赤、肩が上下し、もはやギルド長の威厳はどこへやら。
「いや、さっき許可が下りたじゃないか。止める理由は、ないはずだが?」
アロンは肩を軽く回しながらそう返す。
リンカは涼しい顔のまま菓子の匂いが残る袖口を払う。
「何が“止める理由はないはず”だ、馬鹿野郎!!!こっちは無明の層が危険だって、散々言っただろ!? それをなんだ……!『ちょっとその辺、散歩してくるわ』みたいなノリで行こうとしてんじゃねぇ!!!!」
「ダンジョンに向かうノリなんて、俺たちの勝手だろ」
「勝手だな」
「勝手じゃねーよ!!!!いいか、お前ら。明日の朝、もう一度ここに来い!! ギルド側で“無明の層”に関する情報を整理しておく!! ちゃんと伝える!! だから今は行くな!!絶対行くな!!!」
「そんなカンニング紛いのことはしたくないな。俺たちの攻略は、俺たちの力で十分だ」
「やめろおおお!!!!本当に来いよ!! 行くなよ!! もし行ったらな……許可、取り消すからな!! 本気でな!!!!」
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