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【第8話:竹筒の通話管と「超高性能・地下盗聴ネットワーク」】

警察の信頼も勝ち取った黒谷共同体。

今回は、広くなった敷地内での「連絡手段」をDIYします。

お金をかけずに声を届ける先人の知恵が、現代の隠密通信として恐れられます。

自家製ベーコンという

極上の食糧(※警察の強制捜査に対する最高のカウンター)を手に入れ、

黒谷ベースの暮らしはますますその領域を広げていた。


水車発電に堆肥熱の温室(第5話)、あるいは燻製小屋。

谷底の敷地内に次々と施設が増えていくのは

愉快極まりないことだったが、同時に一つの問題が生じていた。


「おい、桐生! 

ちょっと温室の様子を見てくれ!」


「鉄蔵さん、何ですかー! 

すいません、水車の音が大きくて聞こえませーん!」


 何か用事があるたびに、

敷地の端から端まで大声を張り上げねばならず、

いちいち移動するのも面倒になってきたのだ。


「電気や電話線を使うのは僕らのポリシーに反しますし

……よし、電気も電話線も食わない、完璧な屋内連絡網を作りましょう」


 桐生がニヤリと笑って提案すると、

鉄蔵は「面白そうだな」と煙管をくわえ直した。


 二人はさっそく、裏山から太くて真っ直ぐな竹を何本も切り出してきた。

作業台に据え置かれた緑の竹を前に、桐生は長い鉄の棒を手に取る。


「いきますよ」


 ズドン、ズドン、と

小気味よい音を立てて、鉄の棒が竹の内部にある頑丈な節を綺麗に突き破っていく。


すべての節がくり抜かれ、

竹は一本の滑らかな中空のパイプへと生まれ変わった。


 二人はこの竹パイプを何本も繋ぎ合わせ、

農家の母屋から、離れた場所にある温室、

そして物置小屋の地下へと手際よく埋設していった。


仕上げとして、建物の壁から突き出た竹の端に、

ブリキの漏斗(じょうご)をしっかりと取り付ける。


声を反響させて遠く離れた相手に音を届ける、

先人の知恵を現代に蘇らせた「竹筒の通話管」の完成である。


「鉄蔵さん、聞こえますか?」


 桐生が母屋の漏斗に向かって囁くように呟く。

すると、数百メートル離れた温室にいた鉄蔵の耳元へ、

竹の空洞を反響した桐生の声がクリアに響き渡った。


『――鉄蔵さん、お茶が入りましたよ。

焼き立てのベーコンでもつまみながら休憩しましょう』


「おう、今行くわ! 

こいつはバッチリ聞こえるな!」


 電気代も通信費も完全にタダ。

糸電話の竹版とも言えるこの原始的なシステムに、

二人は「これで連絡もタダだな」と大喜びで笑い合った。


 しかし、この楽しい工事の最中、偶然の悪戯が重なっていた。

敷地境界の排水を整える都合上、

一本の竹パイプが、高台のニュータウンの境界線付近の地中にも

通されていたのだ。


その竹の先端は、崖の割れ目にひっそりと顔を出していた。

 その真上の地上では、帝都アーバニティが配備した警備員が、

身を固くして周囲を警戒していた。


 夜になり、静まり返った漆黒の闇がニュータウンを包み込む。

水道も電気も止まった高台(第4話)は凍えるような寒さで、

警備員が寒さに耐えかねてふと足元に目をやった、その時だった。


 地面の不気味な割れ目から、にわかには信じられないほどクリアな音質で、

あの忌々しい「桐生の声」がぼそぼそと聞こえてきたのだ。


『……よし、高台の動きは丸見えですね。

次の作戦に移りましょう。

まずは明日の、あの斜面の植え替えの話ですが』


 実際には翌日の畑づくりの打ち合わせだったが、

地中から響く冷徹なトーンは、

警備員の耳には「宣戦布告」の合図にしか聞こえなかった。


「ひえっ……!?」


 警備員は顔面蒼白になり、

恐怖のあまりその場に腰を抜かした。


地面から直接、死神の囁きが聞こえてきたのだ。

彼は狂ったように立ち上がると、

夜のニュータウンを脱兎のごとく駆け抜け、

金剛寺部長のオフィスへと飛び込んだ。


「金剛寺部長! 

大変です! 

地面から……地面から桐生の声が聞こえます!」


「落ち着け! 

何を狂ったことを言っている!」


「本当です! 

あいつらは、我が社のニュータウンの地下全域に、

特殊な『隠密盗聴網』を完全に張り巡らせています!

 

我々の会話、作戦、企業機密は……すべて地下から筒抜けです!」


「何だとおぉぉっ!?」


 報告を聞いた金剛寺は頭を抱え、机の上の書類をぶちまけた。

額からは滝のような冷え汗が流れ落ちる。


 電波妨害(第2話)され、高度な隠蔽暖房(第3話)で暗号を送り、

光学兵器(第6話)で重機を敗走させた男が、

今度は地中を制圧しにきたのだ。


「あいつは悪魔か……! 

最新の電波探知を想定して、

あえて最新の無線を捨て、地中音響工学の隠密回線で挑んでくるとは……! 

これでは我が社のすべての会話が瞬時に傍受されているのと同じだ!」


 金剛寺は極限の恐怖と敗北感に震えながら、即座に叫んだ。


「おい! 

今すぐ社内での音声会話を一切禁止しろ! 

すべての機密指示、会議、雑談にいたるまで、

すべて『筆談』で行うんだ! 

一言でも発したら桐生に計画が漏れるぞ!」


 それからの高台の仮設オフィスは、

異様な静寂に包まれることとなった。


バブルのきらびやかなエリートたちが、

血眼になってルーズリーフにペンを走らせ、無言で書類を回し合う。


喋ることすら許されない、まるで監獄のような状態に、

幹部たちの精神は急速に削られていった。


 一方、そんな高台の狂気に満ちた筆談パニックなど、

谷底の二人は知る由もなかった。


 農家の母屋で、桐生は竹筒の漏斗に向かって

「あ、もしもし? 鉄蔵さん聞こえますかー? ぽんぽこぽん、なんちゃって」と、

まるで子供のようにおもちゃの通信機で遊んでいた。


「ガハハ、くだらねえこと言ってねえで早く茶を飲め」


 鉄蔵が笑いながら湯呑みを差し出す。

 タダで手に入れた最高の連絡網に満足し、

温かいお茶と出来立てのベーコンを楽しむ二人。


その遥か頭上では、勝手に「地下音響戦」に敗北したバブルの戦士たちが、

一言も喋れぬまま絶望の夜を明かしていくのだった。

竹筒の伝声管が、まさかの超ハイテク地下盗聴器に。

金剛寺たちは自ら喋る自由すら失ってしまいました。

次回、二人が庭に掘り始めた「大きな穴」が、全面戦争の準備と見なされます。

お楽しみに!

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