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【第6話:手作りソーラーパネルと「高エネルギー兵器」】

住民を味方につけ始めた黒谷共同体。

面白くない金剛寺は、重機を使って威嚇を試みます。

対する桐生は、壊れた電卓から「あのパーツ」を集めて、エコな充電器を作ろうとしますが……?

「おい、聞こえるか! 

谷底の泥棒猫ども! 

我が社の住民にこれ以上怪しげな真似をしてみろ、

いつでもその薄汚い拠点を土砂で生き埋めにしてやるからな!」


 極寒の冬空を切り裂くように、

高台の境界線から耳を聾するほどの重低音が響き渡っていた。


 帝都アーバニティの金剛寺部長は、怒髪天を衝く勢いで激怒していた。

断水と停電に苦しむニュータウンの住民たちが、

次々と谷底の黒谷ベースへと逃げ込み、

あろうことか桐生を「救世主」と崇めて懐柔され始めているという報告が入ったからだ。


 プライドをズタズタにされた金剛寺は、

実力行使として、工事現場から超大型のショベルカーを

黒谷の真上の崖っぷちへと配備させた。


あえてマフラーを改造した重機のエンジンを

狂ったように空吹かしさせ、バリバリと大地を震わせる爆音を轟かせる。


バケットを谷底へ向けて威嚇するように突き出し、

「いつでも埋め立ててやる」という無言の圧力をかけているのだ。

 だが、そんなバブル成金の幼稚な脅しなど、

谷底の二人には文字通り「どこ吹く風」だった。


「……上、なんか朝からずっとうるさいですねえ」


「放っておけ。

犬が吠えてると思えば腹も立たん。

それより桐生、頼まれてた『宝の山』を持ってきたぞ」


 鉄蔵が軽トラックの荷台からドサリと下ろしたのは、

近所の小学校の廃品回収からタダで引き取ってきたという、

薄汚れた段ボール箱だった。


中を開けると、液晶が割れたりボタンが外れたりした、

大量の「壊れた古い太陽電池付き電卓」がぎっしりと詰まっている。

 桐生はそれを見た瞬間、子供のように目を輝かせた。


「素晴らしい! 

これだけあれば、次の一手が打てます。

鉄蔵さん、ハンダゴテの準備をお願いします!」


 崖の上の重機がどれほど爆音を響かせようとも、

桐生は完全に自分の世界に入り込み、新しい手作りの工作に没頭していた。


 精密ドライバーを器用に操り、電卓のプラスチック筐体を一つひとつ分解していく。

液晶のすぐ上に埋め込まれている、わずか数センチ四方の

小さな太陽電池の基盤(ソーラーセル)。


桐生はピンセットを使い、壊れた基盤からその繊細なセルを丁寧に、

一枚ずつ傷つけないよう取り外していった。


「これをこうして、直列にハンダ付けで繋いでいくと……」


 作業台に向かう桐生の目は真剣そのものだった。

数十枚の小さなソーラーセルを細い銅線で

美しく格子状に整列させ、ハンダを落として強固に連結していく。


これによって、個々では微弱だった電圧が跳ね上がり、

ラジオや懐中電灯のバッテリーを十分に充電できる、

特製の「手作りミニ太陽電池パネル」がその姿を現した。


 だが、技術者としての桐生のこだわりはそれだけにとどまらない。


「冬の弱い太陽光を、効率よく一点に集めないと意味がないですからね」


 桐生は鉄蔵に手伝ってもらい、

大きめの段ボール箱を器用に切り開いて、

緩やかな湾曲を描くパラボラ型の巨大な反射板を作り上げた。


その内側には、台所から持ってきたアルミホイルをシワ一つなく、

綺麗に全面に張り巡らせる。

 完成したアルミホイルの反射板の中心に、

先ほどハンダ付けした特製パネルを固定した。

 桐生は、その奇妙な銀色の巨大装置を庭の真ん中へと運び出すと、

太陽の動きに合わせて角度を細かく調整し始めた。


「よし、この角度だな」


 ギラリ。

 冬の澄んだ太陽光を一身に浴びたアルミホイルの防壁が、

鏡のように強烈な光を放った。


パラボラ形状によって集束された鋭い反射光の束は、

偶然にも、谷底から見上げる高台の工事現場

――まさにショベルカーの運転席の方向を、

真っ直ぐに、ピンポイントで射抜いていた。


 その瞬間、ショベルカーの運転席で、

アクセルを踏み込んでいた金剛寺の部下は、

尋常ではない恐怖に全身の毛穴を開いた。


「な、何だ、あの光は……っ!?」


 フロントガラス越しに、谷底から放たれた異様な、

目を焼くような銀色のレーザーのごとき光線が迫る。


しかもその中心には、禍々しい格子状の黒い電子基盤が、

まるで照準器のようにこちらを睨みつけているのだ。


 集束された光の熱線が、運転席のガラスを、

そして自分たちの重機を狙っているようにしか見えなかった。


 部下は恐怖のあまり無線機のマイクを掴み、狂ったように叫んだ。


「金剛寺部長! 

大変です! 

谷底の桐生が、太陽光を一点に集束させて我が社の重機を焼き切る、

未知の『高エネルギー熱線兵器』を起動しました! 

完全に照準を合わされています! 

このままでは重機が爆発します!」


「何だとおぉぉっ!?」


 高台の仮設オフィスで報告を受けた金剛寺は、

窓に駆け寄り、双眼鏡を覗き込んで目を剥いた。


 レンズの先で、ギラギラと異様な輝きを放つ、

アルミホイルと段ボールの巨大な凹面鏡。


光学工学の粋を集めたかのようなその形状を見て、

金剛寺の脳内で逆恨みとも言える凄まじい深読みが爆発した。


「馬鹿な……

パラボラ型の光学熱線兵器まで、あのゴミの山から自作したというのか!? 

あいつは本当にただの元社員か!? 

あの輝き、間違いない、

我が社の最新重機の装甲をドロドロに溶かす気だ!」


 自慢の重機がスクラップにされる恐怖と、

桐生の底知れない「軍事技術」への絶望感が、

金剛寺のプライドを完全に粉砕した。


「退け! 

全員退避だ! 

重機を焼き壊されては数億円の損害だ! 

今すぐ重機を後退させろぉっ!」


 高台の工事現場は、一瞬にして大火災から逃げ惑う

群衆さながらの大混乱となった。


ショベルカーは猛スピードでバックし、

警備員たちは頭を抱えてクモの子を散らすように逃げ帰っていく。


爆音の威嚇はピタリと止み、高台には静寂が戻った。

 一方、そんな大騒ぎなど微塵も知らない谷底では。


 桐生が、アルミホイルの反射板の中心にあるミニ太陽電池パネルを、

満足げにそっと撫でていた。テスターの針は、完璧な充電電圧を示している。


「よし、バッチリ電気を蓄えてますね。

鉄蔵さん、これで明日から懐中電灯の電池代も完全にタダですよ!」


「ガハハ、電卓のゴミが宝に化けたな! 

タダのエネルギーは最高だ!」


 二人は、逃げ去っていく重機部隊の背中を眺めることもなく、

「今夜の冷え込みに備えて薪を割るか」と、

平和そのものの笑顔で肩を並べて歩き出すのだった。


 情報のギャップがもたらす勘違いの神話は、

バブルの最新重機すら敗走させ、

黒谷の無敵伝説をさらに強固なものへと押し上げていく。

電卓のソーラーパネルが、バブルの最新重機を敗走させてしまいました。

科学の力(勘違い)は凄まじいです。

次回、鉄蔵さんの趣味の「燻製」が、警察をも巻き込むバイオハザード騒ぎに発展します!

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