【第4話:野天風呂の天ぷら宴会と「暗殺計画」の誤解】
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今回は「お風呂」のDIY。
五右衛門風呂ならぬドラム缶風呂で至高の贅沢を味わう二人ですが、
上空からの覗き魔によって、セリフが物騒な意味に翻訳されてしまいます。
電気を通し、部屋を暖めた桐生と鉄蔵の次なる目標は、
一日の労働の疲れを芯から癒やす「お風呂」の確保だった。
バブルの成金どもがジャグジー付きの豪華な浴室で浮かれているならば、
こちらは大自然を独り占めする極上の湯殿を用意するまでだ。
「鉄蔵さん、これ、どこから持ってきたんですか?」
「裏の解体現場に転がってた空き缶だ。洗えば上等な湯船になる」
鉄蔵がどこからか転がしてきたのは、巨大な鉄製のドラム缶だった。
二人はタワシを手に、
こびりついた汚れをゴシゴシと洗い流し、完全に内側を洗浄する。
直接座ると熱いため、底には鉄蔵が手際よく端材で組んだ木のスノコを沈めた。
これに、黒谷の冷涼で清らかな湧水を竹パイプから贅沢に、
たっぷりと注ぎ込む。
ドラム缶の下に薪をくべてマッチで火をつけると、
パチパチと小気味よい音を立てて炎が鉄の底を炙り始めた。
じわじわと水温が上がり、
やがて心地よい湯気が夜の空気の中に立ち上り始める。
即席の「湧水ドラム缶野天風呂」の完成だった。
ちょうどその頃、鉄蔵が昼間に裏山で採ってきたばかりの、
新鮮なタラの芽や山菜、そして清流で釣り上げた川魚が山ほどあった。
「おし、湯が沸くまで、こいつを肴にするか」
二人はドラム缶風呂のすぐ横にカセットコンロを設置し、
鍋に張った油をパチパチと小気味よく沸き立たせた。
桐生がタラの芽に薄く衣をつけ、油の中へ滑り込ませる。
シュワァァッ、と小気味よい音が響き、香ばしい匂いが立ち込めた。
「最高の揚げ加減です。さあ、鉄蔵さん、冷めないうちに!」
ザルに上げたばかりの天ぷらを口に運ぶ。
サクッ、と小気味よい音が響き、口いっぱいに山の息吹とほろ苦い旨味が広がった。
二人は衣服を脱ぎ捨て、贅沢な湯が満ちるドラム缶へと身体を沈めた。
「――くうぅぅぅ! 染みるなぁ!」
地熱で育まれた湧水の柔らかさが、
疲れた身体を優しく包み込む。
大自然の冷たい夜気と、湯の圧倒的な温かさ。
その絶妙な対比の中で、揚げたての山菜天ぷらを頬張り、
鉄蔵が用意した冷えた地酒を喉に流し込む。
それは、バブルの成金たちが大金を払って通う、
銀座の高級料亭をも遥かに凌駕する至高の贅沢だった。
桐生は、満天の星空を見上げながら、お猪口を掲げて大笑いした。
「いやあ、高台のバカ高い欠陥住宅を買わされて、
何十年もローンに追われてる奴らより、
俺たちのほうが絶対に贅沢ですよ!
あいつらもまとめて、この油で綺麗に料理してやりたい気分ですね!」
「ハハハ! 言うようになったじゃねえか。
よし、乾杯だ!」
二人は湯船の中で高らかに笑い、杯をぶつけ合った。
自分たちが手に入れた圧倒的な余裕と幸福感に、
胸が満たされていた。
しかし、その谷底から見上げる遥か高台の「夢のニュータウン」では、
全く正反対の地獄絵図が広がっていた。
帝都アーバニティが利益を最優先して強行した突貫工事。
その手抜き作業のツケは、あまりにも早く形となって現れた。
厳しい冬の冷え込みに耐えかね、基幹の送水本管が早くも破裂したのだ。
ニュータウン全域が、突如として大パニックの完全断水に見舞われる。
きらびやかな最新住宅の蛇口からは一滴の水も出ず、トイレすら流せない。
新住民たちは、喉の渇きと突如訪れた先進都市の崩壊に、
暗闇の中で絶望し、震えていた。
「おい、下の谷底はどうなってるんだ……?」
飢えと渇き、そして将来への不安に耐えかねた新住民の一人が、
すがるような思いで、ニュータウンの境界線の
崖から暗い谷底の様子をそっと覗き込んだ。
彼の目に飛び込んできたのは、あまりにも幻想的で、
同時に異様な光景だった。
高台が漆黒の闇と絶望に包まれているというのに、
黒谷の底だけは、煌々と灯る電球の光に照らされ、
白い湯気が美しく立ち込めている。
その湯気の向こうには、全裸のまま堂々と酒の杯を酌み交わす、
影のような二人の男のシルエットがあった。
その時、静まり返った夜の風に乗って、
谷底から不敵な笑い声とともに、恐ろしいセリフが明瞭に響いてきたのだ。
『――あいつらもまとめて、この油で綺麗に料理してやりたい気分ですね!』
新住民の男は、ガタガタと歯を鳴らして全身を激しく震わせた。
顔から完全に血の気が引いていく。
「……料理する、だと?
帝都アーバニティだけじゃない。
彼らに加担してあの高台の土地を買った、我々住民までもが標的なのか……!?」
男の脳内で、凄まじい誤解が爆発した。
これは、悪徳企業と、その暴利に目を瞑った住民たちを
社会的に抹殺するための、冷酷非道な「ゲリラ討伐計画」の秘密の密議なのだ、と。
だが、恐怖に震えながらも、男は目を離せなかった。
水道が完全に麻痺して右往左往する自分たちとは違い、
圧倒的な物資と水、そして「人間を油で料理する」などと
言ってのける底知れない余裕を持つ二人の姿。
その恐怖のシルエットは、絶望の淵に立たされた新住民の目に、
恐ろしくも、この地獄から自分たちを救い出してくれる
唯一の「頼もしい救世主」の姿として、強烈に焼き付いていくのだった。
谷底で「この天ぷら、本当に美味いですね!」と全裸で酒を酌み交わす二人。
高台の崖の上で「あの救世主たちに許されなければ、
我々に未来はない……」と涙を流す住民。
情報のギャップが生み出す勘違いの渦は、
悪徳企業の手を離れ、ついにニュータウンの住民全体をも巻き込みながら、
誰も予想だにしない方向へと狂い咲いていくのだった。
ただの天ぷらの話が、まさかのテロ計画に。
水が止まった高台の住民たちの視線が、少しずつ変わり始めています。
次回、冬なのに黒谷だけが常夏に!?「バイオ温室」のDIYです!




