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【第3話:薪ストーブの煙突から「闇の通信」】

水車発電で電気をゲットした二人。

今回は、冬の寒さを乗り切るためのDIYです。

現場のゴミをリサイクルするだけのはずが、なぜか「国家規模の陰謀」に誤解されていきます。

季節は容赦なく秋から冬へと進み、

谷底の夜は骨の髄まで凍みるような冷え込みを見せ始めていた。


夜霧が低く立ち込め、黒谷の夜は深い静寂に包まれる。

だが、桐生と鉄蔵の二人は、凍えるどころか、

むしろ新しい遊び場を手に入れた子供のように目を輝かせていた。


「鉄蔵さん、母屋で二人で寝るのもいいですけど、

この物置小屋、少し手を入れれば最高の秘密基地になりますよ」


「ほう、このボロをか。好きにやってみろ」


 二人が目をつけたのは、

敷地内に佇む古い木造の物置小屋だった。


柱こそ頑丈だが、壁の隙間からは容赦なく夜風が吹き込んでくる。


桐生はさっそく、高台のニュータウン工事現場のゴミ捨て場から

こっそり拾ってきた、断熱材の残りを引っ張り出した。


 グラスウールの塊を壁の隙間に隙間なく敷き詰め、

その上から余ったベニヤ板を打ち付けていく。

タッカーの小気味よい音が響くたび、小屋の気密性は劇的に向上していった。


「よし、仕上げは暖房だ。冬の暖房も世間に頼らず、タダで解決します」


 桐生がニヤリと笑い、鉄蔵の作業場から持ってきたのは、

一斗缶とペール缶、そしてどこかの解体現場で捨てられていた

不要な煙突のパイプだった。


 ペール缶の中にL字型に曲げた煙突パイプを仕込み、

周囲に断熱材として砂と灰を詰め込む。


さらに上から一斗缶を被せて密閉する。

これが、桐生の設計した「手作りロケットストーブ」だった。


 このストーブの最大の特徴は、その圧倒的な燃焼効率にある。

内部の強力な上昇気流によって薪が超高温で完全燃焼するため、

可燃性ガスすらすべて燃え尽き、煙突からはほとんど煙が出ないという優れものだった。


「鉄蔵さん、そこらへんの廃材の木切れ、入れてみてください」


 鉄蔵が細く割った建築廃材の木切れを投入し、

桐生がライターで火をつける。

 次の瞬間、ストーブの内部で空気が激しく循環を始めた。


「――ゴオオオオッ!!」


 地響きのような、猛烈な吸気音が小屋の中に鳴り響いた。

パイプが燃えるような熱を帯び、

一斗缶の表面から放たれる圧倒的な輻射熱が、

瞬く間に冷え切った室内を満たしていく。


室温は一気に跳ね上がり、まるで真夏のような暖かさになった。


「うおっ、こいつは凄げえな!」


 鉄蔵は驚いて綿入れの上着を脱ぎ捨て、

Tシャツ一枚になった。

桐生もまた、額の汗を拭いながら上着を脱ぐ。


「完璧です。

廃材の切れ端だけでこの火力。

これなら冬の暖房代も完全にゼロ円ですね!」


 二人は、手作りの快適な空間で、

パチパチと燃える炎を眺めながら、至福の笑みを浮かべていた。


 だが、この熱気が満ちる秘密基地から遥か上方、

高台の境界線では、全く異なる空気が流れていた。


 防寒着に身を包んだ帝都アーバニティの警備員は、

冷たい夜風に吹かれながら、双眼鏡で黒谷の底をじっと監視していた。


暗視スコープの緑色の視界の中で、彼は恐怖に身を震わせることになる。


「……おい、班長。

妙なんだ。

あの谷底の小屋を見ろ」


「どうした?」


「煙突が立ってるだろ。

なのに、煙が全く出ていないんだ。

完全に透明だ。

それなのに……あの地響きは何だ?」


 漆黒の闇の中、黒谷の底から「ゴーッ、……ゴーッ……」という、

地面を震わせるような不気味な重低音が、

一定の周期を伴って高台まで響いてきていた。


ロケットストーブが勢いよく空気を吸い込む音が、

谷底の地形に反響し、まるで巨大な機械が脈動しているかのような

異様な音響効果を生み出していたのだ。


 この緊迫した報告は、すぐさま高台のオフィスにいる金剛寺部長へと届けられた。


「煙を出さずにエネルギーを発生させている……だと!?」


 金剛寺はガタタッと音を立てて立ち上がり、拳で激しく机を叩いた。

その顔は恐怖で青ざめ、額には冷や汗がにじんでいる。


「間違いない……!

桐生の奴、あの地下工作本部で、

極秘の新型軍用エンジン実験でもしているんだ!


煙が出ないのは、高度な隠蔽工作技術を導入している証拠だ!」


 金剛寺は部屋の中を狂ったように行き来しながら、

自らの脳内で恐怖のパズルを完成させていく。


「待てよ……あの音の周期だ。

『ゴーッ、ゴーッ』というあの不気味な重低音……。


これは、まさかモールス信号か!?

桐生の奴、我が社の通信妨害(第2話)を潜り抜け、

地周波を使って全国の過激な環境活動家どもへ、

ニュータウン爆破の指示を送っているんだ!」


 金剛寺は、窓の外の暗闇を見つめ、歯をガタガタと鳴らした。


「あいつはただの元社員じゃない……。

世界を裏から操る、過激派ゲリラの指導者だ……!


あのロケットストーブとかいうゴミの山は、

世界を揺るがす『闇の通信基地』だったんだ!」


 谷底の快適な小屋で、桐生と鉄蔵が

「いやあ、ストーブの横で飲む冷たい水は最高ですね!」と、

上着を脱いで呑気に笑い合っている頃。


 高台のオフィスでは、国家規模の陰謀(※ただの一斗缶)に怯える金剛寺たちが、

絶望の深読みをさらに加速させていた。

すれ違いの針は、もう誰にも止められない領域へと狂い進んでいく。

ロケットストーブの性能が良すぎて、まさかの暗号通信疑惑をかけられてしまいました。

次回、さらに勘違いは加速します。

極寒の中、二人が作ったのは……男のロマン、露天風呂です!

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