【第2話:ジャンク水車は「電磁波ハッキング兵器」!?】
前回、最強のDIYコンビを結成した桐生と鉄蔵。
金剛寺は勝手に怯えていますが、当人たちはいたって平気です。
今回はスローライフの基本、インフラの「電気」を自作していきます。
「まずはインフラだな。
国や会社にお行儀よく金を払ってやる義理はねえ」
鉄蔵の不敵な言葉に、桐生は深く頷いた。
理不尽な解雇から一夜明け、
二人の「無敵の手作り生活」は具体的な第一歩を踏み出しようとしていた。
自給自足生活において、何よりも優先すべきは電力の確保である。
桐生が目をつけたのは、鉄蔵の敷地内をさらさらと流れる、
黒谷の豊かな湧水の小川だった。
「鉄蔵さん、物置の奥にあるあのガラクタ、使わせてもらってもいいですか?」
「おう、好きなもん持ってけ。
どうせ死蔵してた精米機の成れの果てだ」
二人はさっそく、埃を被った古い精米機の鉄製プーリーや、
腐りかけの木製のVベルト、
そして庭に転がっていた頑丈な廃材を引っ張り出した。
桐生は作業着の袖をまくり、図面を引くこともなく、
頭の中の設計図に従ってノコギリとハンマーを振るう。
「へえ、手際がいいな」
「一応、都市工学が専門ですから。
流体力学の基礎くらいは頭に入ってます」
桐生が廃材を組み合わせて即席の水車を組み立てていく横で、
鉄蔵は近くの解体屋へと軽トラックを走らせ、
格安――というか「処分に困っているから」と実質タダで、
古い廃車のオルタネーター(交流発電機)を譲り受けてきた。
小川のせせらぎに特製水車を設置し、
古いオルタネーターと精米機のギヤをVベルトで直結する。
水流が水車の羽根を叩き、凄まじい勢いで軸が回転を始めた。
キィィィン、と錆びついたベアリングが悲鳴のような音を立てるが、
桐生がジャンクの配線を農家の屋内へと引き込むと、
即席の小水力発電システムが見事に稼働を始めた。
夜になり、静まり返った黒谷の底。
桐生が農家の天井から吊るした裸電球のスイッチを入れた瞬間、
パッと、オレンジ色の力強い光が居間を照らし出した。
「点いた……! 成功です、鉄蔵さん!」
「おお、本当にやりやがったな!」
さらに、隅に置かれていた古いラジカセの電源を入れると、
ザザッという砂嵐の後に、
夜間の賑やかなラジオ放送がクリアに流れ出した。
二人は顔を見合わせ、
鉄蔵の冷蔵庫で冷やしていたビール缶を勢いよくぶつけ合った。
「これで電気代ゼロ円生活のスタートだ!
ざまぁみろ帝都アーバニティ!」
「タダの電気で聴くラジオは格別だな、おい!」
二人は冷えたビールを喉に流し込み、
ラジオから流れるバブル全盛期のポップミュージックに合わせて、
大喜びで不格好なダンスを踊り狂っていた。
自分たちが手に入れた小さな自由と、圧倒的な達成感に、
桐生の胸の支えは完全に消え去っていた。
しかし、この歓喜のダンスが繰り広げられている頃、
谷底のジャンク水車は、遥か高台の工事現場に
予期せぬ「災害」を引き起こしていた。
古い廃車のオルタネーターは、
経年劣化によって回路の絶縁が著しく悪化していた。
それが高回転で無理やり回り始めた瞬間、
システム全体から凄まじい「電圧スパイク」と、強力な高周波ノイズが
周囲の空間へと放出されたのだ。
それは、一種の原始的な電磁パルス(EMP)に近い破壊力を持っていた。
ちょうどその時、高台のニュータウン工事現場では、
夜間にもかかわらず突貫工事の指示が出されていた。
金剛寺部長の手元には、
電波法を完全に無視して出力を限界まで違法改造した、
超高出力の業務用トランシーバーが握られていた。
「おい! 擁壁の生コン注入を急げと言ってい――」
金剛寺が怒鳴り声を上げた瞬間、
通信機から「ギギギギャギャギャギャァァァッ!」という、
鼓膜を裂くような激しい不協和音とノイズが爆発した。
「うわあぁっ!?」
金剛寺は悲鳴を上げてトランシーバーを放り出した。
周囲の警備員や重機のオペレーターたちの無線機からも、
一斉に同様の狂ったノイズが鳴り響き、
高台の通信網は瞬く間に完全不通、大混乱に陥った。
「な、何事だ! レーダー妨害か!? ソ連の電子戦工作か!?」
息を切らせた部下が、青ざめた顔で金剛寺のもとへ
駆け込んでくる。
「金剛寺部長! 発信源を特定しました!
谷底……黒谷の鉄蔵の自宅から、凄まじい指向性の電磁波ノイズが
我が社の周波数帯に向けてピンポイントで照射されています!」
報告を聞いた金剛寺は、
ガタガタと歯を鳴らして血の気を引かせた。
脳裏に、昼間潜入したという桐生の不敵な面構えが浮かぶ。
「間違いない……。
桐生め、会社への報復として、
自作の『電磁波妨害工作装置』を起動しやがったんだ……!」
金剛寺は、夜空に浮かぶ黒谷の微かな光を見下ろし、戦慄した。
「あのゴミの山に見えた施設はすべて偽装だ。
あいつは最新鋭の電子戦ギミックを隠し持っていたんだ!
我が社の通信網を乗っ取り、
ニュータウン計画を内部から麻痺させる気だぞ……!」
谷底の二人が、タダの電力で点いた裸電球の下、
「ビール美味めぇ!」とラジオの音楽で愉快に踊っている頃。
高台のきらびやかなオフィスでは、
金剛寺たちが「見えないハイテク環境破壊」の影に怯え、
一睡もできない恐怖の夜を過ごし始めていた。
情報のギャップが生んだ、壮大なるすれ違いは、
さらにその深度を増していくのだった。
電気が通ってホクホクの二人ですが、
高台の金剛寺は電子戦を仕掛けられたと勘違いして夜も眠れない様子です。
次回は、冷え込む夜を乗り切るための「暖房」作りに着手します。お楽しみに!




