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【第17話:漆黒の黒湯温泉噴出!】

いつもお読みいただきありがとうございます!

水路を遮断され、人力で井戸を掘り進める桐生と鉄蔵。

その作業が、日本の地質の歴史を塗り替える(?)大奇跡を起こします!

上総掘りという古の知恵を武器に、

大地への反撃を開始した谷底の「黒谷ベース」。


 大企業による冷酷な水路封鎖という絶望から一転、

不屈の闘志に火をつけられたニュータウンの住民たちが見守る中、

桐生と鉄蔵が主導する井戸掘りは、

すでに地下数十メートルの未知の領域へと達していた。


 極寒の冬空の下、鉄蔵が叩き出す「イチ、ニ、サン」という

小気味よくも絶妙な手拍子のリズムに合わせ、

巨大な三脚から吊るされた頑丈な鉄頭(チゼル)が、

硬い岩盤をザクザクと噛み砕いていく。


「よおし、もう一丁! ズドンといきましょう!」


 桐生が声を張り上げ、住民たちと力を合わせて縄を引く。

突貫工事で建てられた高台のプレハブ住宅とは違い、

大地の底に眠る地層は強固そのものだったが、

彼らの迷いのない力強い一撃が、確実にその障壁を穿ち続けていた。


 傷だらけの大地に向き合い、地道な作業を開始してから数日が経過した、

ある風の強い午後のことだった。


突如として、誰もが足の裏に奇妙な震えを感じた。

直後、地面の遙か深淵から「ゴゴゴゴゴ……」という、

まるで巨大な怪物が目を覚ましたかのような、

不気味な地鳴りの音が響き渡ってきたのだ。


「お、何か来ますよ! 皆さん、危ないから後ろに下がって!」 


桐生が血相を変えて叫び、掘削穴から大きく飛び退いた、まさにその瞬間だった。

 ドカン!!!

 鼓膜を震わせる凄まじい爆発音とともに、

穿たれたばかりの狭い穴から、

大地の怒りを具現化したような真っ黒な液体が、

天高く猛烈な勢いで噴き上がったのだ。


「ひえっ!? な、なんだあれは! 石油か!?」


「いや、悪徳企業の毒水かもしれないぞ! 逃げろ!」


 頭上から降り注ぐ不気味な漆黒の液体を前に、

ニュータウンの住民たちは大パニックを起こし、

蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。


 しかし、全身にその黒い飛沫を頭から浴びた鉄蔵だけは、

避けるどころか、顔に付いた液体をペロリと指先で気前よく舐め、

それからニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ガタガタ騒ぐんじゃねえ、この素人どもが。毒水なわけあるか。

……こいつは極上の『黒湯天然温泉』だ!」


「えっ、温泉!?」


 桐生が目を丸くする。

 鉄蔵の言葉通り、それは数万年前の古代の植物性有機物が

地中深くでじっくりと溶け込んだ、

独特の泥炭臭を持つ「黒湯」であった。


しかも、もうもうと立ち上る白い湯気が証明している通り、

湧出温度はゆうに四十度を超えている。冷え切った谷底の空気に、

温泉特有の仄かに甘く香ばしい香りが広がっていく。


 濁ることのない漆黒の秘湯を前に、

桐生は一瞬にして大喜びで目を輝かせた。


「鉄蔵さん!

これなら、以前作ったドラム缶風呂じゃ全然足りませんね!

すぐに拡張して、みんなで入れる大きな露天風呂を作りましょう!」


「おう、言ってくれるじゃねえか。

資材ならそこら中に転がってるからな」


 桐生の発案により、黒谷ベースは即座に、

熱気に満ちた即席の野天風呂造りへと動き出した。


鉄蔵の物置や近くの解体現場から集めてきた廃材のコンクリートブロックを

敷き詰め、大人の腰ほどの高さまで頑丈に囲いを作っていく。


桐生が手際よくセメントを練り、隙間を埋めていく。

その驚異的な行動力を前に、さっきまで怯えていた住民たちも

「俺たちも手伝う!」と完全に我を忘れ、

泥だらけになりながら総出で岩を運び、木枠を組んだ。


 そうして、わずか数時間という驚異的なスピードで、

湯気を盛大に立ち上げる巨大な「黒谷野天大温泉」が完成したのである。


「信じられない……。これは、本当に天国だ……」


 極寒の断水と大停電に震え、身も心も限界を迎えていた

ニュータウンの住民たちは、次々とその真っ黒な秘湯へと

身体を沈めていった。


大自然の熱が、かじかんだ手足を優しく包み込み、

芯から凍りついていた身体を劇的に解きほぐしていく。


あまりの心地よさに、誰もが至福の表情を浮かべ、

涙を流してその贅沢な温もりに溺れていた。

     *

 一方、この「谷底での温泉噴出」という信じがたい凶報は、

すぐさま高台の帝都アーバニティ現地オフィスへと牙を剥いた。


暗黒の支社長室で報告を聞いた金剛寺は、文字通り白目を剥き、

あまりの衝撃にその場に崩れ落ちて卒倒した。


部下に叩き起こされ、冷たい床から這い上がった彼の顔は、

幽霊のように真っ白に変色していた。


「お、温泉だと……!? ふざけるな! そんな馬鹿な話があるか!」


 金剛寺はガタガタと全身を震わせながら、

窓ガラスにへばりついて谷底を見下ろした。


双眼鏡の向こう側、漆黒の闇の中に、

煌々と輝く自家発電の明かりに照らされた巨大な黒い湯船が見える。


そこには、自社に高い管理費を払うはずだった住民たちが、

大企業のインフラなど端から忘れたように、

笑顔で湯に浸かっている姿が鮮明に映し出されていた。


「そうか……そういうことだったのか……!」


 敗北感と恐怖のあまり、

金剛寺の脳内で恐るべき妄想の歯車が噛み合う。


「あの桐生という男……。

奴は私が重機を使って上流の水路を遮断することなど、

最初から百手先まで完全に見越していたんだ!


だからこそ、慌てず騒がず上総掘りを起動し、

最初から莫大な利権を生み出す温泉の脈を、

寸分違わず狙い澄まして掘り当ててみせた……。


水路の破壊すら、奴にとっては温泉開発の正当性を

住民にアピールするための、単なる舞台装置に過ぎなかったというのか!

桐生……お前は一体、どこまで先を読んでいるんだ……っ!」


 金剛寺が独りで勝手に底知れぬ天才の影に怯え、

屈辱の涙を流している頃。


 当時、世間はバブルのあぶく銭を注ぎ込んだ

豪華な会員制リゾートホテルの建設ラッシュに沸いていたが、

この最奥の谷底「黒谷ベース」は、


それらの欺瞞をあざ笑うかのように、純粋な天然水、自家発電の光、

それから極上の天然温泉という、

あらゆる生活基盤がすべて無料で揃った「無償の桃源郷」へと、

勝手に進化を遂げていたのである。


「いやぁ、良い湯ですねぇ、鉄蔵さん」


 手作りの湯船に肩まで浸かり、

星空を見上げながら桐生がのんびりと笑った。


「おう、極楽だな。

……お前、上の金剛寺の奴を完全に社会的に仕留めちまったぞ」

 鉄蔵の呆れ顔に、桐生は「ええ?」と無邪気に首を傾げるのだった。

井戸を掘ったら温泉が出ちゃいました!

手抜き工事で冷え切った高台の住民たちの身体と心が、

黒谷の湯でポカポカに溶かされていきます。

次回、温泉の次は、環境を浄化する「魔法の石鹸」をDIYします。

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