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【第16話:金剛寺の嫌がらせ「水路封鎖」の返り討ち】

住民の心が完全に黒谷に奪われ、焦りまくった金剛寺。

ついに重機を使って、黒谷の生命線である「水路」を埋め立てるという

暴挙に出ます。絶体絶命のピンチに、鉄蔵さんが動く!

『青葉の森ニュータウン』の高級住民たちが

完全に谷底の黒谷ベースに付き従い、

あろうことか帝都アーバニティへの家賃や住宅ローンの支払いを

組織的にボイコットし始めた事態に、

支社長の金剛寺はついに精神の限界を迎えていた。


冷え切った現地オフィスのデスクで、

彼は狂ったように髪を掻き毟り、血走った目を剥く。


「おのれ……おのれ桐生め!

資本主義の秩序を乱し、我が社の神聖なる集金システムを

破壊するテロリストめ!

こうなったら司法も警察も待っていられん、実力行使だ!

あの生意気な谷底の息の根を、物理的に止めてやる!」


 真夜中、深い闇と極寒に包まれた山林の静寂を、

複数の荒々しいディーゼルエンジンの咆哮が切り裂いた。


金剛寺が独断で手配した、

帝都アーバニティの息の掛かった数台の大型ブルドーザー。


その強大な鉄の爪が、黒谷ベースに清らかな水を供給していた

湧水の川の上流へと容赦なく襲いかかった。


「やれ! 埋め尽くせ! 水を一滴も流すな!」


 金剛寺の狂気じみた号令のもと、重機たちはバリバリと木々をなぎ倒し、

大量の土砂と巨石を濁流のように押し流して、

水路の根源を完全に圧殺してしまった。


 翌朝。黒谷ベースを訪れた住民たちは、

異様な光景に凍りついた。


 昨日までサラサラと心地よい音を立てて回っていたジャンク水車が、

嘘のようにピタリと停止している。


そればかりか、命の水を滾々と注ぎ出していた竹パイプからは、

不気味な沈黙と共に、濁った泥水が数滴滴るだけで、

完全に供給が途絶えていた。


「まさか……水が止まっている!?」


「あの男だ……金剛寺の仕業に違いない!

悪徳企業の卑劣な生命線の遮断だ!」


「もう終わりだ……。

水も電気も、これで全部おしまいだ……」


 せっかく手に入れた安住の地を襲った唐突な破滅に、

集まっていた新住民たちは絶望し、静まり返る。


バブルの繁栄に隠された大企業の冷酷な力を見せつけられ、

誰もが恐怖に身を震わざるを得なかった。


 しかし、水が完全に止まった現場の凄惨な有様を見届けても、

職人気質の老人・鉄蔵は眉ひとつ動かさなかった。


彼は愛用の煙管をトントンと木枠に叩きつけ、

白く細い煙をふかしながら、フンと鼻で笑った。


「上の阿呆どもが、こざかしい真似を諮りおって。

桐生、水が出ねえなら、地面の下から引っ張り出すまでだ。やるぞ」


「はい、鉄蔵さん!

ちょうど少し身体を動かしたかったところです」


 鉄蔵が薄暗い物置の奥から引きずり出してきたのは、

現代の重機を見慣れたニュータウンの住民たちには

およそ想像もつかない、前時代的な巨大な鉄の三脚と、

ずっしりと重い頑丈な鉄の筒(チゼル)だった。


それこそは、明治時代から日本の水利を支え、

先祖代々この地に伝わる「上総掘り」と呼ばれる、

すべて人力で深い地層から地下水を汲み上げる伝統的な鑿井道具であった。


「よおし、ちょっと朝の体操代わりにいきますか!」


 桐生は寒風を弾き飛ばすような快活な声を上げると、

鉄蔵と共に、むしろ楽しそうに作業を開始した。


三脚の頂点から太い縄で吊るされた重い鉄の筒を、

呼吸を合わせて地面に向かって

――ズドン、ズドンと猛烈な勢いで叩きつけ始めたのだ。


 乾いた大地に、強烈な打撃音が規則正しく響き渡る。

泥が跳ね、大地の奥深くの粘土層が穿たれていく。

二人の作業には、焦りも、恐怖も、

大企業への怒りすらも一切存在しなかった。


ただ、日常の日曜大工を楽しむかのように、

純粋な笑顔すら浮かべていた。


 その迷いのない、あまりにも力強く洗練された作業の様子を

周囲で見ていた一流のエンジニアや都市環境学の教授たちは、

絶望から一転して、ハッと息を呑み、

己の頭を激しく打ち付けられたような衝撃に目を見開いた。


「……見ろ。なんということだ。

水路を絶たれることすら、

彼らは最初からすべて計算に入れていたんだ!」


 都市環境学の教授が、震える手で眼鏡を押し上げながら声を漏らした。


「上流の水路など、最初から敵に与えた単なる『囮』に過ぎなかったのだ。

慌てる素振りすら見せないあの余裕を見ろ。


巨大デベロッパーのあらゆる物理攻撃を完全に無効化し、

地下数百メートルから直接純粋な水源を確保する、

秘蔵の次の一手が、すでに完全に用意されていたのだ……!」


「ああ、恐ろしいほどの防衛戦略だ」


 隣の一流ゼネコンの設計士も、

ノートを握りしめたまま熱狂的な誤解に身体を震わせる。


「大企業が重機を使って上流を物理的に封鎖するという暴挙すら、

彼らにとっては、この『上総掘り』という、

近代的な探知網に一切引っかからない超古代の隠密裏の

供給網を起動するための、

単なるスイッチに過ぎなかったんだ。

金剛寺は、完全に彼らの手のひらで踊らされていたのだ……!」


 金剛寺が血の涙を流して仕掛けた卑劣な嫌がらせは、

桐生たちのお人好しな日常の知恵の前に、

一切の通用をみせなかった。


それどころか、かえって桐生たちの

「いかなる外部からの攻撃も通じない、完璧な無敵の生存準備」を、

高台の知識人たちに決定的に印象付けるという、

最悪の逆効果を生み出してしまったのだ。


「桐生さん、俺たちも手伝わせてくれ!」


「そうだ、帝都アーバニティの鼻を明かしてやるんだ!

俺たちの井戸を掘るぞ!」


 完全に黒谷の思想に心酔し、

団結力をさらに強固なものにした住民たちが、

次々と腕をまくって作業の列へと加わり始める。


「あはは、ありがとうございます!

じゃあ、そこの縄を一緒に引っ張ってください!」


 桐生は相変わらずの屈託のない笑顔で、

集まってきた住民たちを迎え入れた。


ただ止まった水を確保したかっただけの手仕事が、

大企業への完全なる勝利のパレードへと変貌していく。


「……おい桐生、上の金剛寺の野郎、

今頃オフィスの窓からこれを見て、泡吹いて倒れてるんじゃねえか?」


 鉄蔵がニヤリと悪そうに笑うと、

桐生もズドンと鉄の筒を落としながら、

楽しげに笑い声を響かせるのだった。

谷底の要塞化は、もはや誰にも止められなかった。

水路を埋められても、即座に手掘りで井戸を掘り始める二人。

バブルの重機vs伝統の井戸掘り技術の結末は?

次回、誰も予想していなかった「奇跡」が、黒谷の地面から爆発します!

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