↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/17

【第13話:ブラックアウトと、谷底の「希望の灯火」】

高台の崩壊は止まりません!

水道の次は、まさかの「電気」です。

突貫工事のツケで大停電が発生する中、

谷底の黒谷ベースだけが異様な存在感を放ち始めます。

すでに致命的な大断水に見舞われ、

ただでさえ息も絶え絶えだった高台の『青葉の森ニュータウン』に、

追い打ちをかけるような、さらなる容赦のない悲劇が襲いかかった。


 水道という生命線を断たれ、凍えるような冬の寒さの中で

少しでも暖を取ろうとした住民たちは、

一斉に自宅の電気ストーブやエアコン、ファンヒーターといった

ありとあらゆる暖房器具を限界まで稼働させた。


消費電力は、デベロッパーの想定を遥かに超えて跳ね上がっていく。

しかし、この街のインフラをすべて手掛けた「帝都アーバニティ」が、

バブルの予算削減と利益最優先のために設置していたのは、

お粗末極まりない容量不足の仮設変電設備に過ぎなかった。


 インフラの限界は、唐突に、そして決定的な破滅の音とともに訪れた。

 夜の帳がすっかり下り、街全体が最も電力を消費する時間帯を迎えた頃、

ニュータウンの端に据えられていた入電トランスが、

過負荷に耐えかねてけたたましい爆発音を轟かせた。


夜空を一瞬だけ不気味な紫色の火花と、激しい閃光が引き裂く。

直後、街を彩っていたすべての人工の光が、

まるで最初から存在しなかったかのように一斉に消失した。


 完全な停電――全域大停電の発生であった。

 バブル景気の象徴として、未来型インテリジェント・シティを

華々しく謳っていたきらびやかな街は、

一瞬にして極寒の静寂と、すべてを飲み込む漆黒の闇へと突き落とされた。


電子ロックでガチガチに固められた最新のドアは不気味に沈黙し、

部屋を暖めていた暖房器具はまたたく間に冷たい鉄の塊へと変わった。


夜の退屈を紛らわせていたテレビの砂嵐さえも消え去り、

静寂だけが部屋を支配する。


一寸先も見えない暗闇の中で、住民たちは己の手さえ見えない恐怖に怯え、

ただただ歯の根を鳴らして震えるしかなかった。


「パパ、寒いよ……真っ暗で何も見えない。怖いよ……」


「大丈夫だ、すぐに復旧するさ。あの大きな帝都アーバニティが、

なんとかしないはずがないんだから……」


 暗闇の部屋の片隅で、そうお互いを慰め合う親子の声も、

室内に急速に満ちていく冷気の中で白く凍りついていく。


復旧の目処など立つはずもない絶望的な状況の中、

誰からともなく、冷え切った家を飛び出し、

視線を遮るもののない高台の端へとふらふらと歩みを進めていった。


そして、遥か眼下に広がる深い谷底――

重機が入らないと見捨てられた最奥の谷底「黒谷」の方向を、

すがるように見下ろした。

 その瞬間、集まった住民たちは一斉に息を呑み、己の目を疑った。


「……おい、嘘だろ? 何なんだ、あれは……!」


 住民たちの視線の先には、

この世のものとは思えない光景が広がっていた。


 周囲のすべてが漆黒の闇に塗り潰され、

冷たい静寂に支配されているからこそ、

その場所の存在感はあまりにも異様で、

そして圧倒的だった。


高台の最新都市が全滅しているというのに、

谷底の黒谷ベースだけが、まるで闇夜に浮かび上がった極彩色の宝石か、

あるいは御伽話の城のように、

煌々と眩い光を放ち、周囲の森を優しく照らし出していたのだ。


 それはかつて、桐生と鉄蔵が、

どこからか拾ってきた自動車用の古いオルタネーターや、

様々なジャンク部品を組み合わせて完成させた

「ジャンク水車発電」の力だった。


大企業の送電網から完全に独立し、

自給自足のために構築されたその自家発電設備は、

高台のパニックやインフラ崩壊などどこ吹く風で、


サラサラと絶え間なく流れる小川の恵みを一身に受けながら、

今も静かに、しかし力強く休むことなく

電力を生み出し続けていたのである。


 暗闇の中に鮮やかに浮かび上がる、

温かそうで、あまりにも美しい光の集落。


 目を凝らし、耳を澄ませば、

車のバッテリーから電源を取った古いラジカセから、

微かに心地よい軽快な音楽さえ流れてくるのが聞こえる。


黒谷ベースの薪ストーブの煙突からは、

仄かな熱気とともに、豊かな生活の匂いが夜の闇へと、

ゆったりと上っていた。


 凍える新住民たちは、その幻想的で、

人間らしい温もりに満ちた光景に、魂を奪われたように釘付けになった。


限界を迎えていた彼らの心が、ガラガラと音を立てて崩れ去り、

そしてそれは、一つの確信に満ちた信仰へと変わっていく。


「あそこだ……あそこなら、冷たくない水もある。

夜を照らす光もある。

凍えずに済む暖だってあるんだ……」


「あそこが、私たちの本当に求めていた約束の地だ!

帝都アーバニティの作った偽物なんかじゃない、

本当のニュータウンなんだ!」


 一人の住民が、手元の懐中電灯を灯して坂道へと歩み出すと、

堰を切ったように人々がその後に続いた。


手に手にライトや最低限の荷物を持った住民たちが、

まるで見えない力に吸い寄せられるように、

続々と谷底への大移動を始めた。


暗闇の坂道の中に延々と伸びていく光の列は、

まるで暗黒の世界で救いを求める巡礼者のようであり、

あるいは現代の難民たちの縮図のようでもあった。

     *

「おい! どういうことだ! 説明しろ!

住民たちが全員、荷物を持って谷底へ逃げていくぞ!

止めろ、誰かあの裏切り者どもを止めんか!」


 帝都アーバニティの、すっかり暗黒に包まれて

極寒の地へと化した支社長室で、

金剛寺は窓ガラスに頭をぶつけんばかりに張り付き、

血の涙を流さんばかりの勢いで怒鳴り散らしていた。


 手元に持った懐中電灯の細く心許ない光だけが、

彼の屈辱と怒りで青ざめた顔を不気味に浮かび上がらせている。


必死の形相で受話器を耳に押し当て、

部下たちに住民を呼び戻すよう命令を下そうとするが、

電気の通らない電話線は冷たく黙り込んでいるだけだった。


大企業の誇らしい威光も、最新のきらびやかな肩書きも、

電気がなければただの無力な飾りに過ぎない。


電気も通らない無能な会社の命令に耳を貸す住民など、

この漆黒の闇の中には一人として存在しなかった。

     *

 その頃、そんな高台の壮絶な修羅場など露知らず、

谷底の黒谷ベースでは、桐生が手作りの冷温給水機から

淹れたての白湯をのんびりとすすりながら、満天の星空を眺めていた。


「あれ? 鉄蔵さん、ちょっと見てくださいよ。

なんか、ものすごい人数の人たちが懐中電灯を持って、

こっちの谷底に向かって降りてきますね。


ニュータウンの方々のおうちじゃ、

今、夜のお散歩が流行ってるんですかね? 賑やかでいいなぁ」


「アホ言え。

このクソ寒い夜中に、あんな大荷物でお散歩なわけあるか、

あの慌てようを見ろ。


……おい桐生, お前、また俺の知らねえところで

何かとんでもねえことやらかしたんじゃねえだろうな?」


「心外ですよ!

僕はただ、いつも通りベースが暗くならないように、

水車を回して明かりを灯してただけですってば」


 桐生が呑気に首を傾げている間にも、

光の長い列はどんどんベースの敷地内へと近づいてくる。


 彼らを受け入れる準備など、桐生たちには何一つしていなかった。

しかし、凍え、怯え、文明の闇から逃れてきた住民たちにとって、

自家発電の光で煌々と輝くこの黒谷ベースは、


勝手に「難民を受け入れる最後の希望の砦」として、

そして大破局から人類を救う現代のノアの箱舟として、

絶対的な崇拝の対象へとおし上げられていくのだった。


「あの……桐生さん、助けてください……!

上の街は、もうおしまいです……!」


 先頭の住民が、涙ながらに桐生の両手をがっしりと握りしめた。

そのあまりの必死さに圧倒されながらも、

ベースの温かい光に包まれた瞬間、

住民たちの顔には言葉にならない安堵の笑みが広がっていった。


「あはは、よく分からないですけど、

とりあえず温かいものでも飲んで、落ち着いてください!」


 桐生はそう言って、いつものお人好しな笑顔で彼らを快く迎え入れた。

こうして、バブルの狂乱の夜は、

谷底の小さな、しかし決して消えない灯火を中心に、

新たな真の共同体の歴史を力強く刻み始めるのだった。

暗闇の中に輝く水車発電の光。

住民たちにとって、桐生たちが現代のノアの箱舟に見えた瞬間でした。

次回、押し寄せた住民たちを救うため、桐生が「寒さ対策」のDIY教室を開きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。