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【第10話:ただの自家醸造シードルが「違法兵器の燃料」扱い】

第1章のクライマックス!

今回は、鉄蔵さんのリンゴ園で採れた果実を使った「大人の楽しみ」のDIYです。

発酵の神秘的な音が、敵の密偵の耳には「死の秒読み」に聞こえてしまい……?

前夜の大土木工事によって、物置小屋の下には

完璧な「地下貯蔵庫(アースシェルター)」が完成していた。


地中の温度は一年を通じて驚くほど安定している。

これによって、黒谷ベースの自給自足はまた一歩、

完全なる領域へと近づいた。


 そんな出来立ての貯蔵庫へ、

鉄蔵が嬉しそうに大量の木箱を運び込んできた。


中には、彼が裏山の斜面で大切に育てていた、

小ぶりだが驚くほど真っ赤に実ったリンゴがぎっしりと詰まっている。


「桐生、これだけの量だ。

そのまま食うだけじゃ芸がねえ。

何か面白い使い道はないか?」


「それなら鉄蔵さん、最高のアイデアがありますよ」


 桐生は真っ赤な果実を一つ手に取り、

悪戯っぽく微笑んだ。


「フランスの伝統的な微発泡リンゴ酒――『シードル』を作りましょう。

僕らの秘密基地の完成を祝う、最高の祝杯用です」


 二人はさっそく、収穫したてのリンゴを丁寧に洗い、

おろし金で細かくすり潰していった。


甘酸っぱい芳醇な香りが物置小屋いっぱいに広がる。

それを清潔な布で包み、鉄蔵が体重をかけて


ぎゅうぎゅうと万力のように絞り出すと、

黄金色の瑞々しい果汁が勢いよく溢れ出た。


 桐生は、その果汁を鉄蔵が物置から発掘してきた

大きなガラスの瓶へと詰め込んでいく。


「イースト菌とかは入れないんですか?」


「必要ありません。

リンゴの皮には天然の野生酵母がたっぷり付着していますからね。


こいつらの力だけで、果汁に含まれる糖分が、

ゆっくりとアルコールと炭酸ガスに分解されていくんです」


 ガラス瓶の栓をしっかりと密閉し、

ひんやりとした地下貯蔵庫の棚へと並べた。


 数日後、夜の静寂が黒谷の底を優しく包み込む頃。

 薄暗い地下貯蔵庫の中では、

神秘的とも言える微細な音が鳴り響いていた。


ガラス瓶の中に密閉された黄金色の液体から、

絶え間なく泡が湧き上がっているのだ。


「――シュワシュワ……、プチプチ……、プチプチ……」


 それは、目に見えない大自然の生命が息づいている証だった。

 桐生と鉄蔵は、ランタンの灯りで

ガラス瓶の底から立ち上る無数の小さな気泡を眺めながら、

ニヤニヤと満足げに声を潜めた。


「いい具合に発酵が進んでるな。

世間がクリスマスだ何だと浮かれる頃には、

極上のシュワシュワ酒が飲めるぞ」


「ええ、タダの果実から生まれる最高のご褒美ですね」


 二人は未来の美味に胸を躍らせ、

互いに肩を叩き合って母屋へと戻っていった。


 しかし、二人が去った後の暗闇の地下貯蔵庫には、

死の恐怖に全身をガタガタと震わせる人影が潜んでいた。


 帝都アーバニティの金剛寺部長が、

黒谷の「地下核シェルター(※ただの貯蔵庫)」の真相を暴くために

決死の覚悟で送り込んだ、隠密の密偵

――実態は入社したばかりの新入社員だった。


 懐中電灯の薄暗い光の先、棚に不気味に並ぶ、

怪しげな液体が詰め込まれた巨大なガラス容器の列。


そして、耳を澄ませば暗闇の奥から聞こえてくる、

絶え間ない未知の化学反応の音。


「……シ、シュワシュワ……、プチプチ……」


 極限の緊張状態にあった新入社員の脳内で、

凄まじい誤解の火花が散った。


この怪しげな連続音、割れんばかりに密閉された容器の圧力。

これは間違いなく、世界を震撼させる恐るべき反応なのだ、と。


 密偵は発狂寸前になりながら通信機のボタンを押し、

裏返った声で高台へ無線を入れた。


「ほ、報告します! 

地下拠点の最深部、最暗部に潜入しました! 


そこで私は……特殊な化学液体燃料による『ロケット兵器』、

あるいは新型爆弾の大量破壊燃料の製造現場を目撃しました! 


液体が不気味な音を立てて、激しい化学反応を起こしています! 

今すぐここを爆破しないと、ニュータウンごと全員吹き飛びますッ!!」


「な、何だとおぉぉっ!?」


 高台のきらびやかなオフィスで、

スピーカーから響く部下の悲鳴を聞いた金剛寺部長は、

完全に恐怖の飽和点を突破した。


衝撃のあまり、握りしめていた受話器を文字通り床へと取り落とす。

 電波妨害(第2話)、高度な隠蔽暖房(第3話)、

光学熱線兵器(第6話)、地下盗聴網(第8話)、

あるいは地下核シェルター(第9話)。


それらすべてを現実のものとしてきた(※すべて勘違い)

恐怖の天才・桐生が、ついに最後の仕上げにかかったのだ。


「新型の液体ロケット燃料開発まで、

あのゴミの山から成功させたというのか、桐生……! 

もう駄目だ、

あいつの頭脳には勝てん……我が社は完全に詰んだんだ……!」


 金剛寺は机に突っ伏し、かつてない絶望と敗北感に襲われながら、

ガタガタと震えることしかできなかった。


悪徳デベロッパーの戦意は、

ただのリンゴの泡によって、完全に粉砕されたのである。

 それからさらに数週間が経ち、待ちに待った解禁の夜が訪れた。


 黒谷ベースの縁側。

ドラム缶の炭火の上ではベーコンがジューシーに焼け(第7話)、

アースオーブンの焼きたてパン(第9話)が香ばしい香りを放っている。


 桐生がガラス瓶のコルク栓に手をかけ、一気に引き抜いた。

 ポンッ!!

 小気味よい快音とともに、真っ白な炭酸の霧が吹き出す。

グラスに注がれたシードルは、美しく透き通った黄金色に輝き、

繊細な泡が絶え間なく湧き上がっていた。


「完成です! 

鉄蔵さん、僕たちの最強の自給拠点に――乾杯!」


「おう、乾杯だ!」


 ガチン、と力強くグラスを合わせ、一気に喉へと流し込む。


「――っ、冷えてて最高に美味い! 

フルーティーで、シュワシュワ感がたまりませんね!」


「ガハハ! 

こいつは極上だ! 

そこらの高いシャンパンなんかより、

自分らで作ったタダの酒が一番美味いなぁ!」


 二人は冷えたシードルを片手に、

自分たちの手で電気から娯楽までをすべて生み出した

圧倒的な達成感に酔いしれ、大笑いしながら夜更けまで祝杯を挙げ続けた。


 谷底で、タダのリンゴ酒を最高の笑顔で酌み交わす二人。

 高台のオフィスで、「ロケットのカウントダウンが始まった」と

勝手に戦意を喪失し、完全なパニック状態で真っ白な灰になっている金剛寺たち。


 二人がただ、自分たちの手で最高の気ままな暮らしを楽しんだだけの第1章は、

悪徳デベロッパー側の盛大かつ自滅的な大勘違いと共に、

圧倒的な爽快感をもって幕を閉じるのだった。


物語は、さらなる難民の押し寄せと神話の拡大が待つ、激動の第2章へと突き進んでいく。

第1章完結です!

ただのリンゴ酒がロケット燃料に勘違いされ、金剛寺は完全に戦意喪失。

しかし次回から始まる第2章では、高台の手抜き工事による「本当の崩壊」が始まり、

物語は新たな局面へ!

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