8話 再会、即反省会。
ドアの陰に隠れたテネタスはチラチラとモーズを見ながら肩を揺らしてる。言外に「まだか?」 と聞いてくる態度にモーズは小さく笑ってテネタスの肩に手を置いた。
それを合図に目を輝かせたテネタスがミシオンの元へ飛び出す。
「ひっさしぶりだな! 三週間くらいだっけ? ミシオン、元気してたか?」
「うわっ! テネタス……うん、久しぶり。元気だったよ」
飛び出した勢いのまま首を締める勢いでミシオンの肩に腕を回す。突然の衝撃に驚くミシオンだったが、正体がテネタスだと気付きすぐに顔を綻ばせた。
「会えて嬉しいぜ! あんま心配させんなよ! ほら、モーズ順番こ!」
「順番こ……?」
テネタスに手招かれたモーズが小走りでミシオンの前に立ちその場で両手を広げた。
「ん」
「ああ、はい」
「再会の抱擁を順番こ」
「なるほどね。モーズも久しぶり」
モーズに催促されたミシオンはテネタスの腕から抜け出して彼女をそっと抱き締めた。モーズもミシオンの腰に腕を回す。
反応は三者三様であるが、皆ミシオンとの再会を喜んでくれている。その事実を目の当たりにして僅かに残っていた緊張が解けていく。
「よし。捕まえた」
「え?」
ぎゅっ。急に服が後ろに引っ張られる感覚がして、キリ、と真剣な顔で見上げるモーズがそう呟いた。
「シチア、テネタス」
「任せろ!」
「はい! 私お茶用意してきますね。ジュードさんも同席されますか?」
「いやぁ、遠慮しとくよ。お茶は僕が用意するから、仲直り出来たら呼んでくれる?」
「わ、分かりました! よろしくお願いします!」
「え? え?」
一人状況が飲み込めていないミシオンはテネタスに首根っこを掴まれ、あれよあれよと執務室に連行された。
ジュードはお茶を用意しに出て行ったので、執務室には四人だけ。
二人がけのソファに座らされ、両端をシチアとモーズに挟まれる。向かいのソファにテネタスが座った。
「さて、と」
「あの、これは、どういう状況で?」
「ん? 分かんねぇの?」
「あはは……いやぁ」
足を組んだテネタスが上目遣いで圧をかけてくる。シチアとモーズに腕を掴まれて逃げることもできない。
「俺たちさァ、心配したんだぜ? 腹痛だって言うから仕方なく置いてったのに帰ったらお前がいねぇんだもん」
「あ……それは、勝手に行動したのはごめん。でも、後悔はしてない」
ミシオンの言葉にテネタスは眉をひそめ、両側の腕に絡む力が強くなった。
「……この話し合いはな、反省会も兼ねてんだよ。なんの反省か分かるか?」
「反省会?」
反省会とは、パーティで大きな依頼を受けた時、大きな失敗をした時、新しい戦略を考えた時。それが終わった節目で行うものだ。
この場合の反省会とは?
まったく身に覚えがなくてミシオンは首を傾げる。勝手に行動したことではないだろう。それならまず理由を聞くはずだ。勝手な行動の理由が分からない内は反省会には繋がらない。
「えーと?」
「分かんないか。あの時のゴブリン集団の討伐依頼あったろ。あれ、ミシオンの懸念通りゴブリン軍団に成ってた」
「うん、ジュードさんに聞いた。三人ともお疲れ様。今更だけど何かお祝いする?」
大きな成果を得たあとは何かしらのお祝いをするのも、パーティの約束事だ。
ミシオンの労いにそれぞれ返事をしてテネタスが話を戻す。
「おう! でも、祝いの話はあとでな。俺らが言いたいのは、どうしてゴブリン軍団が発生している可能性があるこの状況で、一人行動を取ったのか。ほら、ミシオンならこの意味分かんだろ?」
イレギュラーの二次被害。
軍団と逸れて行動していた故に討伐を免れた個体による二次被害。集団が大きくなって増長し、森を抜けて町まで躍り出る奴がいる。気ばかり大きくなって、警戒心を落としてきた個体だ。
冒険者にとっては格好の獲物であるが、戦闘能力のない町民や旅人たちにとっては脅威となる。
だから、後処理が終わるまで外出を控えるか、集団行動するか。そのどちらかの動きを取りいつもより周囲を警戒するよう、ギルドからお達しが下るのだ。
その中で、ミシオンは一人行動を取った。
テネタスたちから見たら、命を危険に晒すほど無謀な行動だ。
弁明を図ろうと口を開いて、ミシオンは沈黙を選ぶ。焦りに支配された状態では何を話しても意味がない。真っ青な顔でミシオンは一度落ち着く必要があると判断した。
「ごめん……そこまで頭が回らなかった。僕の落ち度だよ。少なくとも、あの時は皆と離れるべきじゃなかった。次はしない」
気持ちを落ち着けてテネタスを見据えて答えたミシオンに彼は一つ頷いた。
“次はしない”と“頷き”が反省会の終わりのサイン。反省は次の糧にする。同じことを何度も掘り返さない。
「ま、俺らへの信頼が見えたからそんな責めらんねぇけど! だって強いんだから、しょうがないよなァ?」
ニヨニヨと頬を緩ませて締めたテネタスは「じゃ次モーズな!」と言って席を立ち、モーズと入れ替わるように座り直した。モーズのいた場所により大きいテネタスが座って、ミシオンたちは更に身を寄せ合う事になる。
「え? なに? 狭いんだけど!」
「気にすんなって! モーズ大先生のお話だぞ〜!」
「いや、シチアも狭いよね!? テネタスに言ってやってよ!」
「い、いえ、私はこのままでも……」
「シチアもこう言ってんだから、はやく前向けって」
テネタスに顎を掴まれ強制的にモーズの方を向かされる。ミシオンの視線がモーズに移ったのを確認して、架空の眼鏡をクイと上げた彼女は張り切って口を開いた。
「じゃ、ボクの番。約一か月前、君はこう言った。「僕、田舎に帰ろっかな。」って。そこから一週間経って、ミシオンはいなくなった」
「なるほどね……」
随分嫌な役割分担である。
テネタス相手なら何を聞かれてもどうにか有耶無耶にする自信があるが、モーズは難しい。なんせ、彼女は理性の塊だから。そして遠慮がない。なぜなら、ミシオンが幼馴染だから。
「その時の会話から推測するに、スキルがポンコツでレベルも上がらない自分に嫌気がさした。更に止めのシチアの件で衝動的な行動に出てしまった。衝動的だったから、リスクまで考えられなかった。違う?」
「……その通りです」
「でも、ミシオンがボクたちの反対を押し切ってまでそんな行動を取るとは思えなかった。だから絶対に他に原因があるはず……けど、今は見逃してあげる」
(そうだね……最後のきっかけはアイツだから、流石にモーズも分かんないよね)
モーズでも突然スキルが喋るなんてトンデモ展開は流石に予想出来なかったようだ。そのことに残念なような、安心したような。
「ボクが今一番聞きたいのは一つだけ。ミシオンは一人で行動したことを後悔してないって言ったけど、ボクたちと離れたのは後悔してないの?」
「…………」
モーズたちと離れたことを、後悔したのか。ミシオンは失敗だと、間違えたと思ったことはない。それは本当だ。ただ——
「モーズたちが一緒だったらもっと楽しかっただろうな、とは思ったよ」
一人旅の中でずっと考えていた。何度も、彼らのことを思い出していた。ミシオンの生活を豊かにするのにモーズたちは欠かせない。
モーズは顎に手を添えて少し考え込み、満足気に口角を上げた。
「楽しかった。そう……ならいい。ミシオンがボクたちを嫌いになったんじゃないのなら、それでいい。君が物事を複雑に考えるのは昔から。慣れてるから、後悔しないで。君の選択を間違いだったと思わないで。必要な寄り道でしょう」
モーズはミシオンの返事を待たずに「じゃ、シチア。順番こ」と言って、今度はシチアと席を入れ替えた。
まだ、言われたことを噛み切れてないのに。
もう少し、まとめる時間が欲しいのに。
目の前に座り、手を膝に置いて背筋を伸ばしたシチアは待ってくれない。未だに目元が赤いシチアは真剣な顔つきで息を吸った。
「ミシオンは!」
今まで聞いたことがない大きな声で名前を呼ばれて「はい!」と反射で返事する。
「あ、あの……どこに向かうつもりですか?」
「へ? ……えっと、一応故郷に向かってました」
シチアと話す時たまにつられて敬語になる時がある。固く目を瞑っていて目から感情は読めないが、凄く緊張しているのは伝わってきた。
「なら……なら、私も一緒に行きたいです!」
睫毛を震わせて伏せられた瞼をゆっくりと上げ若竹色の瞳が現れる。決意が宿った眼力がミシオンを突き刺す。
それから、ふにゃと相好を崩して。
「えっと。駄目、でしょうか?」




