7話 ミシオンは会いたかった。
パーティの皆と話す。
ジュードの問い掛けはミシオンにとって酷く衝撃的で、パクパクと口を開閉しながらゆっくりと机に突っ伏した。
視界を暗くして耳を塞いで、情報をシャットダウンしなければ。
ジュードは飲み物を口に含み、不安に満ちた表情を隠すようにうつ伏せたミシオンを静かに見守る。この時間がミシオンにとって重要な時間であり、彼が真剣に自分で選ぼうとしていると理解したから。
(あ、会う……会う? 僕が、皆に? どんな顔して??)
落ち着くんだ。
彼らと会うなんて、なんてことない。
元気しているのか確認して、少し話してまた別れればいいんだ。
(僕が居なくても楽しそうだったら……それを見てしまったら僕は)
はたして冷静でいられるだろうか。
ミシオンは無意識に生まれた自分の考えにゾッとする。おかしい。自分は今まで、こんな考え方をしたことがあっただろうか。
『おい、そんな詮無いことを考えてどうする。私は確かに考えろとは言ったが複雑にしろと言った覚えはないぞ。せっかく静かにしてやっていたというのに、これでは台無しではないか』
突然湧いてきた鑑定の言葉に少しだけ思考がクリアになる。そういえば、いつも余計な茶々を入れる鑑定が先日から一言も言葉を発していなかったな。
『今、貴様が考えるべきは一つだけ。会うか、会わないか。もしくは、会いたいか、会いたくないか。それだけだろう』
簡単にしすぎじゃないか。ミシオンは堪えるように両手を握り締めた。ミシオンの言葉だけで簡単に済ませられる話じゃないのだ。
ないけれど——。
「……会い、たい」
「そう。なら会って話をしよう。僕が準備するから安心して。ミシオンくんの気持ちが聞けて嬉しいよ」
(え……?)
ジュードの言葉にミシオンは思わず身体を起こした。もしかして、口に出ていたのか。目を見開いてジュードを凝視するミシオンに彼は安心させるように微笑んだ。
「皆一気に会ってもいいかな? 一人ずつでも構わないけど、順番で喧嘩しそうだよね」
「はい……ジュードさんに、任せます」
自分では何も決められない気がしてそう返事をしたあとに気付く。ああ、全てジュードに押し付ける形になってしまった。
結局ミシオンは、自分の気持ちを見て見ぬふりすることができなかったのだ。
皆に会いたい。
一人で旅をするのは寂しい。
でも、人に背中を押された方が行動しやすいんだな、とミシオンは心の底から実感した。
***
それから、ミシオンはジュードと一緒にリマニへと向かった。自分が担当している町の方が色々と都合がつけやすいから、らしい。
ギルマス特権だと馬車を利用し、三日目にミシオンはリマニに到着した。
外観は昔のまま。記憶の中よりも活気があって賑やかな町並みだ。周囲を観察しながらジュードの後ろをミシオンは静かについていく。
(懐かしいな……)
『懐古しているのか。今から仲間に会うというのに暢気なものだな』
(いや、緊張はしてるんだけどさ……故郷が近い場所って思い出深いんだよ。ちょっとした遠出にピッタリでよく遊びに行ってたから)
故郷を旅立って初めて訪れた町がこのリマニだった。ミシオンにとって始まりの町のようなものだ。
懐かしさに浸ったおかげか幾分か緊張がほぐれた気がする。なにしろ馬車の中では、真っ青な顔でずっと吐き気に襲われていたのだから。
『吐き気は乗り物酔いだろう』
(うるさい!)
鑑定は一言余計である。
そもそも生まれてこの方乗り物なんて乗ったことがないのだから、慣れてないのは仕方ないだろう。
「着いたよ」
ジュードの声でミシオンは前を向いた。鑑定とやり取りしている内に目的地に着いたようだ。見覚えのある年季の入った建物に所々剥げた塗装は昔のままだ。
「ボロいのは相変わらずか……」
「んん〜? 何か言ったかな?」
「いえ、なんでもありません!」
変わらないな、と小さい声でしみじみと呟いたミシオンの発言をジュードは目敏く聞き取ったようだ。お手本のような笑顔でこちらを振り返ったジュードと目が合って、ミシオンはギクリと肩を震わせた。
『ウハハッ! 貴様も余計な一言が多いなあ? スキルは持ち主に似ると言うし、仕方がないと言って慰めてやろうか?』
追い打ちをかけるように自分のスキルが楽しそうな声で詰め寄ってくる。言い返したいが事実であるため、ぬぐぐ……と歯を食いしばってミシオンは耐えた。
「ふふ、見逃してあげよう。じゃあ、中に入ろうか」
「は、はい」
ジュードに促されてミシオンは恐る恐るギルドの中に入る。
見慣れた喧騒に目を細める。
入って早々、バッタリ鉢合わせにならずに済んで少し安心した。テネタス達は奥にあるギルマス専用の部屋、ジュードの執務室にいるらしい。
廊下を進んだ角を曲がり、程なくしてシンプルな構造のドアの前に立つ。
ジュードがノックしようと片手を上げたタイミングで動きを止めた。
「ミシオンくん先に入るかい?」
「……えぇ?」
「だって感動の再会なんだし、部外者は席を外した方が良くない?」
「いや……やっぱり先に行きます」
「どうぞ」
ミシオンの返答に満足気に頷いたジュードが半身を捩って場所を開ける。扉の向こうから微かに話し声が聞こえる。確かにテネタス達がすぐそこにいるんだろう。
なんを話そうか考えながら、ミシオンは覚悟を決めてドアノブに手をかける。
カチャ。
「——え?」
「……ジュードさん? 戻って来られたのなら入って来ればいいのに、立ちっぱなしでどうされたんで……す、か」
ミシオンが扉を開ける前に、目の前のドアが開かれた。ドアを開けた彼女はミシオンを見止めてハッと息を飲む。
状況に理解が追いついていないようだ。
瞬きも忘れて目を見開くシチアに、ミシオンはどうすればいいのか分からず困惑して指で頬をかいた。
さて、ここからの第一声は慎重になる必要がある。
三日経っても、リマニを歩いていても、冒険ギルドに入っても、彼らにかける言葉を何も思い浮かばないまま現在。
やるんだ、と自分に発破をかけたミシオンは片手を上げて口を開いた。
「ひ、久しぶり……シチア。元気だった?」
『ありきたりな、なんの捻りもない第一声だな』
失敗した。鑑定に言われずとも、自分が一番理解している。気の利いた言葉一つ伝えられない自分を心の中で罵りながら、未だ固まっているシチアの様子を伺う。
怒るか、心配か、泣くか。
彼女はどんな反応をするだろう、と恐々とした態度で返事を待つ。
チラとシチアの方を見やると、顔を真っ赤にして眉間に皺を寄せていた。心做しか細めた瞳が潤んでいるのは気のせいか。
そして、中途半端に開いていたドアを乱暴に全開にしてミシオンの胸に飛び込んだ。
「ゔっ」
「もう! ……いったいどこにッ……いいえ。お腹は、もう痛くありませんか? グス……私達は、元気にしてましたよ」
ミシオンが居なくなったことに怒り、ミシオンの腹痛(嘘)を心配し、声を出して一緒に溢れたのかシチアの瞳から大粒の涙がボロボロと流れていく。
「ミシオンが無事で、安心しました。一人で旅するなんて無茶しすぎですよ……!」
「ごめんね。シチア、ごめん。……皆に会いたくて、会いに来ちゃった」
(心配させて、迷惑かけて)
会えた喜びと泣かせてしまった罪悪感に駆られて、ミシオンは目の前で泣き震えるシチアを抱き締めた。最後に見た頭の包帯が取れてる。見る限り傷も残ってないようでミシオンは喜ばしく思った。
「私達も……ずっと、会いたかった」
柔らかな茶髪を撫でれば、流れる涙をそのままにシチアは優しく微笑んだ。
そんな二人を見守るジュード。
話し声が聞こえてドアの隅に隠れて会話の一端を聞いてたテネタスとモーズがいた。犬のリードを引くかのごとく、ミシオンを発見してからソワソワと落ち着きのないテネタスの袖をモーズが引っ張る。
「なぁ、俺たちも行こうぜ」
「だめ。あの感動の再会が見えない?」
「いや、見えてっから行こうって言ってんだけど」
「ミシオンが無事なのは確認した。だから順番こ」
「はあ? あれが落ち着くまで待たなきゃいかねぇのかよ!」
「最初からそう言ってる」
「……ちぇっ」




