6話 ミシオンは選択を問われる。
予想はしていたから、ジュードの言葉にそこまで驚かなかった。
強いていえば態々ミシオンに伝える理由についてくらいだが、それも仲間だったからで納得できる。
ミシオンがいなくても彼らは大丈夫なのだ。
自分から去っておいて、のこのこと戻りたいですと名乗り上げる方が図々しい。
目線だけで続きを促すミシオンにジュードは苦笑する。
「おや、反応が薄いね。この件に関してギルドは体制の強化を測ったんだ。依頼の報酬を上げたり、定期巡回を視野に入れたりね。これも民間人に被害が出てないから出来てることだよ。そうじゃなかったら他の対応に追われてそこまで着手できてない」
ここでのんびり話すこともね、と手に取った水を口につけてジュードは言う。テネタス達のおかげで被害は最小限にすんだと。
その話をミシオンにしていい話なのか聞きたかったが、まず言うべきことがある。
「礼なら直接言ってあげてください。見ての通り、僕は別行動してるので」
「ふぅん、全部テネタスくん達のおかげだから自分は関係ないって?」
ミシオンは言葉に詰まって無言で頷いた。
「イレギュラーが起きた時って、どんな後処理をするか分かるかい?」
「それくらいなら。まず近くの冒険ギルドでギルマスに報告を、それから詳細を報告書にまとめますね。二次被害が起こってはいけないし、今後の対策も必要ですから」
「正解! ミルロのギルドマスターは嘆いていたよ。あんなに読みにくい資料は他にないってね」
大袈裟に額に手を置いてジュードは空を仰いだ。ミルロのギルドマスターについて知ってることは少ないが、ジュードの反応が大袈裟なのは確信した。
「……あいつらは事務作業は得意じゃないですから。でも読みにくいだけで理解できなかった訳じゃないでしょう?」
「そうだね。まあ、報告書の出来はどうだっていいんだよ。事情聴取もしたからね。ミシオンくん」
名前を呼ばれて、ジュードと目が合う。
「君、ゴブリン軍団が生まれてる可能性を彼らに示唆したんだって?」
「えぇ……いや、そんな大層なことはしてません。森の状況と魔物の動きを見て可能性として上げただけです。仲間の命がかかってるんだから、万が一を考えるのは冒険者の基本でしょう?」
違和感を見落とすのは、冒険者として致命的だ。あの日、数日前から感じていた違和感を念の為伝えただけなのだが、それがテネタス達の役に立っていたらしい。
「くく、いや、君の言う通り。不足の事態に備えるのは冒険者の基本だ。だけど、それが万人にできるのか。君はどう思う?」
「僕にできることですよ。観察眼のある人なら十分可能だと思います」
「わあ……ここまで来ると筋金入りだな。君って元からこうだったっけ?」
「? 言ってる意味が分かりません」
「いや、こっちの話だから気にしないで」
笑顔で手を振るジュードをミシオンは訝しむ。沈黙が続きそうなタイミングで軽食が運ばれてきた。とりあえず食べようと、話を中断して食事に集中する間にミシオンは考える。
会話に変なとこでもあっただろうか。いくら考えても、ミシオンには分からなかった。
結果とは、行動がなければ生まれないのだ。
テネタス達が動いたからなんとかなった。
つまり、ミシオンは過程よりも結果に重きを置いているということ。
ミシオンの違和感は時間があれば誰でも思いつくが、ゴブリン軍団の討伐は実力がなければ意味がない。
食事を終えてジュードと再び向き合う。
飲み物の注文して足を組み直す姿を見るに、会話を終わらせてくれる気はないようだ。
「じゃあ話の続きをしようか。ミシオンくんはなんのために冒険者になったんだい?」
「なんのため……」
冒険者になろうと言い出したのは、多分テネタスだ。木の棒を剣に見立てて幼い頃から振り回してたからそこまで不思議に思わなかった。
それから14になって、冒険者に登録して。
最初は旅自体が楽しかった。見るもの全てが新しいし、なにより皆がいたから。
第一の壁は、レベルが上がらなかったこと。
元々運動神経が悪いミシオンにとって何より辛かった。
いつか体力がつく。
いつか力も強くなる。
いつか、レベルが上がりさえすればきっと。
「昔の君はもっと生き生きしていたはずだ。覚えてる? 初めて魔物討伐に挑んだ時のこと。請けた依頼に失敗した時のこと」
「……楽しかったですよ。魔物討伐でシチアが初めて治癒を使えるようになった。薬草採取で僕のスキルのポンコツ具合が露呈した時、皆笑い過ぎて死にそうになりましたから」
皆の成長を感じられるのは、いつだって嬉しいことだった。失敗を笑えたのは、いつか成長すると思っていたからだ。
「出来ない、を出来るに変えることが楽しかったので、ジュードさんにも生き生きして見えたんでしょうね」
昔を思い出して下を向く。
ミシオンはこれといった成長を見せられなかった。ポンコツはポンコツのまま、自分の力不足がどんどん背中にのしかかったのだ。
(なら、今は——)
鑑定が成長して一人になって、レベルが上がった今のミシオンは。出来ないを出来るに変えられたミシオンは今、ジュードにどう見えているんだろう。
「つまらなさそう」
「え?」
突然の言葉に顔を上げると、笑顔の消したジュードが机に肘をついてミシオンに指さした。
「つまらなさそうな顔してる。大人になったから、じゃないよね。見たところ一人で旅出来てるみたいなのに、どうしてそんな顔してるのかな?」
「……そんなにつまらない顔をしてます?」
「質問を質問で返すんじゃないよ。でも、その通りだ。そんなミシオンくんに一つ提案があるんだけど」
「なんですか?」
「一度、パーティの皆と会って話さない?」
「…………はい?」
***
ジュードから見たミシオン達は幼いが元気でやる気に満ち溢れた駆け出し冒険者だった。
ジュード自身ギルド職員としてまだ新米であったが、それでも心配になるほどあのパーティはそそっかしいと記憶している。
良い子達なのは見て分かったから、彼らの世話を苦に思ったことはない。
だから、テネタス達から急に連絡を貰った時も快く引き受けたのだ。
『ミシオンがいなくなった!』
そう聞かされた時、ジュードがどれほど驚いたか。シチアはボロ泣き、テネタスも鼻をすすっていた。出会った頃から冷静なモーズも取り乱していたのだから。
彼らを落ち着かせて話を聞けば、ゴブリン軍団の討伐から帰ったら、あと数日分の宿代を支払われた状態で部屋がもぬけの殻であったらしい。
慌てて探そうにも、後始末に追われて気付けば一週間経っていた。
これからどう探せばいいのか。
途中で話が脱線しながらも、なんとか聞き出せた内容だ。
彼らに先輩風を吹かせていたジュードは当然自分に任せろと宣言した。
そんなに移動してないだろう、と当たりをつけたジュードは己の権限をフルに使ってミシオンを見つけ、さりげなく声をかけて話をしたのだが……ジュードの予想以上にネガティブ思考に陥ってるように見えた。
ミシオンは自分で気付いているだろうか。
最初の再会以降、一度も笑顔を見せていないことを。
ジュードは悩んだ。
このままミシオンをパーティに戻れと説得するべきか。
今のテネタス達の様子を伝えればミシオンは必ず戻るだろう。結局のところ、ミシオンは仲間が大好きだから。
でも、それがミシオンの為になるかどうかは、ジュードには判断出来なかった。仮に無理矢理連れ戻したとして、根本が解決しなければ同じことの繰り返しになる。
ミシオンは自分が思っている以上に頑固な人間だ。その頑固さが良くない方向に発揮している気がする。
彼の頑固さは、仲間の前だと途端緩くなるのをジュードは知っている。だから、ジュードのやるべき事は決まった。
「一度パーティの皆と会って話さない?」
これは譲歩だ。
無理矢理は好きじゃないし、両者のためにもならないから。
ただ、簡単に逃がしてもやらない。
チャンスは平等に与えなくては。
絶対にないと思うが、もしミシオンが無理強いされそうならジュードが間に入る。
だから、今回はミシオンの方が折れてくれよ、とジュードは笑顔に隠れて切に願った。




