10話 再出発。
「ミシオンくん! ちょっとこれに触ってみてくれない?」
「ええ……?」
突然なんなんだ。とミシオンは只々困惑していた。意気揚々と口角を吊り上げたアリシアによってテーブルに広げられたもの。
和やかな空気を破るようにゴトッとゴツイ音を立てて置かれたのは、ステータスを鑑定できる水晶であった。
「いいから!」
「はあ」
アリシアの勢いに押されてミシオンは水晶の上に手を置く。数秒で水晶が淡く光って、水晶の上に長方形の画面が表示された。
【名前:ミシオン Lv:5 スキル:鑑定】
「は!? ミシオン、お前レベル上がってんじゃん!」
「ほ、本当ですか!? はわ、ミシオン凄いですね!」
「いつの間に……ミシオンの一人旅は、それほど重要だった?」
シチアとテネタスが驚きながら喜び、モーズは少し目を見張って思考に耽り出した。
そういえば、ミシオンの成長を伝え忘れていた。
いや、状況的に伝える暇がなかっただけなのだが。ミシオン自身も驚いた記憶があるので、三人の反応も甘んじて受け取ることにする。
「……あれぇ?」
喜ぶ若者たちを置いて、アリシアは鑑定結果を見て首を傾げる。腑に落ちない、という思いがありありと顔に出ていた。
アリシアの反応に目敏く気付いたジュードが眉を寄せて彼女の隣に立つ。
「どうかした?」
「んん……確証ないから言いたくない」
「でも、気になったんだろう?」
「そう。気になったから確かめた、んだけど」
「予想と違った?」
「うん。そして疑問が増えたの」
「……増えた?」
アリシアに手を引かれ、ジュードはミシオンたちから距離を取る。どうやら、あまり聞かれたくない話のようだ。
シチアたちに揉みくちゃにされているミシオンを見て、アリシアはジュードを見上げた。
「ジュード」
「はいはい」
アリシアに名前を呼ばれて、ジュードは二人の周りに防音魔法をかける。ジュードはどうでしょう、と問い掛けるように少し腰を曲げて胸に手を置いた。
「ありがとう。ジュード、私は誰?」
「君はアリシア。僕の奥さんだよ」
間髪入れず返事をしたジュードに満足気に頷いたアリシアは、長い金髪を耳にかける。
人より長く、尖った耳が現れ空気に触れた。
「そうよ。私はアリシア。貴方の奥さんでエルフのアリシア。そして、精霊術士でもあるわ」
す、と目を細めたアリシアがミシオンの姿をしかと確認する。
「精霊術士として断言します。彼は、ミシオンくんは闇の精霊の加護を持っている。正確には、加護のような何かを」
「……! なるほどね」
「理解が早くて嬉しいわ」
アリシアの言いたいことを理解したジュードは驚きつつも納得した。
精霊。
様々な属性を扱い、気ままに人に加護を授ける存在。才能のある人物はアリシアのように「精霊術士」として精霊そのものの力を借りることが出来る。
加護というは、本当に精霊の気まぐれなのだ。
加護を授かれば、その属性に対する恩恵を受けられる。
「火」ならば、火魔法が強く。
「水」ならば、水魔法が強く。
「風」ならば、風魔法が強く。
欠点を挙げるとすれば、その精霊の気性に影響されること。
「火」ならば、熱血で荒々しい。
「水」ならば、穏やかにのんびりと。
「風」ならば、自由奔放に。
そして、「闇」の精霊は負の感情が増幅される傾向にある。
「ミシオンくんのネガティブ思考に精霊が影響を与えたと思ったわけだ」
「ええ。それに、はっきり視えたわ。闇の精霊の気配がミシオンくんから感じる。ただね〜鑑定結果には出なかった」
アリシアが額に手を当てて悩ましげに目を閉じた。
「それが増えた疑問かぁ。加護なら「加護」の欄が出るからね。なら、君が感じた“気配”はなんなのか。それが分からないから、アリシアは言いたくなかったんだ」
「そうなのよ。精霊について分かることなんてエルフだって少ないの。なんでか分かる?」
「精霊は自由で気ままで傲慢だから、だよね」
ジュードの答えにアリシアは頷く。
「正解! 鑑定結果がある以上、この事をあの子たちに伝えるのは不毛だと私は考えました! ジュードはどう思う?」
「君の意見に同意しよう。なにより、闇の精霊の影響をシチアくんが打ち消しているように見えるからね」
「あら、よく分かったわね。シチアちゃんは光の精霊の加護を授かってる。……「光」の加護を持ってるのに、どうしてあんなにオドオドしているのか分からないけど」
「そりゃあ、影響ってそんなものだろう?」
「まあ、そうね」
肩をすくめるジュードにアリシアは笑みを浮かべる。
ミシオンたちに視線をやれば、彼らが一様にこちらを見ていた。無邪気な視線にアリシアとジュードは互いに目を合わせて吹き出す。
「僕らの様子が気になるみたいだ」
「防音までしたんだから当然よね。早く戻りましょ!」
「うん」
ジュードは防音魔法を解いて、アリシアと共にミシオンたちの傍に戻って行った。
***
「何話してたの。防音魔法まで使って……怪しい」
手を繋いで戻ってきた二人にモーズが問い詰める。ミシオンもいつの間にか離れた位置で話しているのは確かに気になった。
ジュードが気まずそうに頭をかいた。
「いやあ、若者の邪魔をするのは無粋だと思ってね。僕らは空気に徹したのさ」
「ふーん。ま、ボクらの不利益にならないならいいけど」
「モ、モーズ! もっと言い方があるでしょう!」
「シチアちゃん、気にしないで〜。モーズちゃんの言い分も最もだし?」
アリシアの言葉にシチアは胸を撫で下ろす。それから、ジュードはミシオンの頭に手を置いた。
「どうしたいか、決められた?」
「——はい」
くしゃり、と頭を撫でられながらミシオンは万感の想いを込めて肯定する。その表情は晴れており、スッキリとしていた。
しんみりとした雰囲気が漂ったところで、テネタスから横槍が入った。
「皆で話して、一回里帰りするかって話になったんですよ〜! もう何年も帰ってないし、この機会にこれまでの旅の報告しに戻るのも悪くないよなって!」
「いいね、楽しんでおいで。いいかい? これからも話し合いを怠ってはいけないよ」
「はい。ジュードさんもアリシアさんもありがとうございました」
二人の助けがなければ、ミシオンはいつまでも行動出来なかっただろう。背中を押してくれて、発破をかけてくれて、ようやく一歩を踏み出せた。
それから、ジュードたちと別れたミシオンは三人と話をして——数日後にリマニから出発した。
「忘れ物は?」
「ないぜ!」
「路銀も、大丈夫だよね?」
「はい! 管理は私にお任せ下さい」
「道中はモーズお願いね」
「うん。ボクに任せて」
冒険には事前準備が大事である。
見知った道を行くとしても変わりはない。それが終わったらテネタスを先頭に旅をする。
「てかさァ、ミシオンのレベル問題が解決したんならもっと積極的に依頼受けてもいいんじゃね?」
「えっ、いいけど……僕まだ戦闘では役に立てないよ?」
「経験は大事」
「か、回復は任せて下さいね!」
「ああ、皆やる気なんだね」
皆がそう言うならミシオンもやってみよう。皆と一緒ならなんでも出来る自信がある。なにより——
(……お前は、僕の選択に満足したか?)
『ほう。私のことを忘れたのかと思っていたぞ』
(なんだよその言い方……もしかして拗ねてるのか?)
確かに話し合いが終わっても鑑定に話しかけなかったが、ずっと一緒にいたんだから全部知ってるだろう。
『拗ねてるわけがないだろう! 自分で見聞きしていることと、貴様から聞くのはまた別だというのに。分からぬたわけが……ふん』
(あ、そう。で、満足したの?)
『ああ、貴様が選んだ選択に不満を持つはずがない。褒めてやろうか?』
(要らねーやい)
いつか、鑑定のことも皆に話せたらいいな。
最初は驚くだろうけど最後は笑って受け入れてくれるはずだ。
話し合おう。会話で交流しよう。
自分の行動を理解してくれると決めつけて動くのは身勝手だから。
ミシオンは“今”仲間たちと共にいることを選んだ。
断言出来る。
ミシオンはその選択を後悔することは絶対にないと!
〜完〜
これにて完結になります。
後日オマケを投稿する予定なのでそちらも良ければ。
なろうの仕組みを知る為のお試し投稿だったんですけど、思いの外読んでくださる方がいて嬉しかったです!
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。




