オマケ 精霊は自由で気ままで傲慢である。
ほんの少しだけ、過去のお話。
とある闇の精霊が、とある少年を気に入ったお話。
気に入った人間に“加護”を授ける。
相手が望もうが嫌がろうが関係ない。
全てが精霊の気分次第であり、一方的な関係であった。
闇の精霊も、例に漏れず「気に入った」の一言で少年に“加護”を授けようとした。
理由なんて覚えていない。
過去を振り返らないのが精霊の性質だ。
「——なぜだ!?」
闇の精霊は目の前で起こったことが理解出来ずに髪を振り回して叫んだ。
「どうされたんです?」
他の精霊が闇の精霊に問い掛ける。
「“加護”を授けられない! どうなっているんだ!?」
「ああ、偶にいますよ。そういう人間が。受け取る才能がないんでしようね。諦めたらどうです?」
才能がない?
そんなことで自分の行動を妨げられていいのか?
いいわけがない!
他の精霊は他人事だからそう言えるのだ。
精霊にとって“加護”とはマーキングのようなもの。気まぐれな精霊であるからこそ、常に一箇所に留まらない精霊だからこそ!
お気に入りへの“加護”は必須なのだ。
でなければ、見失った時にどうやって見つければいい?
人間も一箇所に留まる生き物ではない。そういう人間もいるにはいるのだろうが、あの少年がそうかどうか闇の精霊に判別できない。
諦めない。
絶対に。
決断した闇の精霊の行動は早かった。
「……なにをしてるんですか?」
「アレに“加護”を授けようとしている」
「いや、無理ですって。彼には器がない。そんなに執着するなんて、貴方は本当に精霊らしいお方だ」
「ふん」
褒められた気がしないが、他の精霊の言葉を一応受け取っておく。
試行錯誤している最中に他の精霊の発言を思い返す。
少年には器がない。
ならば、器を用意してやればいい。
名案だと闇の精霊は高笑いして、しばらく少年を眺めた。
身体を傷付ける趣味はない。
そうだ。少年のスキルを弄ろう。
でも、そんなことをしたら少年にどう影響するか分からない。
闇の精霊はあくまであの少年を気に入ったのだ。それが損なわれるのは本意ではない。
ここで止まらないのが、闇の精霊だった。
普通の精霊は渋々諦めて、次の瞬間には忘れてしまう。
だが他の精霊が言っていたように、闇の精霊は普通よりも執着心が強かった。
「そうだ。私がついて行ってやろう」
精霊は一箇所に留まる生き物ではない。
しかし、この瞬間——闇の精霊の執着は、精霊の性質を上回ったのだ。
「——貴方は一体、何をしているんですか!?」
「む? “身体”を捨てた。アレの傍にいるのに邪魔だったからな」
「な! 自分が何をしでかしているのか理解しているんですか!? 執着の果てが消滅とでも!?」
「たわけ。そんなわけないだろう。器ならある」
闇の精霊が少年に指を向ける。
闇の精霊の言動に動揺して、他の精霊の呼吸が震えた。
「それは、精霊の域を超えています! 人の子を乗っ取ろうなどッ——」
「乗っ取る? 何を世迷言を」
器は別にある。
他の精霊の静止を無視して、闇の精霊は少年の元へ飛び出していった。
精霊は自由で気ままで傲慢である。
自由であるから、行動を制限されない。
気ままであるから、後先考えて躊躇わない。
傲慢であるから、他人の意思を尊重しない。
闇の精霊を視認出来なくなった他の精霊が少年を見てため息をつく。その少年には、べったりと“闇”の気配がまとわりついていた。
「厄介なお方に気にいられたものだ。彼は将来苦労するだろうな」
闇の精霊の行動が少年へどのような影響を与えるから誰にも分からない。
分からないが、説得していた他の精霊も精霊であるから——既に忘れてこの地を去ったのであった。
闇の精霊は終始自分の欲望に忠実でした。
躊躇のブレーキが通常よりもぶっ壊れてるんですよね。
躊躇わないし、後悔しない。のが理想ですけど、現実はなかなか難しい。




