視線の正体
「お前は異類…?!うっ…痛…!」
「騒ぐな。ワシは下にある村の酒屋から使いとしてきた。危害は加えない」
慌てた神主を宥め、横にハノキを降ろす。彼は苦しみながらも少女に気づき、さらに怯えた。
「なぜ、お前が生きているんだ…!社殿が崩れて消えたはず…なぜ」
「ハノキ様は助けられた。誰かに」
「はのき…まさか…」
「ああ、もう!落ち着け!何があったのかワシに説明してくれんか?まずは邪魔になっている物をどかしてやるから」
「わ、分かった。助けてくれ」
体にのしかかる瓦礫を手当り次第にどかし、ウズノフミは神主を引きずり出した。無惨な姿になってはいるがまだ息はある。
担いで外灯の下まで連れて行くと、安心したのか彼は息を吐いた。
「異類に感謝する日がくるとはな…。はあ、とりあえず酒屋の親父に電話したい所だが…今はあんたに約束通り状況を話そう」
──硝子村は十年に一度、土着信仰の山神にお神酒や供物をお供えし祭祀を行うしきたりがある。そして村で決めた子供を社殿に一晩神に預け、遊び相手にさせる。その間、村民は一晩中起きて物忌みをする。
それだけの小さな祭りだった。
遊ばせる子供の条件には七歳になる前の幼子だけであるが、今年は少し違った。皆は時代背景もあるのか、神へのありがたみを感じにくくなり、親たちは役の押し付け合いになった。
そこで村で唯一の孤児である…気味悪がられ村八分にされた家の娘にと、強制的に決めて天童となる『お稚児さん』として捧げたのだ。
「その子は村から阻害されているのに大変素直で、常に笑っていた。何を言っても疑わずただ笑っているだけだったから余計に不気味がられていたんだよ」
十年前のように無事物忌みが終わるかと思っていたが、いきなり轟音が響き土砂崩れが起きたと見張り役の一人が神主に報告してきた。他の人は土砂と共に落ちていった、と。どういう事だと混乱していると至る所から地響きがする。
外に出ようとした二人も下敷きになり、神主はずっと助けを呼んでいたのだという。
「物忌みが仇になったんだろう。皆、屋内に居たがために下敷きになっちまった…。ああ…解き放たれてしまったかぁ…」
「なんだって?」
「随分昔にな。災いを起こす神である歯九様の心臓となる部位と身体を木箱に分け、社殿と山自体に…まあ、言っちゃあ悪いが封印したんだ。それが社殿ごと流されたんだ。二つとも封印が解けてる。はあ…お前は…」
「そうか。その娘がハノキ様と呼んだのか」
ハノキが神主をジッとみやり、こちらを見た。
「どうやら本当にハノキだったようだ」
「良かったじゃないか。謎が解けたな。じゃあ、ワシは──」
おいとましよう、と口にしようとした瞬間。神主の頭が消えた。血を噴き出してドサリと地面に倒れる。
「ヒギャアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
ヌラリ、と霧から五階くらいあろうか、巨大な白い犬らしき生き物が現れ、雑に頭部を咀嚼する。まるで透明から変幻したかのように。
血が飛び散り、周りを汚す。
「ずっと見ていたのはウヌだったか」
ハノキは大惨事にも関わらず、普通に山犬へ話しかけた。
「あ、あああ…ワシは逃げる!耐えられねえ!やってられっかちくしょう!」




