ビビるウズノフミ
集落は首都より栄えてはいないが、一応店などはあった。どうやら古くから宿場町のようだ。ウズノフミはハノキを抱えたまま、営業している大きな酒屋に入店する。
久々の照明器具の明かりにホッとして、店内にいた男に話しかけた。
「すまない。危うい事がありショウシ村の他に集落があるのを見つけて、ここに来た」
「ひ、お前!異類かっ?」
「うむ。今は理由があり何もしない。緊急で状況を知りたいのじゃ」
店主と思わしき男は目を白黒させ、しばし迷っていたが弱々しくため息をついた。
「なら、その子は硝子村のお稚児さんかい?儀式が失敗したのか…そうかあ…」
「儀式?コイツも硝子村の者なのだな?」
「ああ。何度か硝子村に行ってね。お神酒を届ける際にお稚児さんを見た事がある。まー、儀式っても禍々しいモンじゃねえよ。ただ社に供物やらをお供えして一晩子供を神様に預けるだけだ」
はー、と彼は何か納得した様子を見せる。
「何じゃその反応は」
「硝子村からとんと連絡が途絶えたから何かあったんだと疑ってたんだが。神様のお怒りに触れちゃあねえ」
神様のお怒り。
村民であるはずのハノキは興味なさげに指で遊んでおり、硝子村の安否に対して反応もしていない。記憶喪失のせいだろうか?
「アンタ。他の奴には言わねえからさ。お神酒をもう一度お供えに言って、この篠村には危害を加えないでください、とお願いしてくれないかい?」
「はあ…」
「今年は神々がお怒りになっていてな。他の村では梅雨に酷い目にあったと聞く。やはり土地開発のせいでよ。そんだと硝子村の神様は特におっかねえからさ…」
椅子に座った男はレジの脇から木札と念珠を取り出してきた。木札には摩訶不思議な呪紋様──聖なる呪力が込められた特別な朱墨で塗られた紋様──が掘られ、念珠は血で赤黒く錆びているようにも見える。
仕方なく受け取ると、木札の呪紋様の怪鳥に似た姿絵を眺めた。
「結界像の一つ目の道祖神がある。それが村への入口だ。川があるからそれを辿っていくとな、硝子村がある。どうなってるかは定かではないが。社に着いたら念珠をもみながらこう唱えてくれ」
──霧岩大権現、恠鴟様。歯九様。わたくし長きに渡りお神酒を奉納してきた篠村の酒屋と申します。今回は訳ありお使いをよこしました。
地の恵もたらす霧岩の神よ。大雲の霧羅大明神のお子よ。敬い奉る。わが村に災いもたらすなかれ。五年に一度お神酒を与えまする。お許しくだされ。大雲の霧羅大明神に誓います。
(ハノキ…歯九様、まさか、コヤツ…)
担いでいるのはまさに災害を起こした神とやらなのではないか。ゾクリとして今すぐ逃げ出したくなる。
「山に入ると異類や霧岩大権現様がお怒りになるが、その木札があれば大丈夫だ。それは霧岩大権現様が大層お気に入りになられた透玻璃木つう御神木の一部でね。木だと思って手を出してこないのさ」
「い、いや」
「逃げんなよ?逃げたら村総出でてめぇを捕まえて、調伏してから袋叩きにしてやるからな」




