視線
「ショウシ村の他に集落はないのか?そしたら地理が分かるかもしれん」
あの会話が真実なのかは判別できないが、他に集落があるはずである。なにせ建物があるのだから。
人は必ずいるはずだ。
「知らない。あけ」
(あけ、ってなんじゃあ!あけって!ぐぎぎ…雑な扱いしやがって)
缶ジュースを渡され仕方なく開けると、中からアマガエルに似た不気味な蛙がたくさんでてきた。異形の蛙たちはギギギッと鳴くや、霧に消えていく。
「ヒッ…」
「あれはなんだ。ゴミクズ」
蛙たちを指さし、子供はこちらを見た。
「あ、異類や人間を害する塊よ。兇衰と呼ばれておる…な、なぜ…瘴気のない所に…」
「へええ。確かに何かにずっと見られてる感じがしていた」
「なァ?!早く言えぃ!」
「ジーッと、何かがこちらを見ているぞ」
「やめろ!怖くなるじゃろ」
「既に怖がっているではないか」
ウズノフミはどこに視線の主がいるかを探るが、濃霧で影すら目視できない。真っ白な世界で二人だけ。
怪鳥の囀りのみが響き渡る。
「挑発するのを待ってる」
今まさにしようとしたが、必死に抑え後ずさる。
「逃げよう。集落を探すのじゃ」
地面は先程までアスファルトだったが、今は砂利になっていた。幻術を使われたのか?そんな強力な術を使える者など現代にいると思えない。
仕方なく四つん這いになり、手探りで周囲を確かめてみる。
「どうした?虫のフリ?」
「あっちに獣道がある。獣の臭いがしとる。人間の臭いもする。きっと狩猟から帰っていったヤツのだ」
「…ゴミクズはすごい嗅覚を持ってる」
「当たり前じゃろ。何度死にそうになったか!」
立ち上がり、早歩きで獣道の方向へ進む。するとあの建物は小規模な崖に建っていたらしく、なだらかに人の手で作られた道が下へ続いていた。
「ハノキ。まだヤツは見ているか?」
「うん」
「何者か分かるか?」
「でかい気配で、何かおかしな感じがする。ゴミクズとは違う気配もする」
(異類ではないと言いたいのか?)
仕方なくハノキを抱き上げ、道を下っていくと川があった。せせらぎが霧の中で聞こえてくる。
川べりにやってくるとコンクリート製の橋があるのが見え、焦る気持ちを抑えつつ渡る。走ってはいけない。風が吹き、湿った空気が皮膚や髪を撫でていき悪寒がした。
しかし向こう岸に着く前になるといきなり霧が薄まり、若干視界が鮮明になる。ぽつりぽつりと民家がある寂しげな集落があった。
「守域に入ったようじゃ。良かった」
「守域?」
「人が名付けている透明の防壁のようなものだ。人が編み出した数少ない魔術でな」
首域ともいう。生贄に選んだ人の首を使い強力な結界を作る。異類から身を守るために昔、呪術に詳しい誰かが編み出した強力な防壁だった。
「なるほど。視線も消えた」
「はあ…恐ろしかった。ソヤツ、異類のくせに魔術を行使する輩を従えていたのかのう。おぞましい」




