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箱入り娘は鎖を噛みちぎる ~邪神と小物の霊験説話~  作者: 犬冠 雲映子
記憶喪失の邪神・ハノキとの出会い
4/8

視線

「ショウシ村の他に集落はないのか?そしたら地理が分かるかもしれん」

 あの会話が真実なのかは判別できないが、他に集落があるはずである。なにせ建物があるのだから。

 人は必ずいるはずだ。

「知らない。あけ」


(あけ、ってなんじゃあ!あけって!ぐぎぎ…雑な扱いしやがって)


 缶ジュースを渡され仕方なく開けると、中からアマガエルに似た不気味な蛙がたくさんでてきた。異形の蛙たちはギギギッと鳴くや、霧に消えていく。

「ヒッ…」

「あれはなんだ。ゴミクズ」

 蛙たちを指さし、子供はこちらを見た。

「あ、異類や人間を害する塊よ。兇衰(きょうし)と呼ばれておる…な、なぜ…瘴気のない所に…」

「へええ。確かに何かにずっと見られてる感じがしていた」

「なァ?!早く言えぃ!」

「ジーッと、何かがこちらを見ているぞ」

「やめろ!怖くなるじゃろ」

「既に怖がっているではないか」


 ウズノフミはどこに視線の主がいるかを探るが、濃霧で影すら目視できない。真っ白な世界で二人だけ。

 怪鳥の囀(さえず)りのみが響き渡る。

「挑発するのを待ってる」

 今まさにしようとしたが、必死に抑え後ずさる。

「逃げよう。集落を探すのじゃ」


 地面は先程までアスファルトだったが、今は砂利になっていた。幻術を使われたのか?そんな強力な術を使える者など現代にいると思えない。

 仕方なく四つん這いになり、手探りで周囲を確かめてみる。

「どうした?虫のフリ?」

「あっちに獣道がある。獣の臭いがしとる。人間の臭いもする。きっと狩猟から帰っていったヤツのだ」

「…ゴミクズはすごい嗅覚を持ってる」


「当たり前じゃろ。何度死にそうになったか!」

 立ち上がり、早歩きで獣道の方向へ進む。するとあの建物は小規模な崖に建っていたらしく、なだらかに人の手で作られた道が下へ続いていた。


「ハノキ。まだヤツは見ているか?」

「うん」

「何者か分かるか?」

「でかい気配で、何かおかしな感じがする。ゴミクズとは違う気配もする」


(異類ではないと言いたいのか?)


 仕方なくハノキを抱き上げ、道を下っていくと川があった。せせらぎが霧の中で聞こえてくる。

 川べりにやってくるとコンクリート製の橋があるのが見え、焦る気持ちを抑えつつ渡る。走ってはいけない。風が吹き、湿った空気が皮膚や髪を撫でていき悪寒がした。

 しかし向こう岸に着く前になるといきなり霧が薄まり、若干視界が鮮明になる。ぽつりぽつりと民家がある寂しげな集落があった。

「守域(しゅいき)に入ったようじゃ。良かった」

「守域?」

「人が名付けている透明の防壁のようなものだ。人が編み出した数少ない魔術でな」


 首域ともいう。生贄に選んだ人の首を使い強力な結界を作る。異類から身を守るために昔、呪術に詳しい誰かが編み出した強力な防壁だった。


「なるほど。視線も消えた」

「はあ…恐ろしかった。ソヤツ、異類のくせに魔術を行使する輩を従えていたのかのう。おぞましい」

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