人外がホラー体験をするなんて
月山県月市子町。南大肩泣山系、良摺山付近──
古びたパンフレットを見てウズノフミは首を傾げた。
瞬間移動したかのような事態に陥っている。隣の隣にある県まで短時間でたどり着いてしまったのだ。
そんな事ありえない。確かに国の技術は発展し、首都に限定されるが生活の水準も上がってきていると聞く。しかし問題は移動手段である。何せ道の開発が山に住まう異類たちや地元民たちの反感をかい、進まないのである。それはそうだ。
自然を破壊し土地を削り、または山に大層な穴を開ける。
これまで大切にしてきた者が壊されるのは、その土地に暮らしてきた両者からしたら何たる異変か。
自らは首都から徒歩で高山という霊験のある妖累──人間で言う神霊が坐低山を抜け、隣の県へやっと侵入できたはずだった。県境には高濃度の瘴気のため都が設けたバリケード封鎖がされており、侵入を禁ずる監視の目も厳しかった。
それを何とかすり抜け、あの荒廃した国道を歩いていたのだ。
国道を作る際に山を収めていた妖累の怒りに触れ、瘴気まみれになったという話だが…。真相は不明だ。
(そもそもあのトラック運転手。どうやって走ってきたんだ…?)
まるでごく普通に走行してきたかのように、ウズノフミの隣に停車してきた。普通、あれほどの瘴気に触れればトラックの車体すら故障する。なのに。
(怖くなってきた…考えるのはよそう)
ウズノフミはまだ鮮明に覚えている運転手の人相をかき消そうと、自動販売機からお子様が好きそうなジュースを取り出す。
「ほれ」
「これは?」
「ジュースじゃ。甘い味がする」
「甘味?珍しい」
(認識が江戸時代で止まっておるのか?)
「──ねえ、知ってる?一週間前、都と雅味県の県境を走行していたトラックが横転して大変だったみたい。あの瘴気まみれの…」
「あー、あれか。ニュースになっとったな」
「何でも政府の大切な荷を積んでいたとか」
他の人間たちが休憩室で噂話をしている。いつの間にやって来たのだろう?ふとみやると、先程まで井戸端会議をしていた老女たちが忽然と姿を消していた。
(…。嫌な所に来てしまったようじゃ)
「………様のお怒りに触れるからよ」
「俺らの大雲の霧羅大明神様にまで手ぇ出したらそりゃアもう」
「あぁ、怖い怖い」
大雲の霧羅大明神。それがこの地を支配する『神様』なのだろうか?
「のう。ハノキ。外でゆっくりせんか?」
「ん?何故だ?」
「この建物は何かおかしい…あの人間たち、普通じゃない」
チラリと休憩室へ視線を移すと、やはり会話していた人間らは消えていた。たむろしていた人に化けた異類たちもいない。
無人の廃墟化した建物の内装が、広がっているだけであった。
「…ゴミクズ。お前、高度な幻術が使えるのか?」
「いや。まさか。ワシは…魔術にそんな博識じゃない」




