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箱入り娘は鎖を噛みちぎる ~邪神と小物の霊験説話~  作者: 犬冠 雲映子
記憶喪失の邪神・ハノキとの出会い
2/8

ハノキという変な子供

 山の獣道を大きくしたような荒々しい国道を走り、手掘りの長いトンネルをくぐるや、空気が一変した。

 あれだけ荒んでいた瘴気まみれの世界は濃霧に包まれた静寂へ──噂の地にたどり着いたと内心確信する。

 運転手は詮索もせず、道の駅に停車し下ろしてくれた。理由も聞かなかったが、彼はこの先にある西の方へ行くという。

 人には黙っておきたい事情がある。彼もそうだったのだろう。


「ここはさっきよりかは安全だけどな。気をつけな。異類まみれだ」

「ありがとう」

 トラックを見送り、ため息をつくと鄙びた休憩室を見やる。


 異類。

 人では無い化け物は、異類、マカンムリと呼ばれている。

 現代では『異類(あだに)』が公用語として使われている。

 ある時までは精霊や神と同じ分類だったが、新種が発見され、世界が一変した。

 人間より上位の捕食的存在であり、生活を脅かし立ち向かえない超自然的な力を持つ。伝承とは異なり確実に存在しているため、人間の生活圏は狭い──


 ウズノフミは濃霧で見えずらい視界から、同類を探す。人に化けて生活している輩もたくさんいる。

 その方が生活面で動きやすかったりするのだ。


(まあ、人より異類の方が多いな。しっかし寂れておる)


 休憩室には数人がいるだけ。他は自動販売機や雑に置かれたゲーム機。道の駅というよりはドライブインだ。

 三組の老人が何やら話し込んで、深刻そうな顔をしていた。彼らは人間だった。


「大金障(おおかねざわ)山の硝子木村、土砂崩れで大半が死んだそうよ」

「嫌ねだえ」

「雨なんて降ってないのに怖いわあ」


(土砂崩れ…?)


「大金障山の硝子木村、土砂崩れで大半が死んだそうよ…硝子木村、土砂崩れ…硝子木村、」

 どこからか小声で復唱が聴こえる。ウズノフミは悪寒が走り、嫌な予感に逃げようとした。


 外のゴミ箱から子供がこちらを見ている。それもお稚児の格好をした場違いな子供であった。

「大半が死んだ…大半が死んだ」

「ヒッ」

 こちらを見つめながら、ブツクサしている。関わらない方が良いだろう。


「そこのゴミクズ。ハ(・)ノ(・)キ(・)様(・)が見えるのか」

「な、なんじゃお前」

「血の匂いがする。怪我をしている」

「まあな。縫えば何とかなるだろうよ。たいした傷じゃあない」

「治してやる」

 そう言われ、辺りを見回した。異常な子供を誰も気にしていない。もしや自分以外見えてないのかもしれない。

「困ったのう」

「治してやる。ほら」

 仕方なく近寄ると、いきなりビョンと腕にかぶりついてきた。


「ぎゃあああ!いってえ!何すんだ!?」


「傷をなめた。痛みはなくなるだろう」

「…そ、そうか。取り乱してすまなかったな。ハノ…?にはそのような力があるんじゃな」

「皮膚が壊死して痛みが無くなるだけだ」

「は?!」

「ハノキ様」

 ハノキ様と名乗ったお稚児はジイッとこちらを見あげてきた。瞳の色は人外の金色だった。


 ハノキと名乗った子供はこちらがよほど興味深いのか、ジロジロと観察している。様々な角度から眺めると何か納得している。

「腕の壊死の呪いはどうやって治せる?」

「ハノキ様をお父さんに会わせてくれたのなら治してやろう」


(お父さん?親がいるのか。人間とのハーフ?)


「それしかハノキ様には分からない。何も覚えていない」

「ふうむ。それは記憶喪失なるものじゃな」

 異類が記憶喪失になるのはあまり耳にした事がないが、都会にいてそんなドラマがやっていた。


「記憶喪失?何かの病?」

「そんなものだ」

「困る。どうすれば治る?」

 子供はムッとして、ウズノフミへガンを飛ばした。厄介な者に捕まったとため息をつくと、周りを見回した。

「自分が懐かしいと思ったモノを探っていく、そうすれば思い出せる。そんな内容だったはずじゃ」

「懐かしい…霧、この霧が懐かしい」

 真っ白な濃霧を掴むように少女は手を伸ばす。


「ならハノキはこの地の出身のようじゃな」

「なるほど。ここが故郷…」

 それを耳にしたウズノフミは内心、ザワザワと感情が逆だった。故郷。あまり良い思い出がない。

 はるか昔の忘れようにも鮮烈な記憶。

 異類たちも人間たちも今は故郷に見向きもしない。世が成長する真っ只中で目の前の物事をこなしていく。


「ゴミクズ。名前は何という?」

「なんたる悪口を。ワシはウズノフミ。人間嫌いのウズノフミだ」

「うず、…?まあよい。ゴミクズ。お腹がすいた。ご飯を用意せよ」

「はぁ??」

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