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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
序章 幽縁を辿って
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5/54

オクリモノ〜白い箱〜


 音もなく、何の主張もなく

 行き場を失った ソレらは

 ゆっくり ゆっくり 天から沈んできた


 あまりに無惨な姿で

 見るに耐え難い ガラクタ を

 わたしは 一個ずつ 拾い集めた

 

 大小様々な 十三個の オクリモノ

 真っ白の箱に 梱包し そっと蓋をした

 

 これから、気の遠くなる時間をかけて、埋めるだけなのに。

 ……矛盾に満ちた行動?

 いいえ、これはきっと——。


「いつか、巡り会うための道標」



 ***

 


 箱、箱、箱……

 

 箱。これを指定された場所に埋めるのが、わたしの仕事。

 箱。最初こそ戸惑ったけど、もう慣れたものだ。

 箱。埋めさえすれば、衣食住には困らないし、気の許せる仕事仲間もいる。

 箱。おかげで充実した日々を過ごせている。

 箱。やり甲斐すら感じてきたし、天職なのかもしれない。

 

『箱……残り四つ』

 

 軽い物から運んでいたから、残すは重い物ばかり。

 

 さて、どれから埋めようか?

 よし、今日はこれにしよう。

 なら、明日はこれにしよう。

 では、最後はこれにしよう。

 

 こうして手元に残ったのは、なんだか特別な箱。

 

 ちょうど胸に収まるくらいの寸法で、これだけ唯一、リボンが施されていた。

 これを埋めれば、ようやく終わる。いや……

 

 

 ——オワッテシマウ。

 

 

 いざ持ち上げるとソレは、見た目に反してずっしりとした重さがあった。

 

「ゴロッ……」

 

 ソレは箱の中で転がりまるで安定しない。

 

「ゴロン……、ゴトッ…………」

 

 まさか、生き物でも入っているのでは……? 

 そう疑いが頭を過ぎると、急に生々しい体温を感じた。

 ゾッと悪寒に身がすくみ、思わず手を離してしまう。

 

 

「ぐしゃり」


 

 耳を塞ぎたくなるような、水音混じりの嫌な音が、周囲に響き渡る。

 地面に容赦なく叩きつけられたせいで、箱は歪んでしまっていた。

 その弾みで生じた隙間から、少し中を覗いてみれば……丸い影のような物が見える。

 薄暗い箱の中で、ぼんやりとした輪郭のソレ。

 他とは違う、異様な存在感を放つ、この箱の中身。

 

 ——気にならない筈が、なかった。

 

 わたしは、一体何を埋めようとしていたのか?

 果たして、今まで何を埋めていたのか?

 どうして、なんの疑問も抱かず、『箱』なんて埋めていたのか?


 薄汚れたリボンを解き、凹んだ隙間に指を入り込ませ、容赦無く蓋をこじ開ける。

 先ほどの、ぐしゃりとした音の正体を、一刻も早く確かめたかった——。

 

 ……結論から言えば、中身は無事だった。傷一つない。

 想像していた、赤い液体が広がる惨状なんかとも程遠い。

 ただし箱から出てきたのは、一見何の変哲もない人形の——ある一部分だった。


 等身大の人間と同じ大きさで、今にも動き出しそうなほど良く出来た人形(にせもの)

 もちろん血の気はない。

 だからこそ、先程の体温も、ただの錯覚なのだ。

 そう、分かっているはずのに……震えが止まらない。


 ……何故なら。

 この嫌なほど精巧に作られた、きっと()()()()()()()()()()()()は、薄く目を開いた状態で、時を止められているのだ。 

 その瞳は、まだ心残りがあると言わんばかりに、無念さを宿している。

 

 

 一度知ってしまうと、引き返すしかない。

 知らなかった事には出来ない。

 

 ——忘れてしまうなんて、したくない。



 ***

 

 

 真っ青な大地には、綻びのような穴が空いている。

 それを塞ぐために、箱を埋めるよう頼まれた。

 不自然なほどよく目立つ、真っ白な箱を。

 

 かつて埋めた箱を掘り起こし始めると、仲間達が寄ってきた。

 

「わざわざ確かめる必要はないよ」

「思い出さない方が、辛くないのに」

「君はここにいる方が幸せになれるよ」


 彼らは口々に、耳触りの良い甘い言葉を投げかけ、わたしを引き止めようとする。

 しかしそれ以上の妨害はせずに、虚ろな瞳でただ突っ立っているだけ。

 

「教えて、ここは、なに?」

「…………」 

 

 いくら待っても、核心に迫る答えは返ってこない。

 ただこの問いかけ以降、能面の様な笑みを貼り付けた状態で、彼らは一切喋らなくなってしまった。


 きっと、核心に迫ることは、何も教えてくれないのだろう。

 それは自分で見つけ出さないと、意味がないのだ。

 

 ……やがて、計十二個の箱を、新たに掘り起こした。

 埋めてあったのは、これで全て。

 震える手で、中身を暴いていく。


 すると中からは、脚、胴体、腕など、大雑把に分断された——頭部以外の()()()()()が現れた。

 一つ一つ取り出し地面に置くと、それらは共鳴し合ったかの様に、一斉にカタカタと震え出す。

 半信半疑ではあったものの、本来あるべき場所に適した部位を近づけると、それらは自ら引っ付いていくのだ。

 ほどなくして、大小様々な全十三個の箱の中身から、一体の人形が完成した。

 

 あぁ……そうだ。嫌な予感はずっとしていた。

 顔を見ても、実感は得られなかったのに。

 皮肉にも、この()()()()()が、決め手となったのだ。

 

 ——これは、わたし? 



 




 





 


「……いいや、()()()()


 これはただの人形じゃない。

 (ユメビシ)の身体を模した、等身大の紛い物(マガイモノ)だ。


 どうして、こんなことを……?

 自分に酷似した人形がバラバラにされた上、それを本人に埋めさせるなんて……悪趣味が過ぎるだろう。

 いい加減、戻るべきなんだ。

 こんな場所で油を売ってる暇はない。

 

 ——間に合うだろうか?


「誰かを…………探して、いたのに」

 

 あぁ、眩暈がする。

 霧がかった様に、上手く思い出せない。

 

「……とにかく帰るんだ。元の場所に」

 

 たとえ行き着く先が、この悪夢より過酷な、現実だとしても——。

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