オクリモノ〜白い箱〜
音もなく、何の主張もなく
行き場を失った ソレらは
ゆっくり ゆっくり 天から沈んできた
あまりに無惨な姿で
見るに耐え難い ガラクタ を
わたしは 一個ずつ 拾い集めた
大小様々な 十三個の オクリモノ
真っ白の箱に 梱包し そっと蓋をした
これから、気の遠くなる時間をかけて、埋めるだけなのに。
……矛盾に満ちた行動?
いいえ、これはきっと——。
「いつか、巡り会うための道標」
***
箱、箱、箱……
箱。これを指定された場所に埋めるのが、わたしの仕事。
箱。最初こそ戸惑ったけど、もう慣れたものだ。
箱。埋めさえすれば、衣食住には困らないし、気の許せる仕事仲間もいる。
箱。おかげで充実した日々を過ごせている。
箱。やり甲斐すら感じてきたし、天職なのかもしれない。
『箱……残り四つ』
軽い物から運んでいたから、残すは重い物ばかり。
さて、どれから埋めようか?
よし、今日はこれにしよう。
なら、明日はこれにしよう。
では、最後はこれにしよう。
こうして手元に残ったのは、なんだか特別な箱。
ちょうど胸に収まるくらいの寸法で、これだけ唯一、リボンが施されていた。
これを埋めれば、ようやく終わる。いや……
——オワッテシマウ。
いざ持ち上げるとソレは、見た目に反してずっしりとした重さがあった。
「ゴロッ……」
ソレは箱の中で転がりまるで安定しない。
「ゴロン……、ゴトッ…………」
まさか、生き物でも入っているのでは……?
そう疑いが頭を過ぎると、急に生々しい体温を感じた。
ゾッと悪寒に身がすくみ、思わず手を離してしまう。
「ぐしゃり」
耳を塞ぎたくなるような、水音混じりの嫌な音が、周囲に響き渡る。
地面に容赦なく叩きつけられたせいで、箱は歪んでしまっていた。
その弾みで生じた隙間から、少し中を覗いてみれば……丸い影のような物が見える。
薄暗い箱の中で、ぼんやりとした輪郭のソレ。
他とは違う、異様な存在感を放つ、この箱の中身。
——気にならない筈が、なかった。
わたしは、一体何を埋めようとしていたのか?
果たして、今まで何を埋めていたのか?
どうして、なんの疑問も抱かず、『箱』なんて埋めていたのか?
薄汚れたリボンを解き、凹んだ隙間に指を入り込ませ、容赦無く蓋をこじ開ける。
先ほどの、ぐしゃりとした音の正体を、一刻も早く確かめたかった——。
……結論から言えば、中身は無事だった。傷一つない。
想像していた、赤い液体が広がる惨状なんかとも程遠い。
ただし箱から出てきたのは、一見何の変哲もない人形の——ある一部分だった。
等身大の人間と同じ大きさで、今にも動き出しそうなほど良く出来た人形。
もちろん血の気はない。
だからこそ、先程の体温も、ただの錯覚なのだ。
そう、分かっているはずのに……震えが止まらない。
……何故なら。
この嫌なほど精巧に作られた、きっと誰かを模したであろう頭部は、薄く目を開いた状態で、時を止められているのだ。
その瞳は、まだ心残りがあると言わんばかりに、無念さを宿している。
一度知ってしまうと、引き返すしかない。
知らなかった事には出来ない。
——忘れてしまうなんて、したくない。
***
真っ青な大地には、綻びのような穴が空いている。
それを塞ぐために、箱を埋めるよう頼まれた。
不自然なほどよく目立つ、真っ白な箱を。
かつて埋めた箱を掘り起こし始めると、仲間達が寄ってきた。
「わざわざ確かめる必要はないよ」
「思い出さない方が、辛くないのに」
「君はここにいる方が幸せになれるよ」
彼らは口々に、耳触りの良い甘い言葉を投げかけ、わたしを引き止めようとする。
しかしそれ以上の妨害はせずに、虚ろな瞳でただ突っ立っているだけ。
「教えて、ここは、なに?」
「…………」
いくら待っても、核心に迫る答えは返ってこない。
ただこの問いかけ以降、能面の様な笑みを貼り付けた状態で、彼らは一切喋らなくなってしまった。
きっと、核心に迫ることは、何も教えてくれないのだろう。
それは自分で見つけ出さないと、意味がないのだ。
……やがて、計十二個の箱を、新たに掘り起こした。
埋めてあったのは、これで全て。
震える手で、中身を暴いていく。
すると中からは、脚、胴体、腕など、大雑把に分断された——頭部以外の身体の部品が現れた。
一つ一つ取り出し地面に置くと、それらは共鳴し合ったかの様に、一斉にカタカタと震え出す。
半信半疑ではあったものの、本来あるべき場所に適した部位を近づけると、それらは自ら引っ付いていくのだ。
ほどなくして、大小様々な全十三個の箱の中身から、一体の人形が完成した。
あぁ……そうだ。嫌な予感はずっとしていた。
顔を見ても、実感は得られなかったのに。
皮肉にも、この異質な両手が、決め手となったのだ。
——これは、わたし?
「……いいや、俺の体だ」
これはただの人形じゃない。
俺の身体を模した、等身大の紛い物だ。
どうして、こんなことを……?
自分に酷似した人形がバラバラにされた上、それを本人に埋めさせるなんて……悪趣味が過ぎるだろう。
いい加減、戻るべきなんだ。
こんな場所で油を売ってる暇はない。
——間に合うだろうか?
「誰かを…………探して、いたのに」
あぁ、眩暈がする。
霧がかった様に、上手く思い出せない。
「……とにかく帰るんだ。元の場所に」
たとえ行き着く先が、この悪夢より過酷な、現実だとしても——。




