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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
第三章 非/日常編
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外からやってきた者(前編)

 

 それから10分としないうちに、ヨミトに連れ出されたユメビシ。

 二人が訪れたのは、商店街にあたる大通りであった。

 

 瞑之島は外周を囲うようにして山林――神域が広がり、こちらがシュンセイを始めとする茶室主人らの住まい。

 逆に、神域の範囲が及ばない島の中心部は一般区域となり、島民の殆どがこちらに身を寄せ合い生活をしている。

 大通り沿いに店が集中していることから、この通り周辺を便宜上商店街と括り呼ぶのが共通認識とされていた。

 

 相変わらず、賑やかな活気と得体の知れない妖しさが入り混じる、独特な熱気を肌で感じながら、ユメビシはそっと辺りを見渡す。

 ここ最近頻繁に足を運んでいた甲斐もあり、初日の様に奇異な目で見られることは無くなっていた。


「で、どこに向かってるんだ? 挨拶回りは昨日で済んだって話だろ」   

「そうなんだけどさ、何か忘れてる気がするんだよね……あ」


 突然歩みを止めたヨミトは、近くの店の軒先に入ってしまう。


「ここに用だったのか?」

「一応、避ける事をオススメしよう」 

「は……? なにを、」


 ――ズドドドドドドっ。

 

 察しの悪い俺は、その轟音が真正面から迫り来てるのに、もう避けきれない段階でやっと認識した。

 正体は自転車。

 その暴走車を操っている人物は、他の通行人なんてお構いなしといった具合に、二つの車輪から砂埃を発生させるほどの勢いを出している。

 あれが人力からなせる技なのか、目を疑いたくなった。

 

 ――いや、ぐずぐずしてたら、轢き殺されてしまう。

 俺は瞬時の判断で、飛び退けるための瞬発力より、受け流すための腕力を信じることにした。

 理想では、カゴを掴み一度受け止め、進行方向を横に逸らすつもりでいたのだ。

 ところが……予想に反して両者の力は拮抗し、最初の接触で自転車の後輪が上空に跳ねてしまう。

 結果的には、自転車側が完全停止する形で決着がついた。


「おおー! こりゃすごい」

「よく受け止めたねぇ」

 

 いつの間にか、道端に避けるなど、各々避難していた住民から拍手と歓声が沸き起こっていた。

 

「おー、いや凄いね。闘牛士を副業にしてみるかい?」

「他人事だと思って……いい気なもんだな!」

 

 呑気に安全地帯から出てきたヨミトは軽口を叩きつつも、自転車に跨ったままぐったりしている女の子を確認する。

 そして「あぁ、やっぱり」と呟くと、彼女の頬を数回ペチペチと鳴らした。

 

「オリィ、今日は一段と激しいじゃないか。それと、寝てていいのかい? まだ()()の途中だろう」 

「……そうだっ、配達!」 

 

 『配達』の言葉を聞いた瞬間、彼女は急激に覚醒した。

 ガバリっ、と音が出るほど勢いよく上体を起こし、目を白黒させる。

 

「……と、ぼくは何を……そして君は誰ですか?」

「オリィが轢き殺しかけたユメビシだよ」


 満面の笑みで、最悪の紹介をされてしまう。

 しかし反論の余地が見出せない程には、身の危険を感じたのは事実だった。

 そんな俺の反応とヨミトを交互に見て、事態を把握したらしい。

 オリィと呼ばれた彼女の瞳は、こぼれ落ちそうなほど大きく見開かれた。

 

「えぇ!? 大丈夫ですかユメビシくん、怪我とかは?」 

「いや、驚きはしたが、この通りなんともない」

「はへー、丈夫なんですね……でもでも、覚えてないとはいえ、とんだご迷惑を……すみません」

 

 ――覚えてない?

 そんなことがあり得るのだろうか……と、ヨミトと顔を見合わせる。


「ふむ、酒でも呑んだのかい?」

「やだなーヨミトくん。飲酒運転はほーりつ違反ですよ。なんというか……さっきまで意識がハッキリしてなかった、みたいな。今はシャキッとしてますけど」


 オリィは言いながらも、テキパキと荷台に取り付けられた大きなケースの中を確認している。

 配達と言っていたから、届け物があの中に入っているのかも知れない。


「壊れたりしてないか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。割れ物は今日扱ってないので。これは念の為、言わば義務なので!」   

「そうか、良かったよ。無理矢理止めた手前、もし破損してたら俺にも責任あるから」

「えぇー……轢きかけちゃったのに、いい人すぎ! そうだ、今度お詫びに届けたい荷があれば、ぼくが無料で請け負いますよ。その時は是非、牡丹飛脚(ぼたんひきゃく)のオリィまで〜では!」  


 そう言い残し、彼女は颯爽と去っていく。

 先程と比べれば、安全運転と呼べる落ち着いた走行で、元の賑わいを取り戻した大通りへ紛れていった。

 悪い子ではなさそうだが……台風のような子だった。


 「う〜〜〜〜ん、なんかこう、あと少しなんだけどなー」

   

 それはともかく、隣では嵐どころか、天変地異のような人物が何やら唸り声を上げている。

 ……嫌な予感がしてならない。

 

「オリィでしょ? 牡丹飛脚……大鳥居……神域……あぁ、そうか、神域ね! うんうん、それは名案」


 瞳を輝かせ、無邪気な子供のように声を弾ませるヨミト。

 数日一緒に過ごしても、これが意図的なのか、素なのか、正直よく分からない。

 銀髪の長い髪を揺らしながら笑う表情からは、年齢も性別すらも読み取るのは困難だ。

 第一、この男の思考回路を理解しようというのが、一種の傲慢だろう。

 

「……なにが、名案だって?」

  

 楽しげな表情から一変、今度はしっかり季楼庵のNo.2としての威厳をちらつかせ、中立者は宣言する。

 

「ユメビシを神域体験ツアーにご招待だ」  

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