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幽縁ノ季楼守  作者: 儚方ノ堂
断章 61年後の香調
3/29

消える物語(後編)


 この状況で首を突っ込むなんて、よほど正義感が強いのか、おせっかいなのか。

 

 全員が声の主を探すと、すぐそこの曲がり角に見知らぬ少年が立っていた。

 自信なさげで憂いた雰囲気は、面倒ごとに関わってしまった、という罪悪感に苛まれてるような表情からくる。

 本当……なんだって声をかけてきたんだろう?

 

 ――いや、それより……似ても似つかないのに、どうして。

 

 この不思議な少年は、更に奇妙なところがあった。

 彼からは、


 

 ……否、一番に行動を再開したのは、こちらの隙を見逃さなかった彼女の方。


「ジャ……マ、スルナ……!」

 

 少年めがけて武器を振り下ろすが、意外にも彼は受け止めてしまった。

 

「っと……なんだよ、この人」

 

 更に武器を軽々と取り上げ、容赦無く彼女の鳩尾(みぞおち)を蹴り飛ばし、二人の間に物理的な距離が生まれる。

 彼女はすぐには起き上がれないようで、地面に蹲り咽せていた。

 呆気に取られていると、彼はこちらを振り返り、声を上げた。

 

「おい、そこのあんたら! 逃げるなら早くしてくれよ」

「……聞かせて、何故助けてくれたの?」 

「いつもの悪い癖だ、気にしないでくれ」

「それなら……て、わっ、露命?!」


 突然、露命に抱き抱えられ変な声が出てしまう。

  

「栞恩。気付いてないようだが、もう限界だ。ここは彼に任せよう」

「でも、」

「俺は構わないから。……それよりあんた、消えかけてる」

「……え?」

 

 ここで初めて自分の体を確認する。

 先ほど貫通された腹部から、ハラハラと崩壊が始まっていたのだ。

 ……彼女の攻撃は、全くの無傷なはずがなかったらしく、露命の悲しそうな吐息が目に沁みる。

 

「この近くに『鞠月神社』という信頼出来る神社があるらしい。俺も行く途中なんだ。当てがないなら其処に行くといい」

「そうだな、先に行ってるよ……すまない」

「……ま、待って! 最後に名前、教えてくれない?」

「え?」

「私は、シオン」

「……ユメビシ、そう呼ばれてる」

「そっか……ありがとう、ユメビシ君」

 

 そのやり取りを皮切りに、露命は私を抱えたまま、この場を遠ざかる。

 私は見えなくなるまで、少年の背中を見ていた。

 

 ……彼は最後まで彼女を足止めしていたのだ。

 そんな義理なんてない、ただの通りすがりの筈なのに。

 少年は自身をユメビシと名乗った。

 

 当たり前だ、()()()のはずがない。

 なのにずっと後ろ髪を引かれてるのは、どうしようもなく彼に××の存在を感じてしまったからだ。

 それはなんの根拠もない、ただの違和感だった。


 

 ***

 

 

 知らないことが多すぎる。

 しかし残された時間はあまりにわずかで、知る術も、その意欲も、とうに無くなった。

 今更知ったところで、彼女の消失は免れない。

 

 それでも、望みがあるとすれば。

 皮肉にも……これまで幽閉されていた、あの場所しかなかったのだ。

 かつて栞恩を回復に導いた空間――だが、あそこにはもう、戻れない。

 栞恩が出ることを決めた際、役目を果たした様に消滅していくのを、この目で確認した。

 

 その上で、露命は来た道を引き返していた。

 少年に言われるまでもなく、()()()も、そして恐らく今も。

 

 ――我々は鞠月神社を経由したのだから。

 

 思えば、先程出てきた際に通った鳥居、あれは神社の敷地内にあったのだろう。

 どうやら境内の奥に位置する林を抜けたらしい。

 

 その道の途中で見覚えのある男と遭遇した。

 それは半世紀ぶりの再会だったが、見た目に変化が見られない。

 この男も……どうやら人間ではなかったらしい。

 

「おや。キミ達は……」

「……また栞恩を、捕らえますか?」

「ん? あぁ……いいんだ。そうか、コレの事だったのかなぁ。いやね、ボクはただ異変を感じて様子を見に来ただけなんだ。今更どうこうするつもりはないよ」

「……キクゴロウさんは、ご健在か?」

「死んだよ。キクはね、最期までキミ達二人の行方を秘密にしていたんだ。律儀な男だよね? ……だからボクも追求しない」

「そう、だったのか……」

「キクに代わって、せめてもの手向けだ。この先にちょっと特別な神域がある。そこで残りの時間を過ごすといい。大丈夫、()()()が許可しよう。ただし、どんな結末を辿るかは、分かりかねるけどね」

「それでも有難い」

「そう? ならよかったよ」

「……もう一つ頼まれて欲しい。もし、ユメビシと名乗る少年が此処を訪れたら、礼を伝えてくれないか」

「え、なんだって? ユメビシ?」

「知り合いか? 向かう途中らしかったが」

「あの子が、ねぇ……うんうん、興味深いな。そっちも任せてくれていいよ」


 こうして意外な人物の助力を得て、二人の長い旅路は終わりを告げようとしていた。


 ――61年。

 少年との邂逅の真相は、闇に葬られた。

 当事者の誰もが、気づけぬまま。


 こうして一つの物語は、伝わる手段を持たず消えてしまった。

 

 ……消えるはずだった。

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