第五話:ドワーフが来た!
「おおっ、そこにいたのか、リアム!」
そう怒鳴りながら、食堂の中をドスドスと歩いてきたのは、立派な顎髭を生やした年配の男だった。
背は低いけど、筋肉盛り盛りのがっしりした体つきだ。
「ドワーフ?」
ドワーフに会うのは初めてだけど、噂に聞いていたとおりの見た目だ。
肩には大きな金槌。太い腕には紋章のような入れ墨。顔が黒く汚れているけど、炭がついた手で顔をぬぐった感じだ。
きっと、この人は鍛冶職人なんだろう。ドワーフといえば鍛冶職人だしね。
このドワーフさんは、独りでここに来たわけじゃないみたいだ。
彼の後ろには同じような体格の小柄な男たちが、ぞろぞろ付いてきていて、僕の周りは、あっという間に髭と筋肉でいっぱいになった。
「おい、リアム、ワシらが作った装備一式の代金、払ってもらおうか!」
くっ……今度は借金か……師匠ときたら、まったく……。
どうやら、このドワーフのおじさんも、僕のことを勇者パーティの魔術師リアムだと思っているらしい。
これだけの人の目を欺ける僕の作った魔道具が誇らしいけどさ、師匠の面倒事が自動でくっついてくるんだよね……。
「おい、リアム! 王様から報奨金をもらったら、それで払うって約束だったよな? それなのに王都に行ったっきり戻ってこねえからよぉ、使い込んで逃げちまったんだと思ってたぜ?」
親父さんが一気にまくしたてるのに合わせて、後ろにいるドワーフたちも口々に叫ぶ。
「そうだ、そうだ!」
「ボルガン親方に金払え!」
「勇者の仲間のくせに、逃げんな!」
このドワーフの親父さんは、鍛冶屋のボルガン親方なんだろう。そして後ろにいるドワーフたちは、ボルガンさんとこの職人さんたちかな。
ボルガン親方は逃さねえぞとばかりに、ぐいっと顔を近づけてきた。
「おまえさんの注文には全部応えたよな? 色は全部、濃紺にしてくれ? 差し色はエンジ色にしろ? ワシはそのために材料をわざわざ取り寄せたんだ。どれだけ時間と金がかかったと思ってる!」
濃紺の杖か……確かに師匠好みの色だな。でも、あれ?
そういえば、師匠が家に帰ってきて、本棚の一番上にある本を長い杖の先で引っかけて取ろうとしてたな。結局、魔法で本は手元に引き寄せてたけど。
もしかして、あれがこのボルガン親方が作った杖じゃないのかな?
色も黒っぽかったし。
普段は身なりなんて気にしないくせに、装備品の色の組み合わせには妙にこだわるんだよね。
「全額とは言わねえ! 今ある分だけでも払ってもらおうか!」
「うあぁ、ボルガンさん、そんなに揺らさないで!」
ボルガン親方が僕の腕をつかんで、上下に揺さぶっているのに、ベテラン冒険者のハンクさんは腕組みをして、ゆったり構えている。助けて……。
「リアム、ボルガンの言う通りだ。いくら勇者パーティの一員だからってよぉ、買ったものの金を払わないのは良くねぇぞ?」
勇者カイルも僕を助ける気はないようだ。
「まさか、ボルガン親方の言う通り、報奨金を使い果たしたんじゃないだろう? 言っておくけど、お金なら貸さないよ?」
魔術師リアムに真の友はいないみたいだ。僕は、二人に責められながらも、なんとかボルガン親方の手を振りほどくことに成功したよ。
「払います、払いますから! はぁはぁ……ええとすみません。契約書みたいなものは……ありますか?」
僕がそう言うと、ボルガン親方がにらんできたけど、やがて腰につけた皮袋をごそごそと探り始め、折りたたんだ紙の束を出してきた。
「ほら、これを見ろ! ちゃんと品名も金額も書いてある! ついでにお前さんの署名もな!」
受け取って目を通してみる。確かに僕と同じ名前で、リアムと署名してある。でも、筆跡が僕じゃない。師匠の筆跡だ。
これでもう確定したね。僕の姿を借りて勇者パーティに潜り込んでいたのは師匠だ。
きっと、アビスゲートの探索を楽しんでいたんだろうな。
明細を見ると、杖だけじゃなくて、ほかの装備もまとめて作ってもらったようだ。でも、そのお値段が……。
「……高っ! あ、すみません。変なこと言っちゃって」
まずいまずい。思わず高いなんて言っちゃった。でも、これは本当にかなりの金額だ。
僕が冒険者ギルドの口座に預けているお金なら、なんとか払えそうだ。
……いや、待てよ。そもそも、師匠が自分で注文した物なんだから、師匠が払うのが当たり前だよね?
そうだ。僕が管理している師匠の口座から払おう。たぶん足りるはずだ。
ただ問題は、冒険者ギルドの窓口は、もう閉まってるんだよね。明日の朝まで、ボルガン親方には待ってもらわないといけない。
「お支払いはちゃんとします。ただ、受付がもう閉まっているので、明日の朝になってしまいますけど……」
「明日の朝だとぉ?」
「ひぃぃー! はい! 必ずお支払いしますから!」
ボルガン親方は腕を組んだまま、むう、と唸った。
その後ろのおじさんたちも、まだ納得していないらしい。まあ、当たり前だよね。これまで待たされたあげくに、また明日と言われたんだから。
「おい、リアム! お前、また逃げるんじゃねえだろうな?」
ボルガン親方が、僕の顔をじろりと睨みつけてくる。
「え? いえ、そんなつもりは……」
「信用できねえな……よし、決めた! 今晩は一晩中、お前さんを見張らせてもらうぜ。明日の朝、ギルドが開くまで、しっかり張り付かせてもらう!」
……ええっ!!
こんな怖そうなドワーフのおじさんに、一晩中見張られるの?
それはちょっと、いや、かなり怖いんですけど。
でも、向こうからすれば、代金を払うと言ったきり姿を消した相手が、また明日まで待ってくれと言っているわけだからね。信用できないのも仕方ないか。
「分かり……ました。明日の朝、冒険者ギルドの受付が開くまで、ご一緒させていただきます」
「おう。そうしてもらおうじゃねえか!」
ボルガン親方はふんっと鼻を鳴らした。
さて、どうしよう。ここはもう少し、機嫌を直してもらわないといけないな。




