第13話 料理人という存在
「……では」
アリアベルは静かに言う。
「次は、“どう食べるか”ですわね」
◇
港町は、すでに戦場だった。
漁師。
商人。
そして。
料理人。
「……呼ばれているな」
「間違いない」
「“あの方”が、調理を見る」
情報は一瞬で伝播する。
◇
「……アリアベル様」
レオニードが報告する。
「各地の料理人が、集結を開始しております」
「……そうですの?」
「はい」
一拍。
「“世界一の魚”を、世界一の料理として確立するため」
◇
「……面白そうですわね」
アリアベルは小さく笑う。
◇
臨時の調理場が設営される。
港の一角。
最高水準の設備。
最高水準の人材。
◇
「……では」
料理人の一人が前に出る。
「僭越ながら、調理を担当させていただきます」
その声には、覚悟があった。
◇
調理が始まる。
捌く。
火を入れる。
香りが立つ。
誰もが息を呑む。
◇
「……どうぞ」
一皿が差し出される。
完璧に近い。
見た目も。
香りも。
◇
「……いただきますわ」
アリアベルが一口。
静かに味わう。
そして。
「……美味しいですわね」
肯定。
だが。
◇
「……まだ、上がありますわね」
◇
「……っ」
料理人の空気が変わる。
◇
「……具体的には」
レオニードが即座に補足を求める。
「脂の活かし方が、少し弱いですわ」
一拍。
「火の入れ方を変えた方がよろしいのではなくて?」
完全に的確な指摘。
◇
「……承知しました」
料理人の目が変わる。
◇
再調理。
手順を変える。
火加減を変える。
時間を変える。
◇
「……どうぞ」
二皿目。
◇
「……」
一口。
そして。
「……こちらの方が、美味しいですわ」
確定。
◇
その瞬間。
周囲の料理人たちが、一斉に動く。
「今の手法を再現しろ!」
「温度は!?」
「時間は!?」
◇
「……記録しております」
レオニードが淡々と言う。
「調理法、確定しました」
◇
「……これで」
アリアベルは小さく頷く。
「完成ですわね」
◇
「……いえ」
レオニードが静かに言う。
「これは“基準”です」
一拍。
「ここから、競争が始まります」
◇
その日。
一つの魚に。
一つの料理法が与えられた。
◇
そして。
それは瞬時に世界へ広がる。
◇
「……次は」
アリアベルは立ち上がる。
「他の魚ですわね」
◇
終わらない。
基準は更新され続ける。
◇
少女は歩く。
味を求めて。
ただの興味で。
それでも。
世界はそれに従う。
それが、当たり前になっていた。




