表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも私は旅をする ~気づいたら唯一神になっていましたが、興味がないので世界を歩きます~  作者: 翡翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/19

第11話 釣りという行為



 北方の港町。


 朝は早い。


 海は静かで、空気は冷たい。


「……あちらですわね」


 アリアベルは、桟橋の先を見て言った。


 釣り人たちが並んでいる。


 糸を垂らし、静かに待つ。


「……釣り、でございますか」


 レオニードが確認する。


「ええ」


 一拍。


「自分で釣った方が、美味しいかもしれませんわ」


 純粋な発想だった。


 ◇


「……準備をいたします」


 レオニードが即座に動く。


 道具は揃う。


 最適な竿。


 最適な餌。


 最適な場所。


「……そこまでしなくても」


「必要最適化でございます」


 即答だった。


 ◇


 海辺。


 簡易の椅子。


 釣り竿。


「……こうですの?」


 アリアベルが糸を垂らす。


「はい」


 レオニードが静かに頷く。


「後は待つだけでございます」


「……待つ」


 アリアベルは少しだけ考える。


 そして。


「……新しいですわね」


 小さく微笑んだ。


 ◇


 数分後。


 周囲の釣り人たちは、ほとんど反応がない。


 静かな時間。


 だが。


 アリアベルの竿が、わずかに動いた。


「……?」


 ぴくり、と揺れる。


「……来ております」


 レオニードが即座に言う。


「……引けばよろしいの?」


「はい」


 ◇


 軽く引く。


 その瞬間。


 大きくしなる竿。


「……まあ」


 予想以上の手応え。


 ◇


「……強いですわね」


「大型です」


 レオニードが即答する。


「無理をせず、引き寄せてください」


 ◇


 数秒。


 いや、数十秒。


 そして。


 水面が弾ける。


 現れたのは――


「……大きいですわね」


 明らかに異常なサイズの魚。


 周囲の釣り人たちが、一斉に振り向く。


「……あれは」


「こんな場所にいる魚じゃないぞ」


「……いや、そもそも見たことがない」


 ◇


「……釣れましたわ」


 アリアベルは静かに言う。


 特に驚きもなく。


 ◇


「……記録対象です」


 レオニードが即座に判断する。


「既知の魚種ではありません」


「……そうですの?」


「はい」


 一拍。


「“発生”の可能性があります」


 ◇


「……不思議ですわね」


 アリアベルは首を傾げる。


 ◇


「……食べられますの?」


 核心だった。


「調理いたします」


 即答。


 ◇


 その場で簡易調理。


 火を通す。


 香りが立つ。


「……良い匂いですわね」


 ◇


 一口。


 静かに味わう。


 そして。


「……美味しいですわね」


 確定。


 ◇


 次の瞬間。


 海面が揺れる。


 ざわり、と。


 魚影が増える。


 明らかに。


 同種。


 ◇


「……」


 誰もが言葉を失う。


 ◇


「……アリアベル様」


 レオニードが静かに言う。


「現象が再現されました」


「そうですの?」


「はい」


 一拍。


「“美味しい”と評価された魚種が、増殖しています」


 ◇


「……便利ですわね」


 アリアベルは小さく笑う。


 本気でそう思っている。


 ◇


 その日。


 一つの魚が生まれた。


 一つの評価で。


 一つの世界基準が。


 確定した。


 ◇


 少女は釣る。


 ただの遊びとして。


 だが。


 その一手が。


 海を変える。


 それでも。


 本人は変わらない。


 ただ、魚を釣っているだけなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ