第一話 狩人のご注文-⑤
「さて……心の準備はよろしいかの?」
瞼の裏にある暗闇の中で聞こえる、師匠の声。
お披露目が外ということもあり、涼し気なそよ風が、俺の門出を祝福してくれるかのように頬を打つ。
そんな師匠の声に応えるよう、俺は、浮足立つ気持ちを抑えきれない声で答える。
「……はい!」
高鳴る胸の鼓動が早まる。
「……本当に、心の準備はよろしいかの……!?」
「……はい!!!」
心地よい風の音と、自らの心拍が跳ねる音。
漸く待ちわびた……今日のこの日!
「本当に、準備は――よろしいかの!?!?」
「……はい!!!!!」
俺は、ついに―――。
「……やっぱ辞めといた方が……」
「ッン長いわッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
―――キレた。
いや、まぁ、それはそうだろうよ……!
どれだけ待たせるんだこのオッサンは!!!!!!!!!
「いや……じゃが……」
じゃがも、いももない!!!
もういい!!! 勝手に見るからね!?!?
―――そんな、少しばかり不穏な始まりを迎えた俺は、師匠の声を無視してばっと目を開き……。
「これ……は……???」
そのまま固まった。
だって……まず俺の目に入ってきたのは、大きな……大きな――――。
「……いや……あの、これ……ですか……???」
俺のそんな問いに、師匠は静かに頷く。
「……ウム……そうじゃ……」
俺は、夢かもしれないと再度目を擦って、再びソレを見た。
しかし……。
「あれ? 夢じゃない……。あの~……これ、俺の体の倍の大きさがあるんですが……???」
そこにあったのは、先ほどと変わりない……超巨大な鉄塊だった。
いや、確かによく見ればこれは紛れもなく俺が設計した魔道具に違いないのだが、問題なのはその大きさ。
見上げるほどの鉄塊で……って、エ????? ナニコレ?????
「……ウウム……いや、なに……まぁ獣の骨を潰す魔道具じゃからのう……。お主が書いた設計図で製作するはずじゃったが、製作者の意向でこれぐらい大きくなってしまったんじゃろう……多分……」
いやいやいやいや待て待て。
設計図って、勝手に変えていいものなのか????
……っ、けど、確かに師匠の言う通りでもある……!
本来、人間の数倍もの大きさの体を持つ獣の骨を一気に砕くのだから、それ相応の大きさになるのは考えられたはずだった……!!
くそっ、依頼を受けれたのが楽しみすぎて失念していた……!!!
「っ、じゃあせめて、今から半分の大きさに作り直しは……」
「ウウム……無理じゃな……。たとえ今日日出来たとて、この魔道具を製作場からここまで運ぶのに職人が数十人は必要な上に、運ぶのにも少なくとも二日はかかっておる! 半分だとしても間に合わんじゃろう……。こうなれば、ワシの口八丁で……!」
「えっ!?!? これそんなに重いんですか!? ってか、師匠、口喧嘩めちゃくちゃ弱いじゃないで―――」
しかし時は無常。
例え想定外の出来事があったとはいえ、時間が止まるわけでも、巻き戻るわけでもない。
俺たちが悩みながら……というか、半分絶望しながら焦っていると、満面の笑みを浮かべた狩人のお客さんが俺たちの元に現れた。
「おや!? こんにちは! いや~朝早くからお仕事お疲れ様です! あ、私も思わず今日の受渡日が楽しみすぎて早く来すぎてしまいましたよ~! 実はですね、今日までにも庭に骨がたくさん増えてしまったんですが……いやはや、今日からようやくあれを処理できると思うと嬉しくて嬉しくってぇ!! 思わず浮足立って来ちゃったんですよねぇ~!!!! まっ、実際には浮いてないんですがね! っていうか、なんですかコレは?? こんなに大きな物も魔道具なんですか!? いや~こっれはすごいですねぇ~! 運び入れるのも大変そうだぁ……。あっ、それはさておき、それで……私の依頼した魔道具はどこにあるんでしょうか?」
「「……」」
更新は"不定期"【AM1時】更新予定ですが、プロローグ、第一話終了までは"毎日"投稿いたしますので、ぜひ、気になった方は読んでみてください!




